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後悔の先のオレンジ  作者: 落合鷹鶯
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オレンジ

 文化祭の係会が終わり、教室に戻った。自分の意思で文化祭実行委員になったのだが、まさかじゃんけんに負けて、放課後一人で係会に出る羽目になるとは…。今日は、一番早く授業が終わる曜日だったのに。もちろん、誰も教室には残っていない。軽く溜め息をつきながら、荷物をしようと机の中を見る。

「あれ?なんだこれ。」

 そこには、真っ白な封筒が入っていた。中には、手紙が入っていた。深く考えることなく広げて目を通していく。


『映真へ

 これを読んでいる時には、私はもうそこにはいないと思います。私は、今現在とても重い病気にかかっています。高1の秋に発覚し、その時はお医者さんから余命1年と言われていました。当時はまだ治療方法は見つかっておらず、残りの人生をどう生きていこうと模索しながらの毎日で、時には怖さから人に当たっていたかもしれないな、と今では少し思って反省しています。

つい最近、治療法が幸いにも見つかりました。神様が生きるチャンスを私に与えてくれたんだな、きっと。その治療は日本ではなくドイツでしか受けられないので、今は多分そこにいます。ただ、この手術は世界的にもほとんど例がなく、術後どうなるか分からないし、成功率も非常に低いです(ある意味では、医療界の実験台のようなものになってしまう)。うまくいけば、何か月もかからずにそちらに戻れるけど、次にいつ会えるか、そもそも会えるか分からないので、映真に伝えそびれたことを今、伝えます。

 私は、内田工業に入学した日、教室で映真に出会った時からずっと今まで、好きでした。「あ、この人は今まで出会った人とは違う」そう感じるものが映真にはあった。どんな時もなんだかんだで周りの様子を見てくれているし、すぐに気が付いていろいろと今までしてくれた。本当にありがとう。なので、この前失恋したというのは嘘です。結果的には本当になっちゃたけど。映真に好きな人がいたということが分かった時は、すごくショックで顔も見たくない、と思ってた。夏休みが明けてから、私が少し冷たいような態度をとってしまっても、何も気づかずにいつもと変わらず優しく接してくれたのは、ほんとはうれしかったよ。困らせてしまったと思う。ごめん。そして、ありがとう。

 今までにいろいろ辛いこととか悩ましいこともたくさんあったけど、映真に出会えて私は本当に幸せ者です。余命宣告をされてからずっと孤独だった私の心を救ってくれたのは、他でもない映真です。本当にありがとう。

 今度会ったら、ちゃんと言葉で直接伝えます。また、会えた時はよろしくお願いします。さよなら。

                                         中谷 美和』

 

 涙が目から零れ落ちてきた。手紙に落ちる。ボールペンで書いた字が滲んで、浮かび上がってくる。声なのか音なのか分からない音が体中から出ていく。教室に自分の声だけが静かに響いていく。気付いてやれなかった。なんで、気付いてやれなかったんだ。ましてや、あんな発言までして。俺は、本当に馬鹿だ。生まれて初めてこんなに取り返しのつかない後悔をした。美和との思い出が頭の中を駆け巡る。あの時の笑顔も少し怒ったような顔も、全てその裏には悲しみや不安が隠れてたんだ。

 震えた手で手紙を強く握りしめた。封筒の中に、他のものが入っていたことに気付く。小さめの紙にオレンジ色のペンで書かれていた。

『PS.ドイツにせっかく行くから、ついでにスペイン産のオレンジを映真に送るね。食べてね。』

 少し口元が緩んだ気がした。美和らしいな、こういうところは。窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込む。この光に包み込まれたような少し温かな気持ちになった。ありがとう。また、逢えたらいいね。

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