ラグビーの勉強 Ⅱ
「何で、俺だけなんですか?」
その答えが、無性に遼太郎は知りたかった。
「何でって…。狩野くんはいちばん一緒にいることの多い生徒だし…。うーん…。何て言ったらいいんだろう…。」
そう言いながら、みのりは目を伏せて少し考え込んだ。
「……そうね。狩野くんは一人の人としてとても魅力的だから、もっと狩野くんのこと知りたいと思って、見ているからじゃないかな?」
自分の気持ちを一つ一つ確認しながらそう話し、遼太郎を見返した時、みのりの目をジッと見つめている遼太郎の瞳がそこにあった。
今度は気のせいではなく、みのりの鼓動がドキン!と大きく脈打ち始めた。以前のように、遼太郎に抱きしめられたり触れたりしていないのに、動悸はどんどん激しくなる。
遼太郎は、みのりがたった今発した言葉の意味を噛み締めていた。胸がいっぱいになってしまって、何と応えていいのか分からない。
まるで、恋してることを告白したようにも受け取れる言葉だ。その真意を探ろうと、遼太郎はみのりの目をまっすぐ見つめた。
みのりも自分が言ったことを思い返して、自分の中にそんな想いがあることに改めて気づき、突然赤面してうろたえた。
「あの、その……。」
深い意味はないと、遼太郎に言いたかったが、言葉には嘘はなく、みのりの正直な気持ちだった。取り繕うと、逆に変な誤解を生じかねない。
「そう…。それで、狩野くんは『好きな子がいる』って断ったらしいけど、そこが私の記憶と違うから、『あれ?』って思ったんだよね…。」
みのりは、自分の狼狽を隠すように、話の矛先を遼太郎に移した。
以前、遼太郎が「心の底から好きな人」はいないと言っていたこととの矛盾を、みのりは衝いていた。
「それは……。」
遼太郎は言葉を詰まらせる。
本当のことを言いたいのはやまやまなのだが、それはみのりに「好きだ」と伝えることになる。
「……いいの、いいの。言わなくても。高校生だもん、好きな子くらいいるわよね。誰のことか…なんて、野暮なことは訊かないから。」
みのりは遼太郎の様子を察して、気を遣って柔らかい笑顔を作った。
――好きな人は、先生です!
遼太郎は切なく痛む心の中で、何度もそう叫んでいた。
さっき聞いたみのりの好意的な言葉に後押しされて、いっそのこと告白してしまおうか…とも考えた。
――……ダメだ。まだ、今は…!
みのりが不倫相手と別れてから、まだ1ヶ月しか経っていない。自分もまだ、〝いい男〟にはほど遠い。
でも、このまま黙っていれば、みのりは誤解したまま遼太郎に接するだろう。
「…あの、断る時に、いちばん傷つけない理由を考えて、そう言っただけで。本当に好きな人がいるわけじゃないんです。」
みのりに嘘をつくのは気が進まなかったが、そう言って誤解を解くしかなかった。
すると、みのりはホッと気を抜いた顔つきになる。
「なぁんだー。そっかー。ま、でも、それが賢明かも。好きな子や彼女は大学に行ってから作った方がいいかもね。」
みのりの気分を受けて、遼太郎も内心緊張を融き、表情を緩める。
「いや、別にほしいとは思ってないし…。」
いつものように、そっけない受け答えをする。
「またー、そんな気の無いこと言って。人を好きになることは、すごく力の源になるのよー。」
それは、みのりに言われなくても遼太郎は身をもってそれを経験していた。自分がここまで頑張れるのも、みのりを好きになったからにほかならない。
「心配しなくても、きっと、狩野くんは大学に行ったらモテモテよ!」
「えっ!?俺が……?」
「今でもそれだけモテてたら、大学にはもっと見る目のある女の子はたくさんいるもん。考え方も高校生より大人になるし、狩野くんの魅力に恋しちゃう子が何人もいるはずよ。私が保証してあげる。」
「いや…。俺が…。想像できない…。」
遼太郎は首の後ろを掻きながら、首を横に振った。遼太郎には、自分が同じクラスの平井のようにモテている図は、到底想像出来なかった。
それに、遼太郎は大勢の女の子に恋されるよりも、ただみのり一人に想われたかった。
みのりは面白そうに、笑いを漏らして続ける。
「現に、今だって、あの子以外にも狩野くんをカッコいいって言ってる子はいるんだな、これが。」
「え…!?」
「私が毎日授業に行ってるって言ったら、『いいなぁ』って言われちゃった。個別指導までしてるって知られたら、私ライバル視されちゃうかも。」
みのりはニンマリと笑い、頬杖をついて遼太郎を見た。
――その子にライバル視されることを、先生はどう思ってるんだろう……。
遼太郎は自分に想いを懸けられることよりも、みのりが自分をどう想っているかの方が気になっていた。




