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秘密の恋 Ⅲ



 レストランの外に出ると、小高い山の上にあるせいか、みのりの薄いアンサンブルでは肌寒かった。

 駐車場までの小路を歩きながらみのりがちょっと身を震わせた時、石原はみのりに寄り添い腕の中へ包み込んだ。


 ハッとして、今度はみのりの方が身を固くした。みのりがその状況を理解する間もなく、石原は顔を寄せてみのりの唇を自分の唇で覆った。


 驚きとともに安堵が、瞳を閉じたみのりの中に満ちた。そして情熱が体を駆け巡り始め、みのりは石原の背中に腕を回しキスに応えた。


 深く長いキスが終わって唇が離される時、先ほど食べたムースのレモンの香りを感じる。



「あんなことしたら、我慢できなくなるじゃないか。」



 みのりの顔を両手で包んで見下ろしながら、石原は甘く囁いた。

 そして、再び唇を重ねた瞬間、駐車場の方から車のドアの閉まる音と女性の話し声が聞こえて来たので、しょうがなく唇を離した。



 石原は足早に車に乗り込み、エンジンをかける。



「早く帰ろう。」


「はい。」



 短くそう会話して、石原は車を発進させる。

 助手席に乗ったみのりは、先ほどのキスの余韻をまだ引きずっていて、胸の鼓動の激しさをなだめるように胸をさすった。



 車が走り始めたその時、石原は急にハンドルを切り、レストランの一番端の駐車場に止まった。ギアをパーキングに入れサイドブレーキをかけ、シートベルトを外す。



「忘れ物ですか?」



 そう言おうとしたみのりの言葉は、石原の唇により塞がれてしまった。

 先ほどよりも情熱的なそれに、みのりは石原が強く自分を欲しているのだと感じ、同じように自分からも石原の唇を求めた。

 絡み合うようなキスの間、みのりのカーディガンのボタンが石原によって外され、華奢な鎖骨を、その下のふくよかな胸を優しく撫でられる。

 石原の唇がみのりの耳を刺激し、顎から首へと唇を這わせ、自由になったみのりの唇からは、甘い吐息が漏れた。

 キャミソールの紐をずらして、石原の手が直接みのりの胸に触れ、みのりの体の中心が熱くなってくる。



 それでも、一片の理性が現状を思い出させ、胸を愛撫する石原に声をかけた。



「……ここでするの?」



 石原はみのりの胸元から顔を上げて、息を吐いた。



「さすがに、ここじゃ無理だよなぁ……。」



 みのりは無言でうなづく。みのりの服を元に戻しながら、石原は再び言った。



「早く帰ろう。」



 それからの帰り道、石原は言葉少なに、無心になって車の運転をした。

 みのりのアパートの部屋に入り、鍵をかけた途端、石原はみのりの両肩を掴んで壁に押し付けた。息つく暇もなく激しく唇が重ねられると、みのりは手に持っていたバッグを足元に落とした。


 キスをしながらお互いの服を脱がせ合い、居間のカーペットに倒れ込む。


 それから、石原の目眩く愛撫が始まった。みのりはなすがままに、石原の唇と手とがもたらす感覚に溺れ、何度も甘い叫びとともに身を震わせた。


 そして、一つになったとき、みのりは石原の首に腕を回し顔を引き寄せ、キスをしながら囁いた。



「石原先生……、好き。大好き……。」



 この言葉に石原は動きを止め、何も言わずみのりを見つめた。みのりはその眼差しの中に、切ない苦悩があるのを感じ取る。


 石原はその苦悩を払拭するように深く力強くみのりを抱き、再び恍惚へと導くとともに自分も登りつめた。



  二人は乱れた息が落ち着くまで、体を横たえたまま黙ってお互いを抱擁しあっていた。

 心も体も繋がって絶頂に達し、待ち望んでいた欲求は満たされたはずなのに、先ほど過った石原の苦悩が、それぞれ二人の気持ちに影を落とした。


 その影を忘れさせてくれるように、石原のキスがみのりの額に瞼に頬に、そして唇に繰り返された。その行為を受けながら、みのりは必死に涙が零れるのを堪えた。



 石原の苦悩の源を、みのりは知っている。

 みのりの囁いた言葉に、同じ言葉を返してくれない理由を。



「今日はどうして来れたんですか?」



 身を起こしながら、みのりが尋ねる。


 チェストの上に置かれたランプが、みのりの胸を照らし出した。大きすぎず、それでいてふくよかなそれは、何を着けなくても重力に逆らって上を向いている。白い膨らみの所々には、愛撫の痕が赤く残っていた。


 まだ体を横たえたまま、石原はしみじみとみのりの胸を眺めていた。

 服を着ていても、みのりのスタイルの良さは大体想像はつくが、この胸の美しさは、さすがに服を脱がしてみなくては判らない。みのりに受け入れられた幸運な男だけが、これを見ることができるということだ。



 石原はみのりの質問には答えず、腕を伸ばして、そっとみのりの胸に触れた。

 みのりはため息を呑み込んで石原を見つめたが、その視線を感じていないのか、石原は口元に微笑みを浮かべてつぶやいた。



「当分、プールや温泉には行けないなぁ…」



 しばらくみのりは、何のことを言っているのか判らなかったようだが、ようやくその意味を理解したらしく自分の体を見下ろした。



「やだ!キスマーク!こんなにいっぱい!見えるところに付けてない?」



 みのりは肘から下を確認し、足を投げ出して膝から下も確認した。そして首周りを確認するために、腰を浮かしてチェストの上の手鏡を取ろうとしたところで、



「そこはこれから付けてあげよう。」



と、石原に両手首を掴まれ、チェストの横のソファーに押し付けられた。

 石原の唇が首筋をたどって、鎖骨の辺りで止まり、強く吸われる。



「ダメ。そこだと見えちゃう服もあるから!」



 みのりが必死になっても、石原はしっかりと赤いしるしを残し、



「俺みたいに、ネクタイをしめればいいよ。」



と笑って、聞く耳を持たない。



「もう!ホントに困る…んっ…」



 抗議の口を開きかけていたみのりは、思わず艶のある声を漏らした。石原がそのまま唇を滑らせて、みのりの胸の柔らかさを確かめている。そうしながら、真面目な表情でみのりの顔を見上げて、囁いた。



「君は、どうやってこんなに綺麗になったんだ?」


「それは……。」



 みのりには、自分自身が綺麗かどうかなんて分からなかったが、こんなふうに言ってくれる石原を見つめ返しながら、その口元と顎の髭を撫で、唇に触れた。その石原の唇が、みのりの言葉を反復して「それは…?」と動く。



「……それは、あなたに触れてもらうために、そうなりたいって思って……。」



 みのりはためらった後に、かすれ声でつぶやいた。

 こんなことを言ってしまっては、石原が自分を負担に思うのではないかと、ただそれだけが怖かった。これ以上石原への想いが募れば、こうやって触れ合うことのできる、今のこの幸せさえも壊してしまいそうだった。



 みのりのこの言葉に、石原はめまいを感じ、身震いをした。愛おしさのあまり愛の言葉を語りそうになったけれど、それを呑み込み、その代わりにそっとキスをした。唇が触れ合うと、みのりも震えているのが判る。


 石原がみのりの肩と腰に腕を回してきつく抱きしめると、みのりも石原の背中に腕を回して力を込めた。


 それから石原は、ソファーの上にみのりの体を横たえると、もう一度みのりを抱いた。

 その2度目の絶頂の後は、さすがに二人とも疲労感が襲い、そのまま眠りに落ちていった。




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