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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅲ.SF月間〈Nov.〉

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17/42

Ⅲー2

 理央さんから貰ったチケットの席は、まさに最前列の真正面だった。

 あのコンサートと時とは違い、今日は直にはっきりと彼の姿が見える。



 舞台上の理央さんは、完璧なロボット。

 常に無表情で相手の女優さんを見つめる瞳は、そこはかとなく色気があり美しい。

 驚くべきことに、理央さんが演じる執事型のロボットは、感情があるのに表情がなかった。

 カラーコンタクトだと思うけれど、一瞬別人に見える。でも、姿形なんてこの際どうでもいい。彼は圧倒的な演技力で、見るものをその世界に引き込んだ。

 それは、いつものあたたかい理央さんの欠片もない。

 独り語りの時、こちらを見ているような気がしたけれどきっと気のせいだろう。



 とても切ないラストだった。

 我慢したけれど、涙は自動的に流れた。わたしは涙を指で拭う。

 まさに拍手喝采。出演者が挨拶をして、幕が閉じた後も、しばらく拍手は鳴りやまなかった。

 隣を見ると、二人とも泣いていた。二人だけではなく、ほとんどの人がハンカチやハンドタオルで顔を押さえている。

 圧倒的な世界観……。現実世界に戻ってくるまで時間が必要だった。




「えへへ。理央様目当てに来たのに、完全に話に……やられちゃいましたね」

 清水さんが泣き笑いの状態で言った。

「でも、こんなに間近で彼を見ることができて幸せです~。今日の理央様、カッコいいというより、とっても美しかったですね~」

 桐原さんも、夢見るような瞳でそう言った。

「そうですね」

 わたしは二人に同意した。


「茅野先輩、桐原さん、なんか甘いものでも食べて帰りませんか? お芝居のお話、もっとしたいですし」

 清水さんの提案に、桐原さんは笑って頷く。

 二人はわたしの返事を待っている。


 「いいですよ」と応えようとして、違和感に気付いた。マナーモードになったままのスマホが鳴っている。

 知らない番号だ。


「はい」

 わたしは恐る恐る応答する。

「理央が呼んでる」

 柚木さんだと声で分かった。

「どうしたんですか? なんで電話……」

「近くに居るが、君の友人が一緒だろう? 俺が君に何度も接触するのを見られるのはまずい。……不自然だろう。一人になったら迎えに行くから、この番号に折り返しかけてほしい」

 確かに今、柚木さんが彼女たちの前に現われたらとんでもないことになりそうだ。

 誤魔化すためとはいえ、二人にはずいぶんと彼の悪いイメージを与えてしまった。図らずも柚木さんの判断に救われた。

 電話を切って、大きく息を吐く。


 わたしは、急用ができたとまた嘘をつくしかなかった。

 残念そうにしている彼女たちに何度も謝り、劇場の前で別れた。




 言われた通り柚木さんに折り返し電話をかけると、彼はすぐに迎えに来てくれた。

「柚木さん……お久しぶりです」

「ああ」

 真っ黒いサングラスに鼻髭、ニコリとも笑わない口元。彼は相変わらずだった。

 何かしたわけではないのに、やっぱり怒っているようで怖い……。



 彼に連れられ、劇場の控室に向かう。勿論、今日は言われなくとも彼との間に二メートルくらいの距離を開けている。

 あのコンサートのときとまったく同じ状況だった。けれど、今回は向かう先に不安はない。

 理央さんに会うのが分かっていたなら、チケットのお礼に、何か差し入れでも持ってくればよかったと思った。




 柚木さんが控室の扉をノックする。部屋から返事はなく、入ると彼の姿はなかった。

「挨拶にでも行っているのか。……そこらへんに座れ」

 柚木さんが腕組みをして言った。

 わたしは、簡易テーブルに付属してある四つの椅子の一つを引いて座った。柚木さんは立ったままでいる。

 五分くらい待ったけど、理央さんが戻ってくる気配はない。なんだか仏頂面の柚木さんには話しかけづらく、仕方がないので少しだけ小説の続きを読もうと思った。バックから加納弓槻の新刊を取り出す。


「理央に聞いたのか?」

 突然、柚木さんが言った。

「何をですか?」

「その本」

 わたしはゆっくりと本に目を向ける。

「たまたま、自分で気付いたのか……」

 彼が更にそう言った。言っている意味が解らない。

「今日発売の新刊ですけど、柚木さんも買ったんですか?」

 わたしはそう聞いた。

「……気づいて、これ見よがしに持って来たんじゃないのか?」

「何がですか?」

 柚木さんはため息をついた。本当に、全く意味が解らない。

「いや、いい。何でもない」

「……どうしたんですか? 何か変ですけど……」

 わたしは言った。彼は更に大きくため息をつく。

「どちらにしてもそんなところに出しておかれたら、口止めしておいた理央だって黙ってはないな」

 独り言のようにそう言って、更に彼は続けた。


「俺の本だ」

「えっと……わたしが買った本ですけど……? わたし、柚木さんのもの盗ったりしません」

「そういう意味じゃない。流れから分かるだろう? 大体、なんで君のバックから出てきた本を盗ったと疑う必要があるんだ?」

 わたしは、馬鹿みたいに柚木さんを見つめる。


「それは俺が書いた本だ……」

「ええっ!?」

 自分でも吃驚するくらい大きな声を出していた。



 心臓が早鐘を打っている。

「それは、柚木さんが、加納先生……ということですか?」

「そんな呼び方をするな」

 嫌そうに手を振りながら、柚木さんが答える。

 そう言えば加納弓槻と柚木さん、漢字は違うが、同じ『ゆず(づ)き』だ。それに考えてみたら、偶然なのか名字も漢字は違うが理央さんと同じだった。

「以前から俺の本を読んでいたなら、名前で普通気付くだろ」

 彼が言った。

「だって、ペンネームですよね? 柚木さん……本当はなんて名前なんですか?」

「だから、かのうゆづきだ」

 ……分からない。

 本名が?

 わたしは、今この時まで彼のフルネームを知らなかった。

 知っていたところで気付けるはずもない。誰が、芸能人のマネージャーと作家を掛け持ちしているなんて思うだろう。

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