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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅳ.ファンタジー月間〈Dec.〉

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27/42

Ⅳー7

「理央さん、先生もう怒ってませんでした。先生って……理央さんのことが本当に大好きなんですね」

 理央さんの部屋に戻ったわたしは、そう言った。

「若干、行き過ぎてますけどね」

 彼は困ったように返す。


 わたしはソファーに座り、この間同様、理央さんが入れてくれた紅茶を飲んだ。

「そういえば、来週はもうクリスマスですね」

 彼が言った。

「早いですね」

 理央さんと出会っていない、去年の今頃のことを思い出す。

 こんなに人と関わることになろうとは(しかも芸能人や憧れの先生となんて)、その頃のわたしに想像できるはずもなかった。



「ふみさん、すみません……。クリスマスなのに、来週はどうしても仕事が忙しくて会えないと思います。ファンサービスだとか言って、事務所がこの時季、毎年イベントを入れるんですよ」

 申し訳なさそうに理央さんが言った。

 人気アイドルなら当然だろう。寧ろ、忙しいのに普段からよく時間を作れるものだと思っていた。

 それに大体、理央さんは彼氏ではないのだから、会えないからと言ってわたしに謝る必要なんてない。

 ちなみにどういうイベントなのか聞いてみると、少し困ったような顔をしたのでそれ以上聞かなかった。

 それからしばらくどうでもいい話をして、二十一時過ぎに車で送って貰った。




 クリスマスはあっという間にやってきた。

「先輩、今日は勿論彼氏さんと一緒に過ごすんですよね?」

 いつも通り、遅刻ギリギリで出社した清水さんがそう聞いてきた。

 今日もまた、朝からテンションが高い。

「いえ。理……彼は仕事が忙しいみたいで」

「そうなんですか? 折角、素敵な彼氏さんがいるのに、寂しいですね。そういえば人事部の駒井さん、結局、営業部の穂村さんには振られたみたいです」

「そう……なんですか?」

 先週、お土産のチョコレートを渡した時はいつも通りに見えた。

「仕方ないですよ。私が思うに、多分穂村さんは先輩に片思いしてたわけですから、どちらかというと落ち着いた女性がタイプなんだと思います。駒井さんは正反対ですし。……彼女、今日は一人でヤケ酒ですかね?」

 穂村さんがわたしに片思いしていたというのは、思い違いだと思うけれど(わたしは穂村さんの印象が何もない)、駒井さんのことは気になった。いくらなんでも、クリスマス直前に失恋というのは、辛いものがあるのではないだろうか。


「先輩、今日彼氏さんと会わないなら、一緒にご飯でも行きますか?」

「いえ、多分どこに行っても混んでると思いますし、早く帰って家でゆっくりします。清水さんはお付き合いしている方、居ないんですか?」

 こんなに明るくて可愛い清水さんだけど、これまでに彼氏の話を聞いたことがない。

「彼氏ですか? そんなもの要りません。私の心はいつだって理央様でいっぱいですから。先輩だって知ってるじゃないですか?」

 彼女は笑ってそう返す。

「そう……ですよね」

 さすがに動揺する。


「今日は理央様に直に会えるチャンスだったんですけど、残念ながら外れてしまいました」

「もしかして、クリスマスのイベント……ですか?」

「あ、先輩も知っていたんですね。私、毎年応募していて。でも抽選なので、やっぱり難しいです」

「あの、どういうイベントなんですか?」

「理央様にじゃんけんで勝ったら、ぎゅっとしてもらえるんです!! こう、ぎゅっと!!」

 清水さんは、そう言いながらわたしをぎゅっと抱きしめた。

 理央さんが困っていたのが分かった。


「そうそう、ファンサイトに書いてあったんですけど、毎年失神する人続出で、医療班まで用意されてるらしいです」

「失神……」

 彼を知る前に聞かされたら、とても信じられなかっただろうけど、今なら分からなくもない。

「でも外れても仕方ないです。今年はコンサートに行けて、先輩のおかげで舞台をあんなに間近で見ることができて、しかも非売品のグッズまで貰って、もう全ての運を使い果たしました」

「……使い果たしてしまっていいんですか?」

「もう、先輩!! 一生分の、じゃないですよ? 今年の運です。来年になったらまた復活しますから、心配ご無用です」

 彼女は、自信満々にそう言う。楽観的で羨ましい。


「それで、その理央様の最新情報なんですけど」

 彼女はここで一旦言葉を止めた。

「なんと、映画の主演が決まりました!! 先輩、もしかしてその情報も知ってました?」

 わたしは横に首を振る。

「……良かった。来年の夏公開で、原作は超話題の恋愛漫画なんです。相手役は可愛いだけじゃなく実力も認められている、あの平野曖美(ひらのあいみ)ですよ」

 あの平野曖美と言われても、全く知らない名だった。

「そうなんですか」と、一応軽く相槌を打つ。

「理央様、今回はそうとう大変だと思います。原作知ってますけど、理央様の役って飴と鞭って感じでして……。現代版、ジキルとハイドですね。そこが魅力なんですが……心配です」

「どうしてですか?」

「難しい役なんですよ」

 ジキルとハイドといえば、言わずと知れた二重人格者の話だ。

 どうやら、ただのラブストーリーではなさそうだ。



 定時に上がり、本を読みながら一人静かに過ごすつもりで、自分用にスーパーで小さなケーキとシャンパンを買って家に帰った。

 ただ例年と違うのは、鳴らないスマホをほんの少しだけ気にしている……ということだった。


 話題のファンタジー小説は七巻目の後半。全八巻なので、残すところ後一冊となっている。

 七巻目を読み終えて、時計を見ると、二十三時を回っていた。

 さすがにそろそろ寝ようと思い、ベッドに入った途端、スマホが鳴った。


「遅くにすみません……。寝ていましたか?」

 理央さんだった。

 意識しないようにと思いながらも、理央さんからの連絡を待っていたのだと嫌でも自覚してしまう。

「いえ、大丈夫です。起きていました」

「……起こしてしまわなくて良かった」

 理央さんのほっとした声が、寒々とした一人の部屋に温かく響く。


「メリークリスマス。……どうしても、それだけは今日中に言いたくて」

「……メリークリスマス」

 なんか恋人になったような気がして気恥ずかしかったけど、わたしも小さくそう返した。


「明後日、遅い時間になってしまうかもしれませんけど、少しだけ会えませんか?」

 理央さんが言った。

「わかりました」

 わたしはそう言い、更に続けた。

「あの……今日はお疲れ様でした」

「え?」

「クリスマスのイベントです。ファンサービスって大変ですよね」

「もしかして内容、知っちゃいましたか?」

「すみません。清水さん……後輩から聞いて」

「仕事ですから」

 慌てた声で理央さんは言った。そんなフォローする必要はないのに。

「……大丈夫です。わかっています。えっと……もう寝ますね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 ほっとしたような彼の声に思わず笑みがこぼれる。

 そしてやっぱりその声は、とても温かかった。

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