表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
8 体育大会のハプニング
44/190

体育大会のハプニング Ⅵ




「どうしたの?大丈夫?傷、ちょっと見てみてもいい?」



 みのりはタオルを外して、遼太郎の傷を確認する。

 眉尻のところがぱっくりと裂けてしまっており、まだ血が流れ出していた。急いでタオルを元に戻したが、傷を見てしまったみのりは真っ青になり、めまいを感じてよろけてしまった。



「先生の方が、大丈夫ですか?」



 遼太郎がフッと笑う。



「だ、大丈夫よ。……たぶんね。」



 とは言うものの、みのりの顔はまだこわばっていた。それを上目に認めてから、遼太郎はさらに口角を上げた。


 笑われているのが分かったみのりは、紛らわせるために話しかける。



「……ど、どうして、こんなことになっちゃったの?」


「俺、騎馬の上に乗ってたんですけど、騎馬が崩れて落ちるときに、他の崩れた騎馬のやつの上に落ちて、誰かの肘がもろにここに入ったみたいなんです。」



 遼太郎の説明を聞きながら、みのりはその状況を想像して、顔をゆがめた。



「それは大変だったね。これはさすがに、痛いでしょう?」


「痛いですけど、……ま、大したことありません。」



 普段からラグビーで鍛えている遼太郎にとっては、騎馬戦での混乱は慣れている状況なのかもしれない。



 血は大分止まってはいるが、こうなるまでに随分流血したのだろう。首筋から身体を流れ落ちた血が、すでに乾いて固まっている。



「この身体についてる血も拭かなきゃね。ちょっと、このタオル自分で押さえててくれる?」



と、みのりは何か拭き取るものを探し始めた。



 その時、一人の女子生徒が救護テントを覗き込んだ。その様子に気づいたみのりが、目を向ける。



「どうかした?気分悪い?」



 声をかけると、遼太郎も女子生徒の方に目をやった。女子生徒はあわてて首を横に振って走り去る。


 その不可解な行動に、みのりは首をひねりながら改めて周囲を物色して、



「これ、ガーゼがあるから…」



と、手洗い用のタンクの水を使ってガーゼを濡らし、ギュッと絞って遼太郎の正面に来た。



 まず、顔にこびりついた血を拭き取る。固まっていてなかなか取れないので、みのりは左手で遼太郎のうなじに手を添え、頭が動かないようにして擦り取った。


 みのりの顔がすぐ近くにあるので、遼太郎は緊張して表情を硬くする。

 その微妙な変化を、みのりは察して、



「動かすと痛い?」



と、様子を窺う。



「いえ……。」



 遼太郎は気の利いたことが言えず、短く答える。


 しばしの沈黙。



「そういえば、さっきの子…」



 拭き取り作業をしながら、みのりが口を開いた。



「この前、ラグビーの試合に応援に来てたよね。」


「え……!?」



みのりの意外な発言に、遼太郎は素直に驚いた。


「覚えてない?二俣くんの彼女の隣にいた子。水色の洋服着てた。」


「ああ……。」



 とは言ったものの、遼太郎の記憶は極めてあいまいだった。あのときは私服で、今日は体操着を着ているし、まるでイメージがかぶらない。



「先生、よく判りましたね。」



 首筋に付いた血を拭き取ってもらいながら、遼太郎がそう言うと、みのりは柔らかく笑った。



「生徒の顔を覚えるのは大事なことなのよ。なかなか覚えられない子もいるけどね。でも、あの子、この学校の生徒だったのね。二俣くんの彼女は御幸高校の生徒って言ってたけど……。」



 その時、放送があり、体育大会のフィナーレを飾るフォークダンスの隊形になるようにと言っている。



 この放送を聞いて、救護テントにいる生徒たちもグラウンドへ向かい始め、テントの中には遼太郎とみのりだけになってしまった。



「あら、フォークダンス?もう始まっちゃうの?狩野くん、どうする?出たい?もう血が止まってるなら、出てもいいんじゃない?」



 〝フォークダンス〟という響きに少し興奮して、みのりは遼太郎に話しかけた。



「いえ、別に出なくてもいいです。」



 遼太郎があまりにもサラッというので、みのりは遼太郎の目を覗き込む。



「えー!?女の子と正々堂々と手が繋げるチャンスなのに、出なくていいの?」



 信じられないという感じで、みのりが肩をすくめながら確かめても、



「別に、手なんか繋ぎたくないし……。」



と、遼太郎はにべもない受け答えをする。


 年頃の男の子なのに、女の子に興味がないのだろうか……?



 みのりは目をパチパチさせていたが、気を取り直してガーゼの面を替え、遼太郎の胸に付いた血を拭き取り始めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ