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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
6 文化祭での事件
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文化祭での事件 Ⅴ



 文化祭も終わりに近づいた頃、暇を持て余していた二俣と衛藤と遼太郎の3人は、クラスの展示を見るでもなくブラブラとしていた。


 そこへ、1年5組の佐藤と荘野の姿を見つけた。二人ともラグビー部の後輩だ。



「何か、おもしれーコト、ねーのかよ?」



 案の定二俣がからんでいき、1年5組のクラス展示が「暗闇迷路」だと聞くと、中で驚かす役をやらせろと言い始めた。




 行きがかり上、衛藤と遼太郎も、黒い貫頭衣のようなものを着て、一緒に驚かすことになった。


 しかし、もう文化祭の終わりも近づいている時間帯なので、誰も迷路には訪れない……。


 痺れを切らした二俣が、「誰か呼んで来い」と言い始めると、そう言えば、みのりがまだ迷路を訪れていないことに、クラスの女の子たちが気が付いた。


 それで、みのりが〝カモ〟として連れてこられたというわけだ。



 迷路の中に入ってきたのは、みのり一人ではなかった。でも、遼太郎の方に近づいてきた気配は、誰でもないみのりの息遣いだと思った。


 ずっと暗闇の中にいたので、目は慣れて、人がそこにいるということは分かる。

 みのりだと思われる人の形が背を向けたとき、遼太郎は「ちょっと驚かしてやろう」と、柄でもなくイタズラ心を起こして、腕を回してみのりの動きを封じた。



 掴んだ肩の細さ、鼻孔に入ってくる薫り。



 腕を回した瞬間、遼太郎の感覚のすべてで、みのりであることを確信した。


 確信した時には、遼太郎の腕にはもっと力が入り、無意識にみのりを懐に抱きしめていた。すぐに放すこともできたと思うのに、遼太郎の方の思考も体も硬直していた。



 みのりが腕を縮め、身をすくめた時、みのりの腕で右手の甲が押され、遼太郎は自分の手のひらがみのりの胸の膨らみを押さえつけていると気が付いた。


 動揺が遼太郎を駆け巡る。


 その動揺を感じ取ったように、みのりもガタガタと震えだした時、女子のみのりを探す声が聞こえた。


 我に返った遼太郎は、そっと拘束を解くと、迷路を抜けて暗幕をめくり、ベランダへと出た。そこで、怪しい黒い服を脱ぎ棄てる。


 不意に右手に残るみのりの膨らみの感触を思い出すと、無意識に自分の体の下の方が反応していた。



 それを誰にも気取られないために、遼太郎はトイレの個室へと駆け込んだ。ふたを開けずに便器に座り、両手で顔を覆う。



 体中の血液が流れを増し、顔は火が出るくらいに、火照っている。体の反応も、なかなか収まらない。



――先生に、なんてことを……。あれじゃ、まるで変質者だ……!



 とてつもなく大きな、そして止めどもない後悔が、遼太郎を支配した。



 しばらくして動揺が少し収まった遼太郎は、ようやくトイレの個室を出ると、ちょうどその時、生徒は体育館へ集まる旨の放送が流れていた。




 遼太郎が体育館へ向かっていると、背後から二俣が追いかけてきた。



「おおぉ!遼ちゃん。どこ行ってたんだよ?みのりちゃん、泣いちゃって大変だったんだぜ。」



 二俣の報告は、ドキン!と遼太郎の胸に響き、その中にある罪悪感をさらに濃くした。



「先生が?泣いた……?」


「そうだよ。誰かが迷路の中でひどく驚かしたみたいでよー。それが、みんな俺のせいにするんだから!ひどいだろ?俺は何もしてねーって、言ってんのに!!」



 憤慨している様子の二俣を見て、遼太郎は「実は俺が…」とは、到底言い出せなかった。



 でも、泣いてしまうほど恐ろしく嫌な思いをさせたみのりには、ちゃんと言って謝らなければならないだろう。


 何より、誰がしたのか判らない状態では、不安に違いない。

 きちんと謝ることが、潔い男のけじめのつけ方で、こんな騒動を起こしてしまった責任の取り方だ。



 そうは思ってはいたが、遼太郎は決断をなかなか行動に移せず、メールを打っては文面を消し、メールの送信ボタンを押すことにも逡巡した。

 そして、深夜になってようやく、思い切ってみのりへの謝罪のメールを送った。



 みのりからも思った通りの、思いやりのあるメールが届いた。これからの日常でも、何もなかったかのように配慮してくれるだろう。


 でも、遼太郎が気になるのは、みのりが心の中では、どんなふうに思っているか……だった。



――あんなことをしたせいで、〝ヘンタイ〟だって思われて、先生に幻滅されたらどうしよう……。



 そう考えただけで、もう死んでしまいたい気分になってくる。



 それに、遼太郎の中に残るみのりの感覚……。

 いつまでもそれが、遼太郎を苛んでいた。



 いつも近くにいたからこそ、抱きしめた瞬間に〝仲松先生〟だと判った。

 だが、いくら近くにいても解らない感覚が、触れてみなければ解らない感覚が、あの瞬間一気に遼太郎を満たした。



 そもそも、遼太郎は今まで女の子と付き合ったことがない。

 告白されたことはあったが、好きでもない子と付き合う気にもなれず、ラグビーという夢中になれるものがあったので、恋愛にも興味はなかった。

 だから、当然のように女の子に触れたこともなく、胸を触るなんて想像したこともなかった。


 幸か不幸か、遼太郎にとってみのりが初めての抱擁の相手だったことになる。



 初めての抱擁で胸まで触ってしまう経験は、すさまじい衝撃だ。その衝撃の激しさに負けて、遼太郎の頭の中は理性を保てない。



 手のひらに残るみのりの胸の感触。



 細い体に不釣り合いなほどの、ふくよかな感触を思い返すたびに、遼太郎はフワフワとした妄想の中に浸ってしまう。



――服を脱いだなら、どんなにきれいなんだろう……。



 妄想の途中でハッと我に返ると、計り知れないほどの自己嫌悪が襲ってくる。


 そんなことの繰り返しで、



「ああ…、もうおかしくなりそうだ…」



と、遼太郎は頭を抱えた。





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