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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
11 絶世の美女
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絶世の美女 Ⅵ



「先生、でも、ちょっともったいないね。この前の式典の時の先生、髪の毛アップにしててすごくきれいだったから。」



 平野がそういうと、「あー…」と、みんな一様に同意のため息を漏らした。



「まあ、そうかもしれないけど。毎日あんなヘアースタイルできないもの。あの髪と化粧するのに、朝5時起きして準備したんだから。」


「えー、5時起き!」


「気合入ってる!」



と、いろいろと声が上がった。



 ざわめきが一通り収まったとき、遼太郎は不意に、あの日のみのりとの会話を思い出す。そして、無意識にプッと吹き出してしまった瞬間、教室中の視線が遼太郎に集まった。



「狩野くん、どうしたの?」


「遼太郎、何だよ。何がおかしかったんだ?」



 口々に周りの生徒たちが、遼太郎に問いただす。遼太郎は手を振って、何でもないことを示していたが、合点のいかない二俣が、業を煮やした。



「遼ちゃん、何だよ。教えてくれよ!」



 親友である二俣にそう言われて、遼太郎はみのりを見た。



「先生、言ってもいいですか?」



 遼太郎が何のことを言っているのか分からないみのりは、首をかしげて、



「何?私も知りたいわ。」



と、頷いた。

 遼太郎は改まって、居住まいを整えて口を開く。




「そういえば式典の日の先生、綺麗になるために峰不二子をお手本にしたって言ってたなぁ…って、思い出したんです。」



 思い出しながら、また可笑しさがこみ上げてくる。



「何?峰…?」


「峰不二子って言った?」


「ルパン3世の?」


「……!」



 一瞬の沈黙の後、どわっ!と教室中が沸いた。



「いやー、先生。面白すぎ!」


「ガッキーじゃなくて、不二子ちゃんだったかー。」


「先生―、これから、俺。『ふぅーじこちゃーん』って、呼ぶことにするわ。」



「先生、先生!不二子みたいに『ルパーン』って、言ってみて!」


 皆お腹を抱えて、笑い転げている。



 大騒動の中、面食らったみのりは、遼太郎と目を合わせた。

 遼太郎が謝るように肩をすくめたので、みのりは教卓に肘をついて息を抜くように笑った。



 その時、隣の教室で授業をしているはずの古庄が、教室の後ろのドアを開けた。しかし、その周囲の者しかそれに気が付かず、依然生徒たちは騒いでいる。



「あっ!仲松先生。いたんだ。」



 教壇の上にいるみのりを見て、古庄が言うと、生徒たちはいっせいに古庄を見た。



「あ、すみません。うるさかったです?」



 教卓の前からみのりが声をかける。



「いえ、あんまりにぎやかだったから、先生がいないのかと思って。」


「ごめんなさい。授業の邪魔をしました。さあ、みなさん静かにしましょう。」


「いえ、楽しそうでいいですね。」



 古庄は爽やかすぎる完璧な笑顔を残して、ドアを閉めた。



 みのりは古庄をいなくなったのを確認して、教卓に片肘をついたまま片手を振って、



「ごめんね、ルパーン。」



と、妖艶そうな作り笑いをして言ったので、再び教室中は大爆笑の渦となった。


 廊下にいた古庄が、びっくりして教室を振りかえる。



 遼太郎は、みのりのユーモアを面白いと思い、そんなみのりの楽しさも好きなところだったが、みのりに馴れ馴れしい(…と遼太郎が勝手に思っている)古庄の存在自体が少し引っかかっていて、みんなのように無邪気に笑えなかった。



 遼太郎の心の中とは裏腹に、みのりはこうやって3年1組で授業をするときが、一番心が休まる時となっていた。


 日々の仕事に忙殺されているときでも、ちょっと落ち込むようなことがあったときでも、このクラスの無邪気で屈託がなく、それでいて1年生のように幼くない生徒たちには心から打ち解けられ、心が重くなることも忘れられた。



 現に今も、みのりの心を暗く蝕んでいる哀しい出来事も、洗い流されていくようだ――。




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