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現在、仕事が落ち着いているため
2週に1度のペースでできるだけ更新していきます。
もう1つ連載している小説がありますので
そちらと交互に毎週更新を予定しています。
ゼロは魔法の鞄から短剣を出して周りで血を流して倒れているフォレストウルフから毛皮を剥いでいる。その手際はとても手馴れているように見える。それを少し離れたところから見ていたニーナは剥ぎ取りをしているゼロに声をかける。
「上手ね?」
「まぁな、よくやっていたからな」
ニーナの言葉に手を止めずにゼロは答える。皮の剥ぎ取りが終わると、魔法の鞄に血を拭きとった短剣を戻しながらゼロはニーナに声をかける。
「ニーナは火の魔法は使えるか?」
「使えるけど?」
「ならこれらを焼いてくれるか?」
ニーナがゼロの質問に答えるとゼロは周りのフォレストウルフだったものを指しながら言う。
「どうして?」
「どうしてって……知らないのか?」
「何を?」
「なるほど……あのな?」
ニーナの様子に事情を知らないことに気づいたゼロは説明をする。魔物の死体は原型が無くなるくらいバラバラにするか、燃やして灰にしないと高確率でアンデットになる。しかも、そのアンデットは生前より強くなり、生きている者をより攻撃するようになる。そのため、討伐したらバラバラにして地面に埋めるか、灰になるまで燃やすのが一般的だ。また、バラバラにしただけでは他の肉食の魔物が寄ってきてしまうため地面に埋めるようにする。
「できれば解体したりバラバラにしたりしたら水で血も洗い流した方がいいんだけどな」
ゼロが説明をし終えるとニーナは感心したような顔でゼロを見つめていた。
「そんなことをするのね」
「冒険者になったら教えられるけどな」
「そうなの」
「あ、そもそも冒険者があまりよくわからないのか?」
「まぁ、強い人達ってことはわかるけど」
「じゃあ燃やし終わったら町に行くまでに説明するから」
「ありがとう、実はゼロ君が言ってた1級っていうのもわからなくて」
「その辺も説明するから。それよりさっさと燃やして町に向かわないと完全に夜になるぞ?……あとゼロでいい」
「そうね、よろしくねゼロ」
それからニーナは火の魔法を使ってフォレストウルフの死体を燃やしていく。その火力は高く、一気に灰になった。その様子を見届けて2人は街に向かって歩き出す。歩き出してすぐにニーナがゼロに質問をする。
「そういえばこの近くの町って私が行っても大丈夫なの?」
「あれ?魔人族の住んでるところからここを目指して来たんじゃないのか?」
「た、たまたまこの森に来ていたのよ」
ゼロが首を傾げながら聞くとニーナは少し慌てたように答えた。
「なら魔人族の村とかに帰った方が良くないか?」
「だ、大丈夫!せっかくだから他の種族の住んでる町を見てみたいし!」
「そうか?ならまぁいいか」
ゼロの質問に対してニーナは声が大きくなりながら答える。その様子を見てゼロは納得いっていないような顔をしながらも質問はおわりにした。
「さっきの質問だけど、これから向かうのは冒険者の町だから大丈夫だと思うぞ?まぁあの町でも魔人族は見たことないけど」
「そう、ならいいの」
「あ、ちなみに冒険者ってのはな……」
町に向かいながらゼロはニーナに冒険者について説明していく。冒険者とは主に魔物の討伐や捕獲、また魔物がいる場所にある薬草等の採集、盗賊から商人を護衛したりと町から出て危険なところで活動しているものを主に指している。そのため、倒す魔物にも様々な種類があり、向かう場所も多岐に渡る。それはもちろん、採集してくるものの種類も草だけではない。鉱石を取ってきたり、世界の各地にある迷宮と呼ばれる魔物が住み着いている場所に入って、そこでしか取れない物を取ってきたりもする。この世界の一般的な町には必ず冒険者の組合があるくらい身近な職業が冒険者である。
そして、冒険者には階級があり、全部で10段階に分けられる。一番下がまず1級から5級まであり、駆け出しの冒険者は1級となる。またその中に上位と下位があり、冒険者に登録したばかりの冒険者は1級の下位となる。この階級は依頼を受けたり、功績があれば上がっていく。元々別の分野で有名だった場合等は1級より上から始まることもあるがそれは稀だ。昔の冒険者はもっと大雑把に分けられていたが、死ぬ者が多かったため、それぞれの身の丈にあった依頼を受けてもらい、死亡率を下げるために細分化された。それでも無謀に自分の敵わない魔物に挑んで死んでいく冒険者は後を絶たない。
そんな冒険者には身分を証明できるギルドで発行されているギルドカードがある。もちろん他のギルドでもギルドカードは発行されている。しかし、冒険者のギルドカードには階級によって特典がついたりする。国を渡るときの税の軽減|(階級があがれば免除もされる)や宿屋の代金の割引|(冒険者のギルドと提携している宿に限る)等がある。
また、冒険者になるためには冒険者のギルドで登録手続きをするだけでいいので簡単に手に入る。登録するときに発行料がかかるが、それも後払いにできる。
ゼロがニーナに冒険者について教えていると2人は森から出て森の横を通っている街道に出ることができた。街道の向こうは草原になっている。辺りはすっかり暗くなり、うっすらと周りの景色が見える程度だ。そして街道のうち森から出て左側の空はぼんやりと明るくなっているのが見える。
「森から出れたな。このまま向こうに歩いて行けば町に行ける」
ゼロは空が明るくなっている方を向きながらニーナに話しかける。
「あの明るくなっているのが町かしら?」
「そうだ、まぁ森から出れたけどもう少し歩いて行かないといけないな」
そう言ってゼロは町に向かって歩き始める。ニーナもゼロの横に着いて町へと歩き始めた。
町に近づくとそこには高い壁に囲まれた町が見えてきた。その高い壁の上から町の中の明かりが漏れていたようだ。近づくにつれて町の喧騒も聞こえてくる。日が落ちて時間が経っているが、この町の住人達はまだまだ眠らないようだ。
町に近づく前にフードを被りなおしたニーナは、壁を見上げてその様子に意識を向けている。ゼロもニーナの様子に気づき、話すのを止めて隣を歩いていた。
町に着くと、街道は大きな木でできている門まで続いていた。その前には2人の兵士が立っている。その兵士たちは街道から歩いてくるゼロとニーナが門に近づいてくると2人に近づいてくる。
「こんばんは」
2人の兵士のうち若い兵士がゼロとニーナに話しかける。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
兵士に話しかけられ、ゼロはいつも通りの口調で挨拶をする。ニーナは意識が町に向いていたことと、兵士に話しかけられた緊張によって少し言葉に詰まりながらも挨拶を返す。
「お2人は身分を証明できるものはお持ちですか?」
「はい、どうぞ」
兵士の質問に対してゼロは魔法の鞄からギルドカードを出して渡す。ゼロのギルドカードは鈍色で、名前等が記載されている。ギルドカードの右下には「-」の記号が付いていて、その記号が下位である証明になっている。
「1級の下位ですか。こんな時間まで依頼をしていたんですか?」
「薬草を採っていたら夢中になってしまって」
「まだ冒険者になったばかりで楽しいのはわかりますが、夜の森は危険が増すので以後気をつけてくださいね?」
「気をつけます」
兵士とゼロがやりとりをしている間、ニーナはどうしようかと焦っていた。身分を証明するもの等持っていないからだ。その様子をもう1人の兵士はじっと見つめていた。