女同士の話 Ⅳ
「遼ちゃん、最近変わったなぁ。」
合宿の休憩中に、二俣がスポーツ飲料を飲みながら、遼太郎の隣に腰かけた。
「ん?どこが?俺、ふっくんみたいになかなか筋肉つかないんだけどなぁ……。」
自覚のない遼太郎は、戸惑っているような顔をした。
「いや、身体のこと言ってるんじゃなくて。最近、遼ちゃん、やる気に満ちあふれてるっていうか……。」
「ああ、そのこと。それは多分、仲松先生のお陰だと思う。」
「ん!?なんで、みのりちゃん!?見かけによらず、ラグビーのこと詳しいのか?」
「アハハハ…、そうじゃないよ。」
突拍子のない二俣の発想に、遼太郎はみのりがラグビーをしている絵がまた頭に浮かんで、笑いが湧いて出た。
「俺が日本史の個別指導受けてたの知ってるだろ?それで、勉強の仕方を教えてもらって、それをいろんなところに生かしてるってわけ。」
「日本史とラグビーが関係あるのか?」
二俣は訳が分からないといったふうに、顔をしかめた。
彼のような直感で動いてそれで大抵うまくいくようなタイプでは、遼太郎の言うことはよく解らないのかもしれない。
でも、チームのメンバーの誰もが、二俣のような能力の持ち主ではない。きちんと弱点を分析して、それでもって練習しなければ、なかなか実力は付かない。それを、みのりから言われた日本史のノートづくりで遼太郎は体得していた。
それはラグビーだけではなく、他教科の勉強にも役立っていた。
「それが、関係あるんだな。」
ふふんと鼻を鳴らし、得意そうな顔で遼太郎は笑った。
「よく解らんけど、みのりちゃん、すごいな。」
二俣が感心して言うと、自分の好きな人を賞賛された遼太郎は、もっと嬉しくなる。
「うん、先生はすごいよ。」
と、優しげな表情になって相づちを打った。
この表情を見て、二俣は何か直感で感じ取ったのか、別の話題を持ち出した。
「そう言えば、遼ちゃん。小泉智香、フッただろ?」
いきなり二俣にその話を持ち出されて、遼太郎は腰が抜けそうになった。
『何で知ってるんだ?』と言わんばかりの顔で、二俣を見返す。
「沙希が言ってたんだよ。『狩野さんに智香ちゃんがフラれた。』ってね。『好きな人がいるから、付き合えないって言われたみたい』って。」
遼太郎は二俣から目を逸らして、グラウンドに生える健気な草を見つめ、顎に生える剃り残しの髭を指でこすった。
「うん。それは事実だ。」
「事実だって…、遼ちゃん……。あの子泣いてたらしいぜ……?」
それを聞いて遼太郎の心は痛んだが、かと言って想いに応えられないことはある。
何より、みのりのあの哀しみに比べたら、小泉智香の失恋などかわいいものだ。
「そうは言っても、ふっくんだって、沙希ちゃんがいるのに、他の子にコクられても困るだろ?同じだよ。」
二俣は口を尖がらさせて、考え込んだ。
「同じって、遼ちゃん。彼女いんのか?誰だよ。」
「……か、彼女じゃないよ。」
突然、遼太郎は赤面する。
「ただ、俺が一方的に想ってるだけで……。」
と、最後の方は消え入るような声になった。
「え!でも。誰だよ?遼ちゃん!俺、初めて聞くぞ!」
「今はまだ言えん!」
好奇心に目が輝きだした二俣から、遼太郎は立ち上がって逃げ出した。
〝好きな人は先生〟その自分にとって初めての感情は、まだ誰にも教えたくなかった。まだ今は、宝物のように胸の中の一番大切な場所に置いて、自分だけで何度も覗いてみたかった。




