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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
6 文化祭での事件
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文化祭での事件 Ⅳ



 午後からの片づけでは、クラスの生徒全員がどんどん働いた。

 みのりも、何もなかったかのように敢えてはつらつと、さらしてしまった醜態を忘てもらうためにも、率先して汗を流した。


 作るのは大変だったけど、壊すのは簡単。片づけは、あっという間に終わった。



 生徒も放課になった後、就業時間が終わると、みのりは即行で帰宅した。

 やはり、今日はあまり生徒と顔を会わせたくなかった。自分のアパートに戻ってリラックスしたかった。



 コーヒーを飲みながら、〝いつか読もう〟と思っていた本を引っ張り出して読んでみる。難解な日本史の専門書。たまにこうやって感覚を磨いて、自分をアップデートしておくのも大事なことだ。有意義な時間を過ごせると、心も自ずと満たされてくる。


 時間忘れてそれを読み耽った後は、いつもより少し手の込んだ料理に挑戦する。

 気持ちもお腹も満たしたら夜も更けてきたので、お気に入りの入浴剤を入れて、ゆっくりお風呂に浸かった。


 満ち足りた気分になって、ベッドに横になろうとした時、携帯メールの着信音が鳴った。



 携帯電話を見てみると、遼太郎からのメールだ。個別指導のことだろうか……と、開いてみる。



『夜分にすみません。今日、1年5組の迷路の中で、先生を捕まえたのは、俺です。

先生を驚かせようと、先生だと分かっててしました。驚かせるどころか、怖がらせてしまって、すみませんでした。

だけど、あれはわざとじゃありません。わざとじゃないけど、本当にすみません。反省してます…』



 みのりは、これは本当に遼太郎からのメールかと、自分の目を疑った。



 そして、震える手で確認して、遼太郎からのメールに違いないことが判ると、携帯電話を放り投げてベッドに突っ伏した。



――狩野くんに、……胸、触られた……!!



 怒りの感情などは全く湧かず、ただただ恥ずかしさだけが込み上げてくる。


 自分では制御できない動揺が通りすぎるまで、赤く火照る顔を枕に押し付けて、ただ待つしかなかった。


 心臓が口から出てきそうなほど、激しい鼓動を打っている。迷路の中での感覚が、何度もみのりの身体に甦ってくる。



 しばらくして、みのりはベッドに仰向けになり、何もない天井を見据えた。心臓の上に手を置いて、呼吸を落ち着ける。



――……大丈夫、大丈夫よ。私が気にしなければ、いい話なんだから。



 みのりは必死になって、自分に言い聞かせた。

 みのりが動揺したら、罪悪感に駆られている遼太郎も困ってしまう。あのくらいのこと、何のことはない。時が経てば、記憶も薄れて何もなかったかのように、きっと感じられるようになる……。



 それに、あれが誰だったかが判明したことで、ちょっと安心した部分もあった。遼太郎だったのは意外であり、恥ずかしく思う気持ちに変わりはないが、嫌悪を抱く感覚は全くない。

 生理的に受け入れられない相手だったら…と考えると、却って「遼太郎でよかった…」とさえ思えてくる。



 ようやく、みのりは感情を制御できて、起き上がれた。



「よし……!」



と、みのりは気持ちを切り替えると、携帯電話を手に取った。



『正直に言ってくれて、ありがとう。必要以上に怖がってしまって、恥ずかしいです。でも、大丈夫!気にしてないから、狩野くんも気にしないでね。 おやすみなさい。』




 みのりからのメールを読んだ遼太郎は、大きな息とともに罪悪感を呑み込んで、スマホを置く。勉強机の椅子に腰を下ろすと、机に肘をついて頭を抱えた。


 メールの文面では、『気にしてない』と言ってくれてはいるが、遼太郎の心のつっかえはとれない。


 みのりのことだから、きっとこんなふうに言ってきてくれるとは思っていた。

 でも、あれだけのことをしておいて、みのりのあの身体の震えを感じ取っていたからこそ、みのりが自分を気遣ってこう言っていると、遼太郎には分かっていた。



 〝自分がやった〟という告白をするかどうかも迷ったが、遼太郎には黙っていることは出来なかった。


 悩んだ挙句メールを送り、みのりから優しい内容のメール受け取っても、それでも遼太郎の罪悪感は消えない。



――何で、あんなことしてしまったんだろう……。



 今更どうにもできないことを、遼太郎は悔やんだ――。




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