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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陰下れば陽昇る

わたしは今からキミ達に新しい演目を捧げよう

ぼくは今からアナタ達に新しい演目を捧げよう


アナタ達はこれを見て何を思うのかな? 

キミ達はそれを聴いて何を感じるのかな? 


キミ達はいつ気づくのかな?この演目の醜悪さに

アナタ達はどこで気づくのかな?この演目の愚かさに


偽善 欺瞞 絶望 快楽 情熱 執念 ……

純悪 疑念 拒絶 苦痛 切望 優越 ……


まぁ、色々あるけれど

ま、様々なのだけれど


アナタ達はいつ狂うのかな? 

キミ達はどこでダメになるのかな? 


いつでもいいけれど

ささいなことだから


ゆっくり楽しくダメになって下さい

せいぜい可笑しく狂って下さい


ところで右の子

なぁに?左の子


ぼくはぼく?それともわたし?

今更どうでもいいでしょ。


些細な事よ。

そんなモノは後付けなのだから


それもそうだ

それもそうね


くるくるくるくる代わって

ぐるぐるぐるぐる変わるもの


どうせ明日は♪

スプラッタ♪


さぁさぁ御客人

さぁさぁ御客様


始まりますは一匹の獣の物語

始まりますは成り損ないの物語


 山の麓からでも見える大きな桜の樹が特徴の山の頂にたたずむ古くからある大きな神社の境内には満開になったばかりの桜を見に地元も者から観光客まで多くの人が居た。その中、墨色の髪、藤紫色の瞳を持ち、桜柄の被衣に狩衣を纏う者が一人、その者の周りは何故か人がおらず、周囲の者達もそれに気づいた様子がない。

 その者が進む先には一人のご老人と一人の巫女服の女性。気兼ねなく話せる所までくると


「やっほ。おじいちゃん」

「久方振りだな。夜陰。百五十年ぶりか」

「……だから今は冬夏だって。何回言えばいいのさ……。それに百四十年だよ」


冬夏と名乗った者が呆れた様子で返す。


「百六十三年ですよ」

「「ゑ? 」」


今度は巫女服の女性が呆れた様子で突っ込んだ。

冬夏はしばらく思い出すかの様に唸ると


「そう言えば、今回はそれぞれの滞在期間がいつもと違ったんだった」


冬夏は納得の声を上げた。


「今回はどれ位の間、ここに居るんだ? 」

「そうだなぁ、気分によりけりだけど五、六年ぐらいだと思う」

「何か面白い事があれば教えてくれ」

「それは勿論」


目を輝かせて答える冬夏。


「最近は何かあったの?」

「そうだな……、中々咲かなかった桜が咲いたぐらいか」

「ちょっと時期遅れだよね。そう言えば」

「コイツもそろそろ還る頃合いなんだろうな。今回も開花の一族の力のおかげでやっとだったからな」


しみじみと老人が語る。


「来たの? アレが? 本当に?」

「団体サマで来たんじゃないさ。はぐれたから追っかけているって言ってたがどうだろうねぇ」

「へー。もう少し早く来れば良かったな」

「来なくて正解だとおもうがな」

「じゃあ行くよ。出る時には頼んだよ」

「それは良いがお前……あぁ、いや何でもない。了解した」

「ありがと」


冬夏はどこか淋しそうに笑うと踵を返して歩いていった。



「せめてここにいる間だけでも楽になっていてくれたら良いんだがな」


老人はそう一人ごちた。




    おじいちゃんと別れて途中で買った団子を食べながら毎回この街に来ると泊まる宿へ歩いていると、


「お? おお!冬夏じゃないか!久しいなァ!」

「久しぶりだね。陽太さん」


目的の宿を一人で切り盛りしている猫又の陽太さんに会った。彼女とは彼女が宿を始める時に知り合ったから中々に長い付き合いだ。


「今、一室空いていますか?」

「どんなに客が来ても冬夏の為に一室は空けてあるから大丈夫だよ」

「えぇ……」

「冬夏にはお世話になったからね」


困惑する私にウィンクを送ってくる陽太さん。

そんな感じで色々話していたら宿のある路地まで来た。

   

    

二時間後に夕餉と言って陽太さんが厨房に入って行ったので、借りた部屋の鍵で部屋に入って寛がせてもらう事にする。




    ―翌日―

昨日の夕餉と今日の朝餉の時にここ最近の出来事を聞いていて、一番興味を惹かれたのが『ここ1、二ヶ月で太陽の力が弱くなっている』と言う情報だ。

その影響でこの地域下で陰の気を持った妖の類が力を強めているらしく、かなり危険な状態なんだそう。


「少しお時間よろしいでしょうか」

「なんでしょうか」


目の前に立った男の人が話しかけてきた。凄く驚いたけれど、それを顔に出さずに返答した。……出来ているよね?


「実は、貴方に折り入って御願いがあるのです」


何やら異形のモノと複数繫がっている様だが、この男性は一体何者なのだろうか? 私だって妖の端くれだから人間に負けるつもりはないけれど、繫がっているモノが一斉に襲って来るのならダメかもしれない。


案内されたのは


「寺子屋、ですか?」

「似たような物です」


男性に集まって来た子ども達を近くで見て理解した。この人が噂の子どもに術を教える風変りな妖術師とやらだ。名前はなんだったか。


「あ、申し遅れていました。私、清流と申します」

「格好いい名前ですね」


これ朝にも言ったな。そういえば。


「ありがとうございます。それで貴女は冬夏さんですよね」

「はい。そうですけど、どちらで私の事をお知りになったので?」


私も名乗り忘れていたけれど気にしない。気にしない。


「様々な方から貴女の事を聞かされていまして、前々から気になっていたのですよ」


ほぅ。様々な方、とな。清流さんは異形のモノとも良い関係を築けている様だしソッチ方面含めると心当たりが多すぎますねぇ。まぁ別に口止めしていないし、したいわけでも無いけど……。もう良いや流そう。うん。


「それで、頼み事とは?」

「ああ、実はですね」


子ども達に聞かれない様にと奥に通される。

まぁ、うん。私の出来る限りで要約すると、子ども達の式神の様なモノ(正確には違うらしい)を少し前に召喚したらしいのだけれど、本来は何年、何十年もかけて育てていくモノだから、今は大きさが大きい方が小さい方より強くなっているらしい。それで、大きい式神を持つ子が我が物顔になるのは良いのだが、小さい式神を持つ子が弱気になったり式神を低く見るのは式神が術師を喰らってしまう可能性があるそう。

だから、大きさが全てでは無い。と言う事を教える模擬試合を私に依頼したいそう。清流さん一人ですると、ワザと大きい方を負かしたと言われるだろう。とも。

ともかく、私は模擬試合をする事になった。


私が訓練場(と言うか庭なのだけれど)で準備していると、清流さんが子ども達に模擬試合の事を伝えたようで、子ども達が縁側に座り始めた。


「それで、私は何と戦えば良いのです? 」

「あえて言うなら土人形ですかね」


 清流さんはそう言うと懐から小指の爪程度の大きさの容器を地面に埋めて、大きく下がった。え? そんなに下がるの? そんなに大きい? 金剛力士像とか出てくる感じ? 大きな音を立てて地面が隆起して現れたのは、大きな猪だった。ナニコレ。コレが走った風圧で寺子屋が吹き飛びそうな力強さが見てとれるのだけれど……。

 風変りな武器の出し方で子ども達を湧かせようと思っていたのに、こんなの先に出されたら恥ずかしいじゃん。大して凄く無いじゃん!

清流さんには伝えているから私の準備が終わるまで待っていてくれている。ただ、あの清流さんの顔は見た事がある。一見いつも通りの顔だけれど、悪戯が成功した笑いを最大限に我慢している時の顔だ!


ぐぬぬ……。子ども達を待たせるのもいけないので予め地面に描いていた陣を踏んで妖力を流し込む。すると、陣が輝き柱状に地面がせり上がる。それは、私の腰より少し上の高さまで来て止まった。

柱の上部に手を持っていくと、そこが弾けて柄頭から鍔までが現れる。柄糸は藍色で目釘は黒。柄頭は金で鍔は黒。それを掴んで真上に引き抜く。手元でクルリと回して持ち直してから構える。


「面白いですね。その場で創るのですか」


清流さんが訊いてきた。


「私は我流でね。剣術。なんて名乗るのも烏滸がましい戦い方をするのさ。だから私の戦い方に合った物を、ね。本来の美しい戦い方ではなく、私のはみっともなく打ち合う戦いさ」


妖力とか流し込めば強度とか増すし。この製法だと。


「なるほど」


清流さんはそう言うと先程も見た小さな容器を庭の隅へ落した。



――――――――――――ブンッ



 結界か。これで結界を破壊しない限り庭の外には被害が出ないってワケか。にしても人畜無害そうな顔をして怖い術を使うものだ。結界の中と外で層が違うじゃないか。下手に結界を割ったら空間と空間の狭間に落っこちて二度と返ってはこれないだろうなァ。ひぇ。


 何の前触れもなく肉塊(いや土塊? )が突っ込んでくる。私は、そこそこの妖怪だから捉えられない程ではないが、人間、それも子どもなら絶対に見えてないだろう。手加減はしていないと思い込ませる為なのだろうが、初手がコレとは私を信頼しすぎではなかろうか。一体、誰から何を吹き込まれたのやら。取り敢えず、横によけて通り過ぎる時に一太刀。


「疾ッ」


――堅い。ふむ、清流さんは経験を積んだ小さいモノでも勝てると言う事を教えたら、大きいモノは最終的に弱くなると思い込まれるのを防ぎたいご様子。だから私に術を使わない様に頼んで、妖怪の怪力でも耐えられる装甲を持ったコイツをけしかけて来たのか。最後は動力源切れで猪が倒れる。が理想なのだろうね。小さい=弱いを覆すだけなら十分だろう。だけどまぁ、付き合う義理は無いよね。各々の妖怪の持つ『能力』や戦いの『極地』は『術』とは関係が無いのだから使っても大丈夫。清流さんは察してくれると思って言わなかったのだろうけど、ちゃんと言わないとサ。言葉足らずは罪だよ。私みたいな悪い妖怪は言葉の抜け道を狙って突いてくるのだから。

 二、三度、突進を躱して一太刀を浴びせる事を繰り返すと、猪がピタリと止まった。すると大空に跳んだ。


「ハァ⁉」


それは高く高く高く黒ゴマより小さく見える様になる程に。目で追っていくと、猪の後ろにあった雲から太陽が見えてきた。思わず目を瞑ると、



――――――ゾクッ―――――――――



 途轍もない寒気がし、咄嗟に後ろへ跳ぶと、ナニカがさっきまで立っていた場所へ落下して来た。聞いた事も無い衝突音が止むと空から先程までではないけれど大きな爆発音が降って来た。けれど空には何もなく。在るモノは、未だ止まぬ砂煙の中から跳んでくる物体のみ。今のは肝が冷えた。まさかあんなに高くから一瞬にして落ちてくるなんて、土から出た猪なれど、妖術師が生み出したモノ。術の一つや二つ扱えたって不思議ではない。どんな技を魅せてくれるのか気になるけれど、ここで仕留めさせてもらおう。清流さんには悪いけれどね。

突っ込んで来る猪の顎を全力で蹴り上げる。足が砕けそうになる感覚とか初めてだよ。猪の悲鳴を無視して大きく下がる、ってかコイツ土製なのに叫ぶのか。

刀身の鍔に一番近い所に右手を当てて、切っ先は猪へ。一瞬溜めて、


「―――――宿れ。【猪】―――――」


右手を切っ先の方へと移動させていき、刀身は薄い赤にほんのり発光する。



ギシリ―――



その場が、空気が軋みを上げた。

殺意や敵意とはまた違うナニカ。

これが本気のモノであれば心の臓が凍り付くような威圧。

そして、猪目掛けて突進。


「破ァ! 」


ズ、ドンッ……


猪の腹部にばっちり刺さった刀身に


「破ぜろ。静かに、眠れ」


と囁いて下がる。私の言葉通りに猪ごと刀身が爆ぜた。


「ふぅ」



「まさか業宿しとは……恐れ入りました」


清流さんはそう言った。

   

「アレはそんな可愛い代物じゃありませんよ」

「原型の方ですか」

「今どき物知りですね。ってそうか清流さんはお友達が多いみたいですまんね」

「やっぱり貴女達には分かるモノなのですかね? 」

「さぁ? 私は見えるタチだけど他がどうかは」


 清流さんと話していたら男の子が一人、私の下へ駆けて来た。興奮した子ども達の話し合いは未だ続いているようだけど、どうしたのだろうか。


「あの、その、えっと、す、凄かった! あ、です」


可愛い。思わずニヤけてしまう。


「ありがとう」


気が付けば頭を撫でていた。


「ぼく、コイツと一緒に強くなるから! 見ていてね! 」


男の子は、自身の左肩に乗っている烏の式神を指して意気込むのを見て可愛いなぁ。と思っていると、その式神に違和感を覚える。


「その子、ちょっと見せてくれる? 」


「うん。いいよ」


式神は驚いたのか、私を嫌ったのか、飛んで……あッ。

 

 清流さんの方をバッと見ると清流さんは苦笑いだった。時間が経てば直ぐに分かる事だし、清流さんなら喰う前に対処出来るだろうから、随分と熱心に教育しているのだな。と感心していたけれど、成程。そうする必要があったのか。この男の子は間違いなく大物になるね。こんなに小さな頃から、〈三本足の〉烏と契約しているだなんて。

                              (休幕)



どうしたんだい? 御客様

どうかしたのですか? 御客人


まだ1幕目。

1回目の休憩ですよ?

   

自分は迷い込んだ? 

お金を払っていない?


ハハハ優しいね御客人

律儀だね御客様


でもまぁ去るモノは追わないよ

我々は愚者だけを食べますから


ええ賢者は

はい賢きモノは食さないのです


無事に家に帰りたかったら

この場所から真っ直ぐに走りなさい


最近、外では新しい周期に入ったらしいじゃないか

一定期間ごとに区切る君たちは正しいよ


狂わないようにする為にはね

おかしくならないようになる為にはね


我々二人は語る速さを変えられはしないから

せめて願うぐらいはしよう


視覚に惑わされないで

自分を強く持って


二度と迷い込まない様にも祈っておくよ

どうか健全にね

  

ここでの事は全て忘れるんだ

いいね? 分かったね? 


さぁ急げ!

…………


…………

…………


…………

…………


逃げ切れるかな? 

どうだろうね

  

そろそろ続きの時間だ

あぁ……


我々が祈るなど烏滸がましいのかも知れない

我々が願うなど許されないのかも知れない


だけど―――

けれど―――


あのヒトを

あの人間を


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