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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅳ.ファンタジー月間〈Dec.〉

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21/42

Ⅳー1

 十二月に入り、一気に寒さが増した。

 最後に理央りおさんに会ってから、数日が経過している。

 小説のジャンルはSFからファンタジーへと切り変わり、わたしはネットで面白いと評判の長編ファンタジーを読んでいた。

 冬はなんといっても炬燵に限る。炬燵で小説を読んでいるだけで、満ち足りた気持ちになる。

 炬燵の上に置いてあるスマホが鳴った。

 理央さんだと思ったが、表示は田舎の妹だった。


「姉ちゃん、風邪ひいてない? 今年もみかん送ったから食べてねぇ」

 妹は能天気な声でそう言った。



 わたしの故郷は四国の田舎だ。父は公務員で母は専業主婦。そして電話をかけてきた三つ下の妹、詩乃しの

 彼女は高校を卒業すると同時に、二歳年上のみかん農家を営んでいる男性と結婚した。

 彼は詩乃が入っていた書道部の先輩で、二人は学生時代から家族公認の仲だった。

 詩乃と彼の間には、もう子供が三人いる。妹は昔から社交的でとても明るい性格。変わり者のわたしとは全く違い、両親が望むごく一般的な幸せな生活というものを早々と手に入れている。

「うん、元気にしてるよ。みかん、毎年ありがとね」

「ホントに? 姉ちゃん、本に夢中になりすぎて、ご飯ちゃんと食べてないんじゃないの? なんだか心配だなぁ」

「大丈夫。わたしのことより、千紀ちきたちは元気?」

 千紀とは詩乃の長男の名前だ。

「元気だよ。幼稚園で友達いっぱい出来て、ますます騒がしいよ。姉ちゃん、たまにはこっちに帰っておいでよ」

「そうだね。今年は……帰ろうかな」

 わたしはそう言った。

 お正月の休みを実家で過ごすのも悪くない。久しぶりにみんなの顔も見たいと思った。

「ホント? 嬉しい!! 父ちゃんと母ちゃんにも言っておくね。みんなすっごく喜ぶよ」

 こんな本にしか興味のないわたしだけれど、家族はいつだって優しい。母と詩乃が作る食卓いっぱいに並べられた料理が目に浮かぶ。


「……ねえ、詩乃。ウルトラミラクルスーパースターって知ってる?」

 理央さんのことが頭にあったせいか、わたしはなんとなく詩乃にそう聞いた。彼女もわたしと同じように芸能人には疎いだろうと思いながら。

「勿論知ってるよ。ウルスタでしょ? 今、知らない人を探す方が難しいと思うよ? けど珍しいね。姉ちゃんから芸能人の名前が出てくるなんて。もしかして姉ちゃん、叶理央かのうりおに興味があるの!?」

 意外にも詩乃は理央さんを知っていた。しかも、ウルスタ=叶理央という名前がすぐに出てくるとは。

 こんな四国の田舎でも、彼は十分知名度があるようだ。

「えっと、興味があるっていうわけじゃないんだけど……」

「ふ~ん……。そっかぁ。でも、いい傾向だよ。アイドルとはいえ叶理央は生きてる人間だもん!! 追っかけだっていいと思う!! それだけでなんか私、嬉しいよ!!」

 詩乃は本当に嬉しそうだ。

 追っかけ……? 誤解されてしまったかもしれない。話をよく聞かず、想像で決めつけてしまうところ、どうも清水しみずさんを彷彿とさせる。やっぱり二人は似ている。


 詩乃にはいつも心配をかけてしまっている。

 わたしが理央さんと知り合いだと言ったら、驚くとは思うけど、きっと喜んでもくれるだろう。

 だけど、それは言うべきではない。今だけのつかの間の不思議な友人関係。彼とはできるだけ早く離れなければならないのだから。


「姉ちゃん、いつ帰ってくるの? 日程決まったら知らせてね。駅まで迎えに行くからね」と詩乃が言った。

「ありがとう。今度はこっちから連絡するね」と言って、わたしは電話を切った。

 彼女は、小さいころから少しも変わらない。結婚してしっかりとした三人のお母さんだけど、わたしにとっては幼く可愛い妹のままだ。

 読んでいたファンタジー小説を手に取る。


 再びスマホが鳴った。今度は理央さんだった。


「遅くにすみません。寝ていましたか?」

 理央さんは言った。

 時刻は二十二時を回っていた。

「いえ。……大丈夫です。そんなに早く寝ないです。それに今まで妹と電話で話していたので」

「ああ、妹さんが居るんですね。ふみさんは二人姉妹ですか?」

「そうです」

「実家は東京ですか?」

「いえ、四国の田舎です。でも、妹はもう結婚していて実家には居ません。両親の近くには居ますけど」

「四国ですか。いいですね。きっと星がきれいに見えますね」


「理央さんの実家は近いんですか?」

「神奈川です。今は東京で一人暮らしをしていますが、実家にはすぐに帰れますよ」

「先……佑月ゆづきさんも神奈川ではなく、東京に住んでいるのですか?」

「え?」

 彼は驚いた声で言った。


「……マネージャーの佑月さんは、理央さんのお兄さんですよね?」

 理央さんから反応がない。

 しまった……と思った。

 それも、作家であることと同様、聞いてはいけないことだったのかもしれない。でも、もう後の祭りだ。



「……佑月が、そう言ったんですか?」

 しばらくして、理央さんがそう聞いた。明らかにさっきより声のトーンが低い。

「えっと、はい……。すみません」

 わたしは、悪くもないのになんとなく謝ってしまう。

「そうですか」

「理央さんと佑月さんは全然似てないので、意外でした……。でも、マネージャーって確かに近親者のほうがなんでも相談できていいのかもしれませんよね」

 わたしは変な緊迫感の中、あえて明るく言ってみる。焦っていつもより早口になっているのが自分でも分かった。


「……すみません、ふみさん。明日、仕事が終わったら付き合ってもらえませんか?」

 理央さんの声は一段と低くなる。

「どこにですか?」

「佑月に会ってもらいます」

 その言い方はあまりに重々しく、否定できるはずも、何か聞き返せる雰囲気でもなかった。

 わたしは了承して電話を切る。

 もう、本を開く気分ではない。




 退社後、いつもの場所で待っていた理央さんと挨拶を交わす。

 三度目ともなると、理央さんも慣れたものだ。会社近くのパーキングの場所も完璧に把握している。

 理央さんの車に乗り込むと、彼が言った。

「本当にすみません。今は何も聞かず付いてきてください」

 昨日から続いている緊迫した様子に、わたしは黙って頷く。


 会ってみて、余計にまざまざと感じた。

 理央さんの様子がおかしい。

 今日わたしは、先生、もしくは理央さん、はたまた両方から怒られるのではないだろうか?

 地雷を踏んでしまったのかもしれない。本当に嫌な予感でいっぱいだった。




 着いたのは巨大高層ビルの高級マンション。

 理央さんがエントランスでキーを解除し、エレベーターで上層階へ上がる。


「少し離れていてください」

 2806号室の前で彼はそう言い、ゆっくりマスクと眼鏡を外した。

 インターフォンを押す。

「はい」

 先生の声だ。

「僕だけど、開けて」

 玄関のロックが外される。理央さんはドアの取っ手を掴み、わたしを呼んだ。

「先に入って」と理央さんが言い、わたしを先に玄関に促す。




 目の前に居たのは、理央さんだった。


「え? ……理央……さん?」

 わたしは言った。


 間抜けな質問だ。目の前の理央さんは、目を見開き、固まっている。

 ありえない。

 だって彼は、わたしの後ろに居るはずだ。確かめたいのに、怖くて振り返ることができない。



 しばらくして、目の前の理央さんは表情を崩し、ため息をついた。


「俺が理央に見えるか?」

 どう見ても、不機嫌な顔をした理央さんだった。


「それは、見えるでしょ」

 後ろから理央さんの声がする。


 何この状況……。ドッペルゲンガー? 決心して振り返ると、やはり理央さんはそこにいる。わたしは二人の理央さんに挟まれた状態だ。


 理央さんが二人居るなんて現実的にあり得ない。勿論分かっている。答えは一つしかない。


「双子……だったんですね」

「とりあえず部屋に入れ」

 目の前の理央さん……つまり加納先生は、不機嫌な表情のままそう言った。

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