Ⅰー2
「茅野先輩、聞いてくださいよー。やりました!! ウルスタのコンサートチケット、とうとう手に入れました!! 私の持てるありとあらゆる人脈を駆使しまして、それで結局手に入れてくれたの誰だか分かりますか?」
職場に着くなり、清水さんは息もつかずにそう言った。
わたしを茅野先輩と呼ぶのは後輩の中でも彼女だけだ。
彼女の凄い勢いに圧倒されて、わたしは後ろのめりになりながら首を横に振る。
「意外にも、86歳のうちのじいちゃんだったのです。このためにじいちゃんは長生きしてくれていたのですね。有難いです!! 感謝です!! 私、リアルな理央様が見られるんですよ!! もう本当に夢みたいです!!」
感激のあまりか興奮のあまりか、彼女は自分の両手を握りしめ上下に振った。
それと同時に彼女の瞳が潤んでいく。
おじいさんの存在意義については突っ込みたかったけど、ここはあえてスルーしておこう……。
ウルスタ?
ウルトラミラクルスーパースターを省略すると、ミラクルとスーパーはあっさりと消えてしまうらしい。そして昨日思い出せなかった彼の名前が分かって、少しだけすっきりした。
『理央様』……。そういえば確かそんな名前だった。
考えてみればウルスタ=『理央様』なわけで、彼は名前が二つあるようなものだ。
すごく不自然だと思う。
よく分からない……。数多に居るであろうファンの皆様は、彼の名前についてどう思っているのだろう……?
「コンサートは来月なんですが、私、桐原さんと行ってきますね。茅野先輩には限定グッズ買ってきますから、楽しみにしていてください」
「え……あ、ありがとうございます。それでその桐原さんはまだ会社に来てないみたいですけど……」
桐原さんは清水さんと同期の女子社員だ。彼女も同じ部署の後輩にあたる。
桐原さんが遅刻ぎりぎり常連組の清水さんより遅く来ることなんて、まずあり得ないことだった。
「あ、今日は休むって言ってました。昨日このこと電話で彼女に伝えたら、興奮のあまり熱が出てしまったらしいです」
「え?」
思わず間抜けな声を出してしまう。
確かに桐原さんは、元々体が丈夫な方ではない。
けれど、普通そんなことで仕事を休んだりはしないだろう。
桐原さんよりそこまでの影響を与える『理央様』が普通じゃないのかもしれない。
ウルトラミラクルスーパースター。
その大仰な名前は名ばかり……ではないようだ。