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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅳ.ファンタジー月間〈Dec.〉

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Ⅳー4

 列は少しずつ前へと進んでいた。並んでいるのはいいけれど、十数年ぶりだし、わたしはジェットコースターという乗り物の感覚を忘れてしまっている。レールを走る乗り物から、轟音とともに絶叫が聞こえていた。

 耐えられるのだろうか……。

「理央さん、絶叫系……平気ですか?」

「……わかりません。幼いときに来た時は、そういう乗り物に乗ったという記憶がないので」

 その声は楽しげだ。緊張から顔が引きつるわたしとは、あまりに対照的だった。

 やがて、わたしたちの番になった。





 地獄を見た。

 ジェットコースターなんて乗るものではない。

 わたしは、コンサートになんて来るものではない……というあの時の感覚を思い出していた。人には向き不向きがある。

 結局、迷惑をかけてしまった。

 気持ちが……悪い。わたしは青ざめた顔でベンチに座っていた。



 理央さんが買ってきてくれた飲み物を一口飲む。

「コーラ……」

 わたしは、涙目で呟く。

「え? あ、すみません。ウーロン茶と逆に渡してしまったみたいです。じゃあ、こっちですね。まだ口つけてないですから」

 理央さんは自分が持っていた紙コップをわたしに手渡した。蓋つきのコップには最初からストローが挿してある。ウーロン茶もコーラも黒っぽいので、蓋の上からは全く区別がつかない。

「炭酸、苦手ですか?」

「いえ。でもウーロン茶だと思って飲んだので、吃驚して」


「……それ、僕が貰っていいですか?」

 理央さんはわたしが飲んだコーラを指差して言った。

「あの、飲みかけですけど」

「わかっています。……見ていたので」

 それはそうだ。意味のない会話だった。


「……あの、理央さんが良ければ、どうぞ」

 拒むのもおかしい。

 彼はマスクを外し、微笑してコーラを飲んだ。平然としている。

 間接キスという言葉が脳裏に浮かび、恥ずかしくなった。どうもわたしは小学生くらいで感覚が止まっている。彼はまったく気にしていないのに、一人であれこれ考えて馬鹿みたいだと思う。

 それでなくてもジェットコースターのせいで心拍数は正常じゃなかった。これ以上、心臓に負担を掛けるのはやめてほしい……。




 しばらく休んで落ち着いてきたので、また二人で園内を回ることにした。



 目の前に絶大な存在感を誇る乗り物が見える。

「理央さん、観覧車に乗りませんか?」

 わたしはその乗り物を見上げて言った。のんびりと景色でも見れば、もう少し気持ちが落ち着くかと思って……。

「……えっと、さすがにあんな狭い空間は……」

「閉所恐怖症ですか?」

「……そうじゃないですよ」

 彼は困ったような……なんだか不思議な言い方をした。

 高所恐怖症? だったらジェットコースターも無理だと思うし……何か観覧車に特別なトラウマでもあるのだろうか?


「密閉空間では、さすがにマスクもあんまり効果ないんですよね……。ふみさんが乗りたいなら頑張ります。耐えるしかないので……」

 彼は言った。


「耐える? 具合悪くなる可能性があるなら、乗らなくていいですよ。あの、わたしもどうしても乗りたいというわけではないですし」

 しばし、お互い無言になる。そして理央さんが言った。

「……えっと……すみません」

 謝るようなことではない。

「無理しないでください。さっきのわたしみたいになります。苦手なものを無理して乗る必要ないですから」

 わたしは言った。



 それからわたしたちは、効率を考えてパンフレットを見ながら、絶叫系以外のアトラクションを順に制覇することにした。



「お化け屋敷ですね」と、わたしは言った。

「苦手ですか?」

「多分……大丈夫です」

 わたしは深夜だろうと気にせず、サスペンスやホラー小説を読んでいる。

 きっと恐怖に対しては耐性があるはずだ。これならいける。そう信じたい。

「じゃ、並びますか? お化け屋敷もずいぶん人気があるようですね」


 お化け屋敷は、ここの遊園地の人気のアトラクションのようだ。四十分待って、ようやくわたしたちの順番が来た。




 昔から思っていたことがある。

 恋人ができたとしても、いちゃつくバカップルのようにだけは絶対になりたくないと。

 それなのに……。

 彼氏でもない理央さんの腕にしがみつき、あまつさえ泣き出すなんて、あってはならない失態だった。


 彼は何度も何度も足を止め、もう進めないと首を振るわたしを優しく励まし、挙句の果てに、怖いなら目を瞑っていていいからと手を取り出口まで導いてくれた。

 もう、最悪だ……。

 ジェットコースターに引き続き、わたしは自分の苦手なものが何も分かっていなかった。

 だけど、これほどまでの恐怖を誰が予測できただろう。

 音の効果も抜群で、小説と現実とでは全く違っていた。なんで理央さんはこの状況で平然としていられるのか分からない。




「理央さんは恐くなかったんですか?」

 ようやく永遠に続くと思われた暗闇から解放されて、わたしは彼に訊ねる。

「んーー。ああいうのは職業柄、冷静に見てしまってダメですね。結局、お化けも人なので演技が今一つかなと思うし、置いてあるものもどうしても小道具として見てしまって……。すみません。嫌な見方ですね」

 現実的かつ、なかなかシビアな感想だった。理央さんの温かみのある声とのギャップが凄い。


「あの……ご迷惑かけてすみませんでした」

 わたしは今更、再び恥ずかしくなってきて深々と頭を下げた。

「ふふっ。謝る必要なんてないです。……ふみさんは、とっても可愛かったですよ? 実のところ、ここからずっと出たくなかったくらいです」

「……やめてください」

 懇願するようにそう言うと、理央さんはまた笑った。



 その後、もうすでに二時を回っていたので、園内のレストランで少し遅めの昼食をとった。

 理央さんが見つかってしまわないか、いつものようにハラハラしていたけれど、なんとか見つからずわたしたちは無事に食事を終えた。



 再びパンフレットを見ながら散策する。

 わたしは、メリーゴーランドの前で立ち止った。


「すごくかわいい……ですね」

 わたしは言った。

 乗り物は、馬ではなくユニコーン。パステルカラーの淡い色使いを見ているだけで、メルヘンな夢の世界に誘われる。


「ふみさん、乗ってきてください。僕はここで見てます」

「乗らないんですか?」

「似合わないので」

 理央さんはそう言った。通常の成人男性なら遠慮するのも分かるが、王子様みたいな彼ならわたしよりも絶対に似合うと思う。

 でもそれを強く言うのもどうかと思い、わたしは一人で列に並んだ。

 パレードの時間のせいか、そんなに待たずに乗れそうだ。


 可愛らしい音楽が鳴り、ユニコーンが動き出した。

 理央さんはわたしに手を振っている。

 気恥ずかしかったけれど、ここはそういう場所だと思って、わたしも軽く振り返す。

 一周回り、二周目。再び理央さんを見ると、彼は女性二人に話しかけられていた。

 見つかってしまった……と思った。

 気になって目を離さずに見ていたけど、乗り物は回転しているので、やがて理央さんたちはわたしの視界から消えた。

 三周目、彼女たちの姿はなかった。

 理央さんだけが、何事もなかったかのようにわたしに手を振っていた。

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