3話
鬼が島が見えました。
「どうやって行くんだよ」
鬼が島までは見えているけど海に阻まれているし、船は、この巨大生物を連れて乗るには無理があり過ぎた。
「空でしょ」
確かに、それで俺たちはいけるけど、この巨大犬は?
「犬だけ泳いで行けばいいんじゃない?」
「逃げ出さない?」
「そこは俺が乗ってくよ」
そんな話をしていると・・・
「じゃあ俺たち空から行けばいいんですよね」
バッサバッサと怪鳥がラーメンが先に行ってしまいました。
「・・・一人くらい犬に乗れるかな?」
「・・・進化しても猿か・・・」
「くぅぅんハッハッハッハッ・・・」
犬は尻尾を振っている。
桃太郎たちが島に着くと、すでに門の奥から鬼たちの逃げ惑う声と悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?この見たことない怪物は!?」
「桃太郎が空から来たぞ~」
中では、すでに桃太郎が暴れているらしい。
「もうちょっとそっとしておこうか?」
赤玉と桃太郎と犬はしばらく外で待つことにしました。
「は~はっはっはっ、我こそは日本一の桃太郎ぞ~!!!」
中から桃太郎になったラーメンの声が聞こえる。
「おい、俺たちも行くぞ」
「そうだな、行け!!!」
「キャン!」
赤玉の声に反応して犬が門をブチ破った。
「あっ・・・」
ラーメンがこちらを見て目を伏せた。
「なあ桃太郎どうしたんだい、目を伏せてさっ!!」
ラーメンの肩に手をかけながら言うと、ラーメンの体がビクッとする。
「あっあの、もう来ないかと思って・・・」
「なんか最初の方から桃太郎だって言ってた気がするけど~?」
「すっすみません、最初は桃太郎一行だぞって言ってたんですけど、つい『一行』ってつけるのが面倒になっちゃって・・・はい」
「ああん!?」
バシッとラーメンの肩を叩く桃太郎
「まあまあ、雑魚は粗方片付いてるし、俺たちは親玉に行こうか」
「なんか犬と怪鳥で俺たちがいなくても、なんとかなる気がする。」
「雑魚だけならな」
大人二人分の御大層な大扉が存在していました。
「親玉の攻撃は、犬や雉みたいに的がデカいと不利になる。」
桃太郎が扉を開くと、そこに2m50㎝程度の鬼がいました。
「デカいね・・・むしろ犬の方がいい気がするけど?」
「犬は邪魔されない様に門番だな」
犬を外に出して中に二人で残る。
「よく来たな蛮族ども」
「蛮族はお前たちだろ?」
桃太郎は蛮族と言われてムッとしました。
「牛や犬を道具にするなど、命を貶める悪の所業、人間は許されるべきではない!!」
「うるせぇ」
桃太郎はいきなり切りつけました。
話には聞く耳は持ちません。
「動物は、みんな自分達の理屈で生きてんだ、鬼の理屈で人間を語るな!!」
鬼は右足から血を流しながら、立ち上がりました。
「やはり相容れぬか・・・」
親玉は仕方ないといった様子で、2mほどの金棒を片手で振り回してきた。
「わっと」
桃太郎はしゃがんでかわしました。
「今の攻撃も犬や雉なら当たっていた。」
桃太郎は赤玉の方に見た。
「そうかもな・・・」
そして同時に理解したことがある。
当たればすべてひっくり返るほどの威力のある一撃だと・・・
桃太郎は、親玉の攻撃を受けることなく、ひたすらにかわし続けた。
しかし、それも長くは続かなかった。
「グッ・・・!!」
ガキーンと金属が激しくぶつかる音とともに、桃太郎が弾け飛びました。
「左の肩が脱臼しちゃったよ」
なんとか刀で受けましたが、実は左手首も骨折していました。
「おい、フワフワしてないで、何とかなんねぇのかよ」
「あるよ、お前の体は元々俺のためのものだ」
「だから・・・」
桃太郎は、攻撃をかわしながら、覚悟を決めていた。
「俺が、お前の身体を乗っ取る」
「それで真桃太郎ってわけだ・・・」
「わかっていたはずだ・・・」
攻撃をかわしながら答える。
「こい、どの道死ぬなら、その方がましだ・・・なぜなら」
「言われなくても無理矢理乗っ取るさ・・・なぜなら」
『それが桃太郎だからだ!』
桃太郎の中に赤玉が消えていく、それと同時に二人の意識が完全に交わり、本来の力が鬼に対する強烈な殺意と共にもたらされる。
「そうか俺たちは、一人の人間なのだから・・・」
だから決して、俺たちは・・・俺は消えない!!
「最初から一人で何をごちゃごちゃ言っている!!!」
ガキーンという金属音とともに、金棒を受け止めた。
「ごめんな、脳内フレンドが消えたから焦っちゃったよwww」
そして、つばぜり合いを避け受け流しながら続ける。
「ごめんな、お前、威力はすごいけど技はないな」
身をひるがえしながら一撃を切り込む。
「ぐわぁぁ!!」
「ごめんな、ここからは一方的な殺戮となりまーすwww」
そこからは確かに一方的な展開だった、親玉も頑張ったが、真桃太郎の主人公補正の前にはどうする事も出来ませんでした。
ドーンと音とともに、鬼の親玉の首を持った桃太郎が出てきました。
「おい、お前ら・・・」
桃太郎の低いつぶやきに、膠着状態の鬼や猿たちが凍りつきました。
「ごめんな、統べての鬼を一万回殺すぞ・・・」
それは、カタストロフィーな惨劇でした。
「ごめんな、金銀財宝は俺のもんだ、持ち主に返すことなんてねぇ!!」
肉片が無くなるほどの暴力に鬼は滅びました。
「ごめん・・・なっ・・・」
鬼が滅びた後
金銀財宝を集めていると、お姫様が囚われているのを見つけました。
「私は人間の世に嫌気がさしました。あの屋敷には戻りません。」
桃太郎は言いました。
「帰してもらえると思ってるの?戦利品が生意気言うな」
桃太郎はお姫様を牢屋から引きず・・・出してあげました。
桃太郎は酒池肉林しながら家に帰りました。
「いや~~~!!」
そういいながら満更でもありません。
「まだ猿と兄弟になる気はない」
桃太郎は、そう言いながらも家に着くころにはスッカリ飽きていました。
「猿にあとは任すよ、飽き・・・家に帰してやんな」
猿のテクニックは桃太郎よりも進化していました。
「はぁ、ふぅ、おお桃太郎やお帰り」
息を整えながら、お爺さんが出迎えます。
「紅は?」
縁側に座っている紅は、着物がむっちゃ乱れてました。
そして猿はお姫様とさるし、雉は鍋になり、犬は進化の実を食べすぎて人間っぽくなり、後の総理大臣『犬養毅』の先祖となりました。
それから月日は流れ一年後・・・
「俺は、どうしたらいいんだろうな」
鬼がいなくなり、全ての存在意義を失った桃太郎は悩んでいました。
「財宝もあるし、あの二人は働き者だし・・・」
桃太郎は何もしなくても不自由なく暮らせましたが、何も満たせませんでした。
「桃太郎や紅が・・・」
お爺さんに呼ばれて、あわてて家に帰ると・・・
「桃太郎・・・お兄さんになるんだよ」
お婆さんはお腹を撫でていました。
「おめでとう」
虚ろにそう答えながら、桃太郎は、また外に出て行きました。
そうか、あのお腹の子こそが、二人が本当に授かるべき命、俺は不自然な存在なんだ、俺は、不自然な存在だから、目的もなく生にも努力できず、こんな無駄な存在の消費をしているんだろう。
桃太郎は気づきました。鬼退治が終われば、その為の存在だった自分には、この世界に居場所を感じることが出来ないのだと・・・そう、例え居場所があったとしても・・・
「なら、俺はどうする・・・」
カルマ無き自由な世界は一人の男には手におえないものでした。
エピローグ
「おぎゃーおぎゃー」
紅には元気な男の赤ちゃんが生まれました。
「おおでかした、元気な赤ちゃんじゃ~」
二人は大はしゃぎです。
「おめでとう。」
桃太郎は赤ちゃんを覗き込みながら、『自分がお兄ちゃんだよ』とは言えないと思いました。
そして
「じゃあ、僕は旅に出ます。もう帰ってくることもないでしょう。」
「本当に行くのかい?」
「お爺さん、やはり僕は普通の子としてやってはいけません」
あれから幾度か話し合いをしていたので、二人は多く語りません。
「桃太郎や、あなたは紅の子供ですからね」
ハニカミながら軽く頭を下げた。
「それじゃあ」
桃太郎はそういうと、振り返らずに家を後にしました。
「俺はあの桃を見つけて、生まれる前に戻る!そして、また意義を持って生き返る日を待つとしよう。」
その後、桃太郎がどうなったかは…