中編
あれから優秀な家庭教師によってディアーナは最新の教育を受け、奇怪な笑い声や縦ロールは止めた。
あれらは老女のする事だと理解し、今では彼女にとって黒歴史のようだ。
ディアーナを見ろ。高貴で美しく愛らしい令嬢になったろう?
何だその顔は。お前は俺が死ぬまであのトンチキな笑い声とドリルを側で見続けろと言うのか?
嫌がっているのを無理強いしたわけじゃない。そうなるように誘導した結果、俺好みの女になっただけだ。
それにな、言いたい事も言えず我慢を強いる生活をさせ続けたらどうなると思う?己より下と判断した者に感情の捌け口が向けられらるぞ。
放置しておけば立派な悪役令嬢の誕生だ。
公爵やディアーナの両親はそれを分からずに…何だこれが気になるのか?これは、まあ、俺の側近候補と言われている連中の親からの礼状とクレームといったところだな。
あいつらは己の悩みは他者に理解されないとウジウジと自分の殻に閉じ籠った結果ヒロインに付け込まれる単細胞なのでな、そんな物は平民でも抱える悩みだと夏期休暇中に教えてやったんだ。
王家御用達の宝飾、鍛冶、防具、硝子細工の職人の跡取りと目されている者…男だけでは偏るので針子や服飾デザイナー…まあ色々だ。
偉大な先駆者を越えようと日々研鑽する一方で、独自の趣味を持つ余裕のある生活に感銘を受けたようだった。
ディアーナの兄である公爵子息は辣腕と名高い祖父のようになれないと悩んでいたが、職人の子女達と触れ合った事によって、己以外にも似たような悩みを持つ者がいると理解し、以前のように塞ぎこみ他者を受け付けないという姿勢は改善されたようだが、レース職人の作品を見て何やら衝撃を受けたらしくてな…。
何者にも汚されていない純白な、机上の空論ではなく神のように創造できる究極の美があると感銘を受けて暇さえあればレース編みをするようになったそうだ。
宮廷魔術師長の子息は女顔で同年代の者より華奢で内気で言いたい事を思うように言えない、少々コミュ障気味なので似たような魔術師の子女を紹介してやったら明るくなり、色々と影響を受けたらしい。
「僕の嫁はマジカル☆プリンセス♡ミレーヌたんしかいないンゴ。ホムンクルスでミレーヌたんを創るお!」「人間の女は言うこときかないし老けるから必要ないンゴ☆デュフフフフフ」と研究室に籠もるようになったそうだ。
騎士団団長の子息は頭脳明晰な兄に比べて自分は頭の出来が悪いと悩んでいたので、少しでもやる気が出るようにと若くて美人で優秀な文官を派遣したんだが…
お前は幼少の頃同じ間違いを繰り返したり、反抗的な態度をとると家庭教師に鞭で手を叩かれた事はなかったか?
剣を握るのに支障が出ないように背中を叩いていたそうだが、あまり効果がなかったので馬用の鞭で叩くようにした所、なぜか「わたくしのような下賤な犬は鞭で叩いて罵って下さい女王様あああぁぁぁぁーーー!ハァハァ」と新世界の扉が開いたそうだ。
無表情で冷徹に罵り鞭を振るう女王様が理想の女性だと先日鼻息荒く告白されてドン引きしたがな。
大商人の息子と学園の教師は知らん。放置だ。俺以外の攻略対象全員がいないとなると無関係な上級貴族の子息が餌食にされるかもしれんし、あいつらならヒロインの餌食になろうと問題ない。
いくらでも代わりがいる存在に気を配る必要はないだろう?
俺は大丈夫なのかだと?
前世と今世含め、己がひねくれ者というのは自覚ある。綺麗事しか言わないヒロインは何というか……胡散臭い存在で気味が悪いとしか思えん。
気味が悪いしイライラする…これはどう表現すればいいのか分からんな。
純粋な存在はある意味異色で理解出来るようで、出来ない。なりたいけど、なりたくない存在やもしれん。
気にするな。俺も自分の気持ちが理解しきれない。
パツキンドリル=金髪ドリル