体育大会のハプニング Ⅴ
そして、もっと盛り上がるのが、体育部のリレーだ。もう引退した3年生も、久しぶりのユニフォームに袖を通し、やる気満々で臨む。
宇佐美が白い剣道の胴着に防具を身に着け、竹刀を持って走っている。イケメンの平井も黄色い歓声の飛ぶ中、バスケットボールを持ちにくそうに抱えながら走っていた。
中でも、いまだ現役のラグビー部は手慣れた様子でラグビーボールを抱え、走りに走って、陸上部と互角の勝負をしていた。
みのりは応援しながら、猛牛のように走る二俣には思わず笑いを漏らし、タックルに邪魔されずに走る遼太郎の足の速さには驚きを隠せなかった。面白いのが、ラグビーのルールにのっとってか、それともただの癖なのか、走者は必ず次の走者を追い越してからボールをパスしていたことだ。(※)
女子全員で行われる団体競技は綱引きで、その他、学年別の団体競技などが滞りなく行われてゆき、男子全員が出場する騎馬戦でクライマックスを迎える。
やはり体育大会は、何だかんだ言っても男の子の舞台だ。男の子は不思議なもので、メンツのかかった勝負にはとことんこだわり真剣になる。
だから、この騎馬戦は、どこの高校でも熱い闘いが繰り広げられるのだ。熱くなればなるほど流血沙汰も多く、みのりが以前勤務していた高校では、救急車が来てしまったこともあった。
男の子たちは皆、運動部の筋骨隆々のマッチョくんも帰宅部ガリ勉のウラナリくんも、例外なく上半身裸になって整列し、4人一組で騎馬を作っていく。
危険な行為がないように見張るため、男性の教員たちは皆審判として駆り出された。これから始まる闘いに、みのりもわくわくしてテントの下から身を乗り出す。
3回ほど3つの団が入り混じって戦われ、トータルで残った騎馬の多い団の勝ちになる。
スタートの合図が鳴ると、
うぉーーーーーっ!
という地響きのような鬨の声とともに3色の騎馬が入り乱れた。
小学校のように帽子を取って終わりではなく、騎馬が崩れた段階で失格となる。どんどん戦いを挑む騎馬、どんどん逃げ回る騎馬。始まって数分もしないうちに、騎馬はどんどん少なくなっていく。
もうもうと砂煙の上がる中、騎馬の正面になって駆け回る二俣の姿が見えた。
いつもは仁王立ちする熊や突進する猛牛を連想するみのりだが、この二俣の姿は、鬼気迫る形相といい隆起する筋肉といい、
――うーん。まるで、東大寺南大門の金剛力士像だな!
みのりは、日本史の資料集の写真を思い出して、思わず笑いを漏らした。
二俣の姿が確認できたので、遼太郎や衛藤、その他知っている男の子たちを探したのだが、群衆の中に紛れていて、結局見つけられずに3回戦とも終わってしまった。
その騎馬戦の余韻も冷めやらぬ時、
「仲松先生!ちょっと、こっち手伝って!」
と、お呼びがかかった。
騎馬戦の後なので、負傷者がいるのであろう。みのりは救護係のテントへと、急いで向かった。
擦り剥いた傷がほとんどで、きれいに洗って消毒をして、絆創膏を張ってやる。みのりがせっせと働いていると、養護教諭から声をかけられた。
「仲松先生。こっちへ来てくれます?」
「はい。」
養護教諭のところへ行ってみると、パイプ椅子に座る上半身裸の男子生徒の目じりの上を、タオルで押さえている。
「ちょっとこの子のここの血が止まるまで、押さえててもらえます?私、あっちの熱中症の子の様子を見てきますから。」
「はい。」
と、タオルの位置は変えずに、そのまま養護教諭と入れ替わった。
「血が止まったら、このテープを貼ってあげて。」
「あっ…、はい。」
みのりは右手でタオルを押さえ、左手を後頭部に添えた体勢で、振り返って返事をした。
それから男子生徒に向き直って、「大丈夫?」と声をかけようとしたところ、
「……あら?狩野くん!」
と、初めて負傷した男子生徒が遼太郎だと気が付いた。
遼太郎はきまり悪そうに、目配せしてあいさつの代わりにする。
(※ ラグビーのルールでは、自分より後ろの選手にしかパスができない)




