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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅴ.ホラー月間〈Jan.〉

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Ⅴー6

 先生は、彼女を車の後部座席に、わたしを助手席にエスコートした。

 車内では一切会話もなく、気まずい雰囲気のままマンションに着いた。部屋に入ると先生はマスクと眼鏡を外し、彼女をソファーに座らせた。

 桐原さんの視線は、ずっとわたしではなく先生に向いている。

 わたしは先生に断り、キッチンでお茶を淹れた。


 彼女と彼女の向かいに座った先生に紅茶を出して、わたしは離れたところで二人を見ていた。

「ふみさんも座ってください」

 先生が言った。

 完璧……だった。理央さんにしか思えない。声も、いつもより少し低いかなという程度で、今の話し方だと聞き分けるのさえ困難だ。

 わたしは、前に理央さんが座っていたインテリア風のお洒落な緑の椅子に座った。



「何が目的ですか?」

 先生は、桐原さんにそう切り出した。

「……よく私だって、気付きましたね。まあ、監視させていた古杉さんが見つかってしまった時点で、時間の問題かなとは思っていましたけど」

「見つかっても構わないと思っていたのでしょう? これからどうしたいんですか?」

 先生は最初の質問に戻った。

「どうって!! 手紙に書いた通りです。茅野さんが理央様に近づくのが許せないんです。二人は、付き合っているんですよね? すぐに別れて、それでもう二度と会わないでほしい!! ただそれだけです!!」

 桐原さんはそう言って、ようやくわたしを見た。

 いつもの語尾を伸ばした可愛らしい話し方ではない。それどころか、わたしが知っている彼女ではなかった。



「それは……できません」

 少し間をおいて、先生が落ち着いた口調でゆっくりと答える。

「どうしてですか? 本当なら理央様と付き合っているのは私のはずです。あのコンサートの日、茅野さんは理央様の事務所からスカウトされて、理央様と関わることになったんですよね? 私が行っていれば、スカウトされたのは私で、だから今、理央様と付き合っているのも当然私だったはずです」

 先生は、興奮気味の自分勝手な彼女の言葉を黙って聞いていた。


「これまで……ずっとチケットを手に入れたくて頑張ってきました。でも、どうしてもダメで……。だから、清水さんから誘われた時は本当に嬉しかった。私には二度とないチャンスだったんです。そんな大事なコンサートの日に、体調を崩してチャンスを不意にした自分が悪いのはよく分かっています。でも、だからって理央様に全く興味がない茅野さんが行くなんて、どう考えてもおかしいじゃないですか? それで、どうして茅野さんが理央様の特別になれるんですか? ありえないです!! 私の方がずっとずっと理央様を愛しています。直接会えるのなら、どんな代償だって厭わない!! 私、何の努力もしないで、当然のように理央様の側に居る茅野さんが憎い!!」

 桐原さんは、そう言ってわたしを睨んだ。


 何も……返すことなんてできない。

 彼女の言っていることは滅茶苦茶だったけれど、ある意味、きっと正しい。

 ファンからしてみたら、わたしみたいな人間が彼に付き纏っているなんてあり得ないことなのだ。憎まれて当然だろう。

 でも、根本的な部分で彼女が言っていることには誤りがある。わたしは、理央さんの彼女でも何でもなかった。


「あの……」

 事実を告げようとした瞬間、それを遮るように先生が言った。

「確かに、ふみさんが桐原さんの代わりにコンサートに来てくれなければ、彼女には出会えませんでした。でも、貴方が来てくれたからといって、僕は貴方を選ぶことはありません。……すみません。酷いことを言っているのは分かっています」

「どうしてですか? どうして、私ではダメなんですか?」

 桐原さんは泣きそうな顔で先生を見ている。


「ふみさんを愛しているんです。僕が、彼女じゃないとダメなんです。わかってもらえませんか?」

 理央さん……。

 いつの間に、入れ替わったのだろう? 彼女に話しているのは、確かに理央さんだった。

「そんなこと……」

 桐原さんは動揺しているのか、定まらない視線のまま呟く。

「僕の幸せを、願ってはくれませんか?」

 理央さんは、真剣な瞳で桐原さんを見つめている。

 彼女は俯いて唇を噛んだ。

「……わかりました。私、別に理央様のことを苦しめようなんて、そんなことは……少しも思っていません」

 それは、絞り出すような、低く苦しげな声だった。



 彼女は決心したように立ち上がった。

「理央様、お願いがあります。……一度でいいんです。抱きしめて、キスしてもらえませんか? そしたら私……死んでもいい。もうこれ以上、理央様と茅野さんに嫌がらせなんてしません。二度と、理央様を困らせるようなことはしません」

「……それで、気が済むんですか?」

 理央さんは冷静だった。


「……はい。お芝居でもいいんです。一瞬だけでも愛してほしい……。私の夢です」



 理央さんは彼女の腰のあたりを引き寄せ、抱きしめた。彼女は理央さんを潤んだ瞳で見上げている。「目を閉じてもらえますか」と彼は言った。桐原さんは黙って従う。

 理央さんが彼女の耳元で何か囁いたように見えた。

「理央様? どうし……」

 話しかけた彼女の言葉を、理央さんは唇で塞いだ。




 わたしは、ここで……一体何を見ているのだろう?

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