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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅱ.ミステリー月間〈Oct.〉

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Ⅱー12

 唐突な質問だったのか、彼はティーカップを持ったまま固まってしまった。

「やっぱり気になって……」

 わたしはそう続ける。

 理央さんは、わたしを凝視したまま何も言わない。



「……すみません。勿論、最初に言ったようにいずれ話そうと思っていました」

 ようやく、彼は重い口を開いた。そして更に続ける。

「せめてふみさんが、僕を好きになってくれたら……」

「……どういう意味ですか?」

 わたしは聞いた。


 理央さんの言うことは、というより理央さんのこと自体、わたしには全く理解できない。

 考えてみたら、最初に会ったときから本当におかしなことばかりだった。


「せめてふみさんが僕を好きになってくれたら、嫌悪感を持たず理由を受け入れてもらえるかもしれない……という意味です」

「嫌悪感……ですか?」

 突拍子もない言葉に、思わず怪訝な顔をしてしまう。

「今、本当のことを話しても信じて貰えなさそうですし、信じて貰えても印象が悪くなるだけなので」

 彼は自嘲気味に笑う。友達になりたいと言った理由が、そんなに深刻なものなのだろうか?

 いくらなんでも、嫌悪感……というのは大袈裟だと思う。それにしてもこの重々しい空気は一体何だろう。



「柚木にも言われていたし、早い段階で聞かれたら、いっそただ一目ぼれしたということにしようかと……」

 わたしは何も言わず、ただ彼の次の言葉を待った。


「でも、やっぱり貴方に嘘をつきたくない」

 そう言った後、理央さんは再び俯いた。

 気持ちが揺れているようだ。どちらにしたって一目ぼれした……なんて言われていたところで信じるはずもなかった。それこそ説得力がない。

 その言い方だと、マネージャーの柚木さんも事情を知っているようだ。



「話……最後まで聞いてもらえますか?」

 決心したような彼の真剣な表情。

 それは、緊迫感も相成って戦慄が走るほど綺麗で……。

 彼に見とれてしまっていたわたしは、ただ黙って頷くしかなかった。




「……僕の家系は、男だけですが……かなり特殊なんです」

 理央さんは、いつもよりゆっくりした口調で話し始めた。

「一般の方のように、恋愛対象を見た目や性格で選ぶことはできません」

 言われていることが分からないわたしの首は、勝手に右に傾く。


「えっと、つまり何て言ったらいいか……異性が発する香りが重要で……僕の家系は、女性が放つ香りに惹かれてしまうんです。香水とか柔軟剤とか外的なものじゃありません。動物的な……元々その人が持っている香りです。そういう好みの香りを放つ女性は、たった一人ではないのですがとても少なくて、統計的に言えば大体数万人に一人くらいの確率かと思います。祖父や父が言うには、僕たちの特殊な遺伝子が……自分だけの女性を選ぶらしいです……」

 そこまで言って、理央さんは小さく息を吐いた。


「僕はこれまで数名そういう女性に出会い、お付き合いしました。とにかく出会えること自体、奇跡のようなことなんです。けど、すぐに別れてしまいました。彼女たちが愛したのは僕の外見やステータスだけだったから……。おかしいですよね。僕はずっと遺伝子が選ぶ女性は、運命の人なんだと思っていました。……遺伝子はそういったものまでは判別できないみたいです」

 理央さんは哀しげな表情をしている。それから、一拍置いて続ける。

「貴方からは……これまでで一番甘い良い香りがします。香りだけではなく、話してみて今度こそ僕の運命の人だと感じました」

「それは、理央さんの遺伝子がわたしを選んだということですか?」

「そうです」

 彼は、はっきりと言った。



 到底信じられない話だった。理央さんが話すことを躊躇っていたのも頷ける。

 確かに異性の好みの香りというのはあるのかもしれない。無意識に、匂いで惹かれるということだってある……と思う。だけど、理央さんの話はどうやらそういうレベルではない。

 運命の人……その言葉だけが、重く刺さる。

 百歩譲って、そんなとんでもない話が事実だとしても、わたしが彼に選ばれたなんて信じられない。


 そもそも理央さんは、そんな誰も信じないような夢物語みたいな話を、リスクを冒してわたしに言う必要があるのだろうか? いくら嘘をつきたくないと言っても、自分が不利になるようなことを無理して伝えなくたっていい。

 わたしというか誰にも言わなければいいだけだし、乱暴な言い方をすれば、そんな事実自体無視したらいいのではないかと思う。遺伝子だの香りだの気にせず、自分の好みの容姿、好みの性格の人と付き合えってしまえばいい。匂いなんてさして重要ではない。


「遺伝子に従わなくてもいいんじゃないでしょうか?」

 わたしは、思い切ってそう言った。


「僕はプラトニックでは終われません。一応、叶の直系なので」

 理央さんは答える。

「プラトニック……?」

 反復してみたけれど、全く話が見えない。

 彼は更にため息をついて俯いた。少し待ったが、続きを話す気配はなかった。


「どういう意味ですか?」

 仕方なしにわたしは聞いた。

「……ここからは、非常に話しづらいですね。……つまり、体が反応しないんです。遺伝子が選んだ女性以外は」

 体が反応……?

 頭をフル回転させる。

「あ、性行為のことですか?」

「……はっきり言いますね」

 困ったように、理央さんは笑った。



「纏めますと、性行為できる相手だからわたしはとりあえず友達にキープってことですか?」

 事実確認のために聞いたのだけど、身もふたもない言い方になってしまう。

 それは確かに、女性としては嫌悪感を抱くしかない話だった。

「全然違います!! ちゃんと僕の話を聞いてましたか?」

 理央さんの声が大きくなる。

 瞬間、離れた場所に座っているカップルが凄い勢いでこちらを見た。


「大体……できる相手だからって、安易に行為に及ぼうなんて思いません。……そういうことは、本当に好きな人とするべきです」

「……それは同感です」

「だから、まずお互いのことを知って、きちんと気持ちが通じてからお付き合いしたいんです。行為どうこうなんて、お付き合いのずっと後の話なので」

 とんでもなく不自由な宿命なのに、非常に古風な考え方だ。まあ、それは優しくて誠実な理央さんらしかった。

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