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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
7 別れの決心
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別れの決心 Ⅵ



 薄着だったので、あっという間に服を脱がされ、みのりの肌は明るい照明と空気にさらされた。



「……電気を消してください……。」



 胸を腕で押さえながら、消え入るような声でみのりが辛うじて声を絞り出すと、再びキスをしようと顔を寄せていた石原は、柔らかく笑ってみのりの頬を撫でた。



 そして立ち上がると照明を落とし、自らの服も脱ぎ、みのりの上に覆いかぶさる。

 みのりの頭の横に腕をつき、



「会いたかった…」



と、深い眼差しでみのりを見つめた。


 いつもならば「私も…」と返すはずなのに、この時までその気持ちが欠如していたことに、みのりは気づいていなかった。

 みのり自身が、そのことに愕然として目を見開く。戸惑い混乱して、同じ眼差しで見つめ返せない。


 数ヶ月前とは何かが変化してしまっていた。



 しかし、石原はそんなみのりの心を想像だにせず、深いキスを繰り返す。



 その時、携帯電話の着信音が鳴った。

 みのりの着信音ではないので、石原のものだ。時間は10時半を回っている。こんな時間にかかってくる電話は、ただ事の要件ではないはずだ。



「……電話が鳴ってる……。」



 キスの合間に、みのりが言葉を絞り出す。



「うん……。」



 でも、石原は電話を手に取ろうともせず、その手は胸の膨らみを包み、膨らみに口づけ、さらに行為を進めていった。


 石原の髭がみのりの胸の谷間を滑り降りる。唇と手のひらは、みのりの全身をくまなく、みのりが「あっ…!」と体をすくめる場所には丹念に、愛を施した。



 みのりの方も、石原が与えてくれる目の前の圧倒的な感覚に、ようやく戸惑いも薄れ、我を忘れて石原の背中に指を這わせた。


 みのりの息が乱れ、まぶたの裏に星が瞬きだした時、再び石原の携帯電話が鳴った。

 しかし、今度のみのりには、これを気にする余裕がなかった。着信音が鳴り響く中、みのりは石原がくれる感覚に夢中になり、石原はその行為に没頭していた。

 いつ着信音が途切れたのか、みのりが体を痙攣させてはじけ飛んだ時には、もう鳴っていなかった。


 息つく暇もなく、また違う感覚が繰り返しみのりを襲いはじめる。石原も息を乱し、体中から汗が噴き出している。

 再びみのりは恍惚とした海へと投げ出され、どさりと石原がみのりの体の上へと倒れこんだ。



 石原の首筋に伝わり落ちる汗を、みのりが手の甲で拭うと、石原は頭を起こしてキスをした。

 そして、みのりの隣に仰向けになると、左手でみのりを傍らへ抱き寄せた。



「今日はこのままこうやって、朝まで抱いていられる。」



 満足そうに石原が笑うと、みのりは嬉しいような、そうでないような複雑な心境になった。




 以前のみのりならば、石原にこんなふうに言われたなら、無邪気に無上の喜びを感じていたはずだ。

 自分の中の微妙な変化を感じながら、みのりは何も言わずに、まだ鼓動が速い石原の胸の上に耳を付けた。



 その時、また石原の携帯電話が鳴り始める。

 今度はさすがに、石原もそちらの方に目をやった。みのりも上半身を起こして、脱ぎ捨てられた石原のジーンズのポケットが音の源だと確認した。



「電話に出て。…….お願い。」



 石原の胸に手をついて、みのりは懇願した。

 みのりのこの言葉に、石原は不服そうなため息を吐き、起き上がる。



「生徒が何か問題でも起こしたか……?」



と、ジーンズのポケットをまさぐって、電話に出た。



「はい。……ああ、どうした?」



 突然、石原の声色が変わったので、みのりは直感で相手は奥さんだと判った。


 みのりは息を呑み、体中の血液が凍り付いていくような感覚に震えた。ベッドの上のタオルケットを胸元に引き寄せ、石原の様子をただ見守るしかできない。



「えっ…!それで、今は病院か?……入院?……ああ。でも、飲んでるからすぐに運転できるかどうか……。ああ、わかった。出来るだけ早く向かうよ。」

ただ事ではない出来事があったらしい。

 通話を終えた石原は、不安で表情をこわばらせるみのりに向き直った。



「紗弥…、娘が、入院したらしい。」


「入院!?」



 やはり、ただ事ではなかった。みのりは血の気がスーッと引いていくのが分かった。



「もともと、ぜんそく持ちでね。今晩は特にひどい発作が起こったらしくて、救急車を呼んだそうだ。」



 事態の深刻さに、みのりは目眩がした。

 動揺が体中を駆け巡っていたが、大きく呼吸をして、今自分がすべきことは何なのか考えた。



「……じゃあ、病院へ行ってあげなきゃ……。」



 みのりはタオルケットを置いて、裸のまま立ち上がって、石原の洋服を手に取った。


 石原は、まるで自分を納得させるように、無言で何度か頷いていたが、



「……今日はずっと一緒にいられると思ったのに、こんなことになって、ごめん……。」



と、唇を噛んでみのりを抱きしめた。


 みのりの顎が震えて、涙で目が潤んでくる。その気配を察して、みのりをなだめようと思ったのか、石原は言葉を続けた。



「でも、酒を飲んでるって言ったから、もう少しここに…….。」



 しかし、石原のこの言葉は、みのりを慰めるどころか、却ってその心を鋭くえぐった。


 涙が出そうなのは、石原が帰ってしまうからではない。石原が嘘をついてまでここに留まろうとしている……そうさせているのが、自分だということだ。


 今、石原がこうやって慰めなければならないのは、自分ではなく彼の奥さんだ。

 何は出来なくとも、父親として、苦しむ娘の傍にいてあげなければいけない。



「…ダメよ!お酒なんて飲んでないでしょう?すぐに運転できるんだから、今すぐ行ってあげなきゃ。」



 石原は唇を引き結んで、みのりを見下ろした。みのりは奥歯を食いしばって、涙が流れ出すのを必死でこらえた。


 しばらくの沈黙の間、石原はみのりを抱く腕に力を込めて離してくれなかった。



「……お願い。早く行ってあげて。」



 みのりは手に持っていた石原の服を押し付けて渡し、その腕からすり抜けた。




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