体育大会のハプニング Ⅰ
秋季大会の日、試合の前のウォーミングアップをしていた遼太郎は、観客席にいる一人に目を止めた。
動作を止めて凝視する……。
「どうした?遼ちゃん。」
その不自然な様子に、二俣が声をかけた。遼太郎は観客席から目を離さずに答える。
「仲松先生がいる…。」
「えっ!?みのりちゃん?でも、今日は来れないんだろ?」
と、二俣も観客席に向かって目を凝らす。
「ん?何処にいる?」
額に手をかざして探すが、二俣には見つけられない。
「ほら、あのつばの大きなベージュの帽子を被って、サングラスしてる。あっ、今立ち上がった……。」
遼太郎の言う通り、一人の女性が歩いて日陰の観客席に場所を移していた。
白いぴったりした七分袖のTシャツに、ベージュ色のショートパンツにサンダルという出で立ち。
「ええっ!!あれは、みのりちゃんじゃないだろ!?イメージが違いすぎるぞ!」
いつものみのりは、ふんわりしたフェミニンな感じの服装が多かった。
しかし、遼太郎は断言した。
「いや、あれは先生だ。」
顔もはっきり判別できないのに、あまりにも遼太郎がきっぱり言うので、二俣には疑問がわいてくる。
「なんで、判るんだ?」
「なんでって、身体でかな。」
「……かっ、身体……っ!?」
二俣は目を剥いて、顔を赤くした。遼太郎も二俣がどう解釈したのかを悟って、同じく顔を赤らめる。
「……い、いや、違う!!見た感じでだ!見た感じ!!」
と、必死で言い直したが、二俣はからかうように肩をすくめて、ランキングを再開した。
「ふっくん!先生には言うなよ!!」
遼太郎は二俣を追いかけながら、もう一度みのりとおぼしき人物を確認する。
ぴったりしたシャツなので、肩から腕のラインはよく判る。華奢な鎖骨が覗く首回り。膝から上は見たことはないが、膝から下のほっそりとしたふくらはぎ、その下のくるぶし。キュッとしまったウエスト。そして、胸の大きさと形。
どこを見ても、遼太郎が記憶しているみのりに違いなかった。
特に、太ももの中ほどから下をあらわにしているその脚線美は、遼太郎だけでなく、周りの人たちの目を引いた。
みのりから数メートル離れたところにいる中年男性などは、憚らずみのりに見とれているのが、遠目でもよく判った。
――やらしい目で先生を見るなよ。オッサン!
遼太郎は自分のことは棚に上げて、その男性を遠くから睨みつけた。
「よし、ランパスするぞ! 」
先ほどはまるで違う、二俣のまじめな声が響く。
遼太郎の意識はみのりから離れ、臨戦モードに切り替わる。それから、みんなの輪の中心になって指示を出し、練習を始めた。
このラグビーの秋季大会は、秋季国体の前ということもあって、一番の強敵である都留山高校は不出場だった。
都留山高校のラグビー部員のほとんどは、国体の県の選抜選手に選ばれている。芳野高校からも、二俣とウイングの膳所がメンバーに選ばれ、顧問の江口先生の喜ぶところとなった。
ただ、芳野高校は県の秋季大会にも出場しているので、二俣と膳所はこの後、強行スケジュールとなる。
――この時期にこんなにラグビー漬けで、二人とも入試は大丈夫なのかな?ま、国体まで出られたら、どこかの大学から引きもあるかもしれないけど……。
そんなことを考えながら、みのりは膝に肘をついて、試合前の練習風景を見下ろした。
昨夜はあのまま寝付けるはずもなく、夜明け近くまで涙を流し続けていた。
ラグビー観戦でもしたら気が晴れる……というより、遼太郎や二俣の頑張る姿を見られたら、この底なしの哀しみを少しは忘れられるかと思い、みのりはここまで車を飛ばしてやって来てしまった。
どちらにしても、こんな泣き腫らした顔では部活に出られるはずもない。監督の仕事は休ませてもらい、なんとか試合開始の時刻には間に合うように駆けつけた。




