表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅱ.ミステリー月間〈Oct.〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/42

Ⅱー8

「ここで立ったまま話しているのもなんですし、良かったら一緒にご飯でも食べに行きませんか?」

 理央さんが言った。まあ、普通そういう流れになるのだろう。わたしは返事をせず俯く。


 本音を言えば帰りたかった。帰りたいというより、逃げ出したかった。何しろさっきまで、あの出来事を無かったことにしようとしていたのだ。昨日の今日で理央さんに会うことなんて想像していない(というよりあり得ない!!)。

 でもそんなこと、ここでいつから待っていたのだか分からない彼に言えるわけがない。


「じゃあ、わたしがたまに行っている近くのラーメン屋さんで」

 わたしは早口でそう言った。


「え? ラーメン……ですか? これでも芸能人ですし、普通もっと豪華なものを奢ってもらおうとか思いませんか?」

 彼の声が大きくなる。何故か驚いているようだ。

 そんなこと言われても、困る……。


 わたしが自ら積極的に提案したのには理由がある。ラーメンは早く食べられる=早く帰れるというのが一番大きいが、理央さんを守るためにも最適だと思ったのだ。

 ご飯を食べるということは、当然彼はマスクを外さなければならない。そのラーメン屋を経営しているのは老夫婦で、二人はかなりの確率で彼を知らないだろうし、常連のお客さんも大抵年配の方ばかりだ。それだけでも、他の飲食店よりはかなり安全なはずだ。


「ふみさん?」

 理央さんは、不思議な顔でわたしを見つめている。

「ラーメンの何が悪いんですか? 安くて美味しくてさっと食べれますし、最高だと思います!!」

 わたしは強めの口調でそう返す。

「でも初めてのデートでラーメンって……」

「デートじゃありません!! 大体、奢ってもらおうとか、考え方がおかしいんですよ。友達だったら割り勘が常識ですからね」

 わたしは勢いよく言った。

 理央さんは俯き、どういうわけか震えていた。


 怒っているのだろうか? もう、嫌われるならいっそ完璧に嫌われてしまった方がすっきりする。そもそも、理央さんとわたしとでは最初から世界が違うのだ。こうして一緒に居たって全く釣り合いが取れていない。

「……っく……」

「く?」

「くく……あははは!! そんなこと、言われたの初めてです」

 彼は笑っていた。

「……分かりました。ラーメン……食べに……行きましょう? でも、割り勘は、なし……ですからね」

 笑いすぎて言葉も途切れ途切れだ。何がそんなにおかしいのか……。

 わたしは彼をラーメン屋さんまで案内した。



 予想していた通り、理央さんは誰にも注目されることなく無事にラーメンを食べ終えた。

「とても美味しかったです」

 店を出て、理央さんが言った。

「……こちらこそ、ごちそうさまでした」

 わたしは彼にお礼を言う。やはり割り勘は許されず、理央さんが支払いをする流れになった。

「できれば、もう少し話したいんですけど……ダメですか?」

 理央さんが言った。そんな可愛らしい言い方をされたら、帰りたいのにまたしてもはっきりとそう言えなくなってしまう。仕方なくわたしは首を横に振った。

「えっと……あそこの喫茶店なんか、薄暗くて良さそうですね。ゆっくりお茶でも飲みましょう?」

 彼がここから見える、ビルの二階にある喫茶店を指差して言った。



 わたしたちは喫茶店に入り、一番奥の席に座る。

「何にしますか?」

 彼が言い、一緒にメニューを見る。

「ふみさんは甘いもの、好きですか?」

「……好きですよ。一番好きなのはチョコレートです。別に高級なのとかじゃなくて、普通の市販ので十分ですけど」

「ああ、チョコは疲れた時にもいいですよね」

 彼は言った。

「理央さんは?」

 わたしも聞いてみる。

「僕も大好きです。どちらかというと洋菓子よりも和菓子が好きですけど」

 それから、わたしは季節のタルトとホットチョコレートを、理央さんはチーズケーキとカフェラテを注文した。


 そういえば、アイドルだからか彼がバーとか飲み屋に誘ってこなかったのには好感が持てた。

 社会人になってからは、食事=飲みに行くという流れが常識になっている。仕事帰りなら尚更。

 まあ、わたしは会社の人から誘われてもほとんど行くことはないが、後輩たちは頻繁に行っているようだ。

 理央さんは甘党でお酒が苦手ということも考えられる。まさか、いくらなんでも未成年ということはないだろう。


「あの、理央さんっておいくつなんですか?」

 一応、確認のため聞いてみた。

「24です」

 大体予想していた通りだ。最初からわたしより年下だろうとは思っていた。

「……若いですね。わたしなんて28で……アラサー……ですよ?」

 わたしはそう言った。普段全く気にしていないが、キラキラ輝く彼の前ではついつい自虐的な言い方になってしまう。


「アラサーってなんですか?」

 理央さんが質問する。

「え? ……女性の大体25歳から30歳を差す言葉です、よね? 今は、男性に対しても使われているみたいですけど」

「……意味は知っています。そうじゃなくて、どうしてそういう言い方するんですか? アラサーとかアラフォーとか、好きじゃないです。そういう言い方って一括りにして、なんだか自分の魅力をわざと隠しているみたいで」

 彼は不満なのか、所々言葉を強めて言った。

 そんなこと、わたしに言われても困る……。別にみんな普通に使っている言葉だろう。

「……そんな風に思ったことなかったです。わたしもアラサーって、今日初めて使ってみましたけど」

「え? 初めて? ……歳なんて関係ないですよ。それに、あの……失礼かもしれませんが、ふみさんはかなり童顔ですよね」

 理央さんは、いつもの穏やかな口調に戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ