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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
2 雨の中の勇姿
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雨の中の勇姿 Ⅴ



 6月2日は、初夏の爽やかさとは程遠い、ほの暗く雨がしのつく日になった。

 箏曲部の練習場所は、高校の敷地の端にあるセミナーハウスにある。


 箏曲部の練習は、3年生を中心にとても熱が入っていた。運動部の子に限らず文化部の子も、3年生はこの6月に行われる大会を最後に引退する。

 琴をつま弾く真剣な表情は、その気迫を物語っていた。4月に入部した1年生たちも、足を引っ張らないように必死な様子。


 そんな練習の内容の濃さに引き替え、練習に付き合うだけで、何もすることのないみのりは、手持ちぶさたで無為な時間を過ごした。


 窓の外を眺めると、しとしとと依然雨が降り続いている。



――ラグビーの試合は、こんな日でもやるのかなぁ~……?



 雨の中でもラグビーの試合をしている光景を、テレビで見たことがある。石原も、「霧でボールが見えなかった時と、雪が降ってラインが見えなくなった時以外は中止になることはない」と、言っていた覚えがある。


 …でも、琴の練習の方は、まだ終わりそうになく、もう時計はとっくに12時を回っている。



――雨だから、あんまり車を飛ばしたくないんだけどなー。でも、私の本分は、箏曲部の方なんだし……。



 みのりはそう自分に言い聞かし、時計を見ながら、そわそわと練習が終わるのを、ただ待っていた。




 それから……、みのりが競技場の近くのインターチェンジで高速道路を降りた時には、もうすでに2時になろうとしていた。


 琴の練習が終わり、セミナーハウスの施錠をしたの12時半すぎ。雨のせいでやはりスピードを出せなかった。


 こんな時に限って、ことごとく信号に引っかかる。



――早く~早く~……。



 唇を噛み締めながら、ハンドルをコツコツと叩いた。気ばかりが急いて、間に合わないのではないかと、不安になってくる。


 やっとのことで競技場に着いたのだが、今度は駐車場が満車で入れない。

 雨だから観客も少なく、もしかしたら駐車できるのではないかと思っていた、みのりの予測は見事に外れた。駐車場ジプシーになってしまい、競技場の周りをうろうろしても、一向に駐車場は見つからない。



――ああ~……、試合が終わっちゃうよ~。



 みのりはハンドルを握りながら、泣き出したい気分になった。


 いっそのこと路上駐車でもしようか…、と思い始めた時、みのりは近くに高校があることを思い出した。この高校に勤務したことはないけど、背に腹は替えられない。



――同じ県立高校の職員だから、許してもらえるでしょう……。



と、勝手に決め込んで、その高校の職員駐車場に車を停め、傘をさして飛び出した。


 車だったらあっという間の距離なのに、歩くとなると結構ある。みのりは息を切らして、雨の中をひたすらに走った。



 競技場に着き、階段を駈け上がる。

 観客席に出ると、芳野高校の真っ青だった……であろうジャージの色が目に飛び込んできた。

 息を落ち着ける間もなく場所を移動し、状況を確認するため電光表示板を探す。


 時間は後半戦が10分ほど経過したところ、得点は……21対17。



「負けてるじゃん!」



 近くにいた数人が振り返ったので、みのりは自分が思わず大声を出してしまったことに気がついた。口を押さえながら、雨に濡れない屋根の下に腰を下ろす。



 雨の中の試合なので、既にグラウンドはぬかるみ、田んぼのような状態になっている。そこを走り回り、タックルを繰り返すのだから、選手たちのジャージはもう泥まみれで泥水が滴り落ちている。


 後半戦も中盤に差し掛かって、選手たちも一番しんどい時だ。

 選手たち誰もが肩で大きく息をし、スクラムを組もうとする動作も緩慢になっている。



「あんまり時間はないぞ!!でも、まだまだ1トライで逆転できる。集中しろ!!」



 顧問の江口先生が叱咤する。負けているので、残り時間がとても気になる。

 観客席からは遠いところでスクラムを組んでいるので、みのりは目を凝らした。


 フォワードの選手が3人、肩を組んでいる。その真ん中の一人が、ずんぐりした衛藤だ。3人の後ろに4人、最後の1人が順番に肩を付けていき、低い唸り声とともにぶつかり合った。

 青のジャージの選手がラグビーボールを手に持ち、スクラムの中に投げ入れる。




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