体育大会のハプニング Ⅱ
そうしているうちに練習は終わり、選手たちはユニフォームに着替え、試合が始まった。
すると、今日の試合は6月の高校総体の県大会の時とは違った。相手が弱すぎるのか、芳野高校が強くなったのか……。
ラインアウトでもことごとく芳野高校ボールになる。芳野高校の攻撃は、あまりディフェンスに阻まれることなくトライを決める。
逆に、相手高校の攻撃は、すぐにターンオーバーされる始末。前半の30分ですでに大差がついており、楽勝ペースだった。
それでも生徒たちは、ハーフタイムの時にはそんな余裕は少しも感じさせず、江口の話を輪になって真剣に聞いている。
彼らにとって、この試合は通過点に過ぎず、目標は花園予選を見据えている。少しでも強くなれるために、都留山高校と互角に戦える力を付けられるためには、些細なことでも貪欲に吸収しようと求めていた。
そんなひたむきさを見せる生徒たちを、みのりはとても愛しく感じてしまう。
それはラグビー部の生徒たちに限ったことではないが、クラスの他の生徒たちが受験に向かって力を傾注する中、この子たちは受験勉強と部活の最後の大会と両方に向かって頑張っている……。
それを改めて認識して、みのりは感動して涙がこみ上げてきた。
でも、今日は大きなサングラスをしているので、涙目になっても他人に気取られる心配はない。
江口の話が終わり、後半が始まろうとする時、ヘッドキャップを手に持った遼太郎が観客席を見上げる。
じーっとみのりの方を凝視して、口の端をかすかに上げて笑いかけた。
――……え!?
みのりの胸が、ドキンと一つ大きな鼓動を打った。
――まさか、私を見てるわけじゃないよね?狩野くんのご両親でも、この辺にいたのかしら?
今日のみのりは意識して変装してきたので、自分だと見破られない自信があった。
遼太郎の笑顔が自分に向けられているとは思いもしないし、ここにいることは気づかれたくなかったので、みのりは何も反応せず、ただ遼太郎を見守った。
後半は、芳野高校はもっと波に乗り、試合はあっけなく大差で勝ってしまった。もともと出場校が少ない上、都留山高校が不出場ということもあって、芳野高校はこれで優勝することになるらしい。
前回の雨の中での白熱した試合のような感じを予想して、思いっきり応援をしようと思っていたみのりは、少々拍子抜けした。
試合後すぐに表彰式が行われて、優勝と準優勝のチームの選手たちが並ぶ中、二俣と膳所が賞状とトロフィーを受け取った。
後ろの選手たちの列にいる遼太郎は、取り立てて大柄なわけではなく、極めて平凡な選手だが、みのりは同じユニフォームを着る選手たちの中から遼太郎をすぐに判別した。
肩を保護するためのショルダーベストを着けているので、いつもよりもがっちりといっそう逞しく感じる。
形式的な儀式が終わった後、いつもの試合後の雰囲気が戻ってきた。勝って終わったので、空気は極めて和やかだ。
そんな中で、二俣と遼太郎が、二人で何か話している。
――あの二人は、本当に仲がいいんだなぁ……。
と、みのりが微笑ましく思っていた時、
「みのりちゃーん!」
二俣が観客席にいるみのりを見上げて声を上げた。
ドキッ!として、みのりの思考が止まる。
「おーい!みのりちゃーん。みのりちゃんだろー?」
片手を口横に当て、もう片方の手を振りながら二俣は、みのりを呼び続ける。きっと、返事をするまで止めないだろう。
みのりは逃げ出そうかとも思ったが、思い直してすっくと立ち上がり、足早に観客席の階段を駆け、フィールドの際まで降りていった。
「しーっ!今日私はここにいちゃいけないんだから、そんなに大きな声で呼ばないで!」
みのりが口に人差し指を当てて、慌てて言う。
「やっぱり、みのりちゃんかぁ!何でそんな格好してんの?」
「だって、箏曲部の部活、仮病使って外部講師の先生に任せてきたから。こんな所にいたらマズイでしょう!?だから、一応変装してきたの。」
「変装って……、すげーサングラス。ヤンキーみてえ。」
二俣にそう言われて、みのりは思わずサングラスを取ってしまう。
「ヤンキーって、失礼しちゃう!変装もあるけど、この目を見せられないのもあるんだから…」
みのりは目の周りを隠すように、指先を目の下に当てた。




