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「はぁ……」
町中を歩いているゼロとニーナ。ゼロは特に何か思うところも無く淡々と森に近い門に向かって歩いている。その横に並んで歩いているニーナはフードを被っているため表情が見えないが、肩を落とし頭もうなだれている。さらには溜め息もついているため周りを歩いている人達も落ち込んでいるというのがはっきりわかるような態度で歩いていた。
「さっきから溜め息ばかりだな」
ニーナにゼロが話しかける。そんなゼロをニーナはフードの下から睨むように見つめる。
「こんなにポンポン高い物買われて!私の言葉がことごとく無視されたら落ち込みたくもなるわよ!!」
ニーナは立ち止まり大声でゼロに文句を言う。ゼロはニーナを驚いた顔で見つめながら足を止める。周りの通行人もその声に反応してゼロ達を見てくる。
「なんだ?」
「痴話喧嘩か?」
周りから聞こえてくる声が聞こえたニーナはフードを深くかぶり再び歩き始める。周りから見られているため先ほどより速いペースで歩き始めた。ゼロは少し笑うとニーナを追って歩き始める。
「別に金は返さなくていい、俺が買いたかったから買ったんだからな」
「そうもいかないわよ。それに金額が大きいんだからなおさら返さないと」
ゼロは本心からニーナの旅用品を買った金額は返さなくていいと思って言っているようだった。しかし、ニーナも本心から購入代金を必ず返すと言っている。そのニーナの気持ちをゼロはわかっているため苦笑いを浮かべた。
「わかったわかった。何年かかってもいいから返してくれ」
苦笑いしながらゼロはニーナにそう答える。
「実際に使うのも、お金を返すのも私なのよ?もっとお手頃な物があったと思うのだけれど」
ニーナがゼロに文句を言うのも当然だ。なぜなら結局ゼロはニーナの言葉を完全に無視して時間停止機能のついている魔法の鞄を購入した。白金貨が何枚も支払われるところをニーナはただ呆然として見ているだけだった。
その魔法の鞄をゼロから渡され、あまりの高価さに震える手で受け取ったニーナはゼロと同じように腰に魔法の鞄を着けた。
それだけでは終わらず、魔法のコントロールや威力向上の補助をする指輪|(杖より手軽で出力は上)や、火を点ける魔道具|(実用性のある物の中で最高品質)、魔力を使用して飲み水を生み出す水筒等、追加で白金貨が払われていた。そして、雑貨屋にも立ち寄り服や下着等も取り揃えられた|(冒険時に着る服は補助効果のある服だったり、日常で着る服も購入された)。
それらの買い物について、ゼロはニーナの言葉を無視して買い物をしていた。ちなみに服についてはニーナのローブを取って似合う服をとお願いした。店員はニーナに驚いていたが、プロとしての仕事をしてくれた。
ニーナは冒険時に着る服として購入された中の1組を着ていた。全体的に白を基調とした服装で金の刺繍で模様がついている。スカートが少し短いように見えるのは長い脚のせいだろう。スカートから伸びる足には黒いタイツが履かれている。靴も白で統一されている。
もちろんこれらはすべて魔法や物理の耐性がある服となっている。ニーナに似合っているのは確実なのだが、正体を隠すためのローブですっぽり隠されている。
恥ずかしさで早歩きのニーナとその横を同じ速さで歩くゼロは、しばらく無言で歩いていたがやがて目的地へと到着した。2人が出会った森の横を通る街道に続く門である。
今は昼間なので門は開いており、人が往来している。
「さっさと倒しに行くか」
ゼロは門に向かいながら独り言を呟く。ニーナにはその声が届いており、ゼロの言葉に頷く。
「まぁその前に門でギルドカードを提示して身分証明しないとだけどな」
「そうね、犯罪者にはなりたくないわ」
門には少し列ができており、その列の最後尾に並んで2人は雑談をしている。
少し雑談をしているとすぐに2人の順番になった。対応するのは昨日とは違う騎士だった。
「次の方どうぞ」
「はい」
呼ばれた2人は騎士に近づく。
「では身分を証明できるものを提示していただけますか?」
「どうぞ。あとこっちの女性については昨日身分を証明できるものを持っていなくて契約の紙を掻いたんですけど」
ゼロがギルドカードを出しながら騎士に話しかける。
「なるほど。……とりあえずあなたのギルドカードは確認が終わりました。ではそちらの方、身分を証明できるものを出していただけますか?名前を確認したら契約書を持ってきますので」
「はい、お願いします」
騎士はゼロのギルドカードを確認して返却するとニーナに話しかけた。ニーナはそれに従ってギルドカードを騎士に渡す。
「確認します。……はい大丈夫ですね。では持ってきますので少々お待ちください」
騎士はそう言って近くで見張りとして立っていた騎士を呼んで少し話をすると門の横にある詰所に入って行った。見張りとして立っていた騎士は通行待ちをしている列に来るとゼロとニーナの後ろに並んでいる人達の対応を始めた。それを見て2人は列から少し外れたところで契約書を取りに行った騎士を待つことにした。
騎士はそれほど時間もかからずにゼロ達のところへ戻ってきた。
「お待たせしました、ニーナさんの契約書を持ってきました。合っているか確認をお願いします」
騎士は持ってきた契約書をニーナに渡す。ニーナは契約書の内容とサインを確認して自分の契約書であると買う人できた。
「はい、間違いありません」
「ではこちらの契約は破棄させていただきます」
ニーナから契約書を返された騎士は呪文を呟く。すると契約書は燃えだし灰になった。
「これで完了です。それとこちらがお預かりしていた一時金です」
騎士は契約書が燃え尽きるのを確認するとニーナに向かって話しかけ、ニーナに一時金を返してきた。
「これを支払ったのは私ではなくゼロなのでそちらに返していただけますか?」
「わかりました。ではゼロさん、お預かりしていた一時金です」
「確かに受け取りました」
ニーナは返される一時金を支払ったのはゼロだと告げて受け取らなかった。騎士はゼロに向かって一時金を返すことを話し、ゼロはそのまま素直に一時金を受け取った。
「ではこれで身分の確認は完了です。お気をつけて」
騎士は2人に挨拶をすると列で対応していた騎士のところへ向かった。
「これでこの町でやることはあと1つだな」
「そうね。頑張るわ」
2人は門を抜けて森を目指して歩き出した。