ラグビーの勉強 Ⅵ
話が一段落したので、遼太郎はサッと日本史のノートや教科書をしまった。
これから勉強をするのに何でしまうんだろう?という疑問が、みのりの顔に浮かぶ。その表情を確かめて、
「先生、今日はこれを持ってきました。」
と、遼太郎はラグビーの解説書を机の上に置いた。それに目を遣ったみのりがその目を見張って、次に遼太郎を見た。
「ラグビーのルールを教えてくれるの!?」
「昨日、約束したから。」
遼太郎は恥ずかしそうに、小さく笑った。
「でも、狩野くんの貴重な時間がもったいないし……。」
みのりが躊躇すると、遼太郎は首を横に振った。
「先生がこれからも試合の応援に来てくれるなら、知っててほしいし。」
断固とした口調で遼太郎が言うので、みのりは肩をすくめた。
「そう?……じゃあ、狩野先生。教えて下さい。」
と言いながらみのりは、きちんと膝を揃えて手をその上に置き、ペコリと頭を下げた。
その仕種の嫌味のない可愛らしさと、「狩野先生」なんて言われて、甘い動揺が遼太郎の全身を襲う。けれども、なんとか平常心を取り戻して机に向かった。
遼太郎がコホンと一つ咳払いすると、みのりは自分の備忘録のための小さいノートのきれいなページを出して、準備をした。
「先生、ラグビーって、どんなゲームをするスポーツだと思いますか?」
『いきなりそう来たか…』という顔をして、みのりは遼太郎を見て目をパチパチさせる。
「ボールを持って走るでしょ?相手チームはそれを阻止しようと、タックルする。タックルされまいとパスして、パスして、トライ!やったー!って感じ…かな?」
みのりが苦しまぎれの稚拙な説明をすると、遼太郎は口角を上げて笑いを含んだ顔をした。
そして、次第に笑いが抑えられなくなって、ククク…と笑いを漏らした。
「え!?違った?試合を見てそんな感じだと思ったんだけど…。」
みのりは、恥ずかしくなって真っ赤になった。
「いや、……だ、大体合ってます。そんな簡単にトライ出来たらいいんですけどね…。」
笑いながら遼太郎がそう言うと、みのりはウンウン、と頷いた。
「先生、ラグビーって、簡単に言えば陣取りゲームなんです。」
「えっ!そうなんだ!」
みのりは驚いた顔をして、左手を口に当てた。
「グラウンドがあって」
そう言って、遼太郎は解説書のグラウンド説明のページを開いた。
「ボールを持ってる選手の後ろがそのチームの陣地になるんです。だから、このボールよりも前にいる…敵の陣地にいる選手は、プレーに参加出来ません。参加した場合、オフサイドって反則になります。」
グラウンドの解説図を指差しながら、遼太郎が説明すると、みのりが目を輝かせた。
「狩野先生!今ので目からウロコが落ちました。なんだか、解った気がします!」
案外単純なみのりに、遼太郎は机に突っ伏して笑いを堪えた。
そんな遼太郎を、みのりは首を傾げて見つめる。
「先生って…….。面白い。」
笑いが収まって顔を上げた遼太郎が、そうつぶやく。
「面白いって、どういう意味?ね、それより、だから前にいる人にパスできないのね?それじゃ、前にボールを投げるのもダメなのよね?」
なんで自分が笑われているかよりも、みのりの興味はすでにラグビーについての知識を増やすことにあった。
さすがに、呑み込みの速いみのりに、遼太郎は少し驚く。
「そうです。それはスローフォワードって言って、反則になります。だけど、前にキックするのはアリです。」
「あっ、そうだよね。キックはするよね!」
「前進して陣地を増やすためには、ボールを持って走るか、キックするしかないんです。」
「陣地が広ければ、ゲームの展開も有利に運べるわけね。」
「それと、いかにボールを支配するかです。たくさんボールを保持できてると、必然的にボールを前に運べるのでやっぱり得点しやすいです。だから、死にもの狂いでボールの奪い合いをします。」
「それで、タックルするのね!」
「1対1での奪い合いがタックルなら、いや、2人以上でもタックルに行きますが…。チームが力を合わせる奪い合いをモールやラックと言って…。」
解説書のページをめくり、遼太郎は写真を見せながらその説明をする。
「ね、この写真、スクラムと似てるけど、スクラムってどういうときにするの?」
「スクラムは、さっき言ったスローフォワードみたいな軽い反則をしたときに、ゲームを仕切り直して再開する方法です。俺はバックスなんでスクラムは組みませんけど。」
「衛藤くんや二俣くんは組むのよね!ぶつかり合うときの『ウッ!』っていう低い唸り声、男っぽくってドキドキしちゃう!」
両手を握ってみのりが頬を紅潮させた。




