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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
5 それぞれの夏休み
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それぞれの夏休み Ⅳ



 実家で1週間ほどゆっくりしようと思っていたみのりだったが、古庄からの電話が入り、たったの3日で学校へ戻らなければならなくなった。


 夏休みの終わりに行われる文化祭の準備を、手伝ってほしいというのだ。


 芳野高校の文化祭は、早く受験体制を整えたいのと、授業時間を確保したいとのことで、八月の末に行われる。生徒たちは、授業を犠牲にすることなく、夏休みを利用して文化祭の準備に専念できるということらしい。


 古庄は、その準備を自分だけの手に余るものだから、みのりに助けを求めてきた。みのりは副担任なので、当然と言えば当然なのだけれど。



 副担任をする1年5組の企画は、「暗闇迷路」。文化祭で毎年どこかの組がやっているような、ありがちな企画だ。



 窓に暗幕を張り、机と段ボールで迷路を作るという、いたって単純なものだけれども、暗幕・段ボールやガムテープなどの用具を集めたり、設計図を書いたり、準備は何かと煩雑だ。



 特に、大変なのが大量に必要な段ボールの収集。徒歩と自転車では限界があるとのことで、みのりの自動車でも収集することになった。

 車に生徒を乗せて、スーパーやコンビニで段ボールをもらって車に積み込み、学校に戻るということを、ひたすら繰り返す。


 蝉のけたたましさと気が狂いそうな暑さの中、みのりは生徒と共に、汗だくになって作業をした。


 一緒に作業する中で、クラスの生徒同士は仲よくなり、それに伴ってみのりも今まで以上に生徒と打ち解けられ、準備も楽しくなってきた。



 しかし……、



「みーのーり、ちゃーん!」



 馴れ馴れしく呼ぶ者がいる。

 こんな風にみのりを呼ぶのは、二俣しかいない。


 声がする方を見ると、ラグビー部の一団が移動中だった。その一団の中から、二俣と遼太郎と衛藤が抜け出してやって来る。



「何やってんの?」



 仁王立ちする熊。やはりそんな体格の二俣は、ただそこにいるだけで1年生たちを威圧した。あまり3年生の男子と関わりを持つことのない女子生徒は、どぎまぎした表情だ。


 みのりは遼太郎と衛藤の方にも視線を向け、元気そうな様子に安心して、目であいさつした。



「何って、文化祭の準備よ。」


「ふうん。」



と、二俣はみのりが手をかけていた段ボールを、代わりに車の中から引っ張り出してくれた。



「ラグビー部は菅平から帰ってきてたのね?充実した合宿だった?」



 みのりがそう尋ねると、途端にラグビー部の三人は、合宿の記憶が甦ったのか、一瞬その顔を恐怖で凍り付かせた。



「……た、大変だったんだね?」



 みのりが大体を察して声をかけると、二俣は涙をにじませた。



「……大変なんてもんじゃねーンだよ、みのりちゃん!!江口ちゃんのあのシゴキは…!何度『死ぬかも…』って思ったことか!!エンドレスのランパス…!合宿所までのランニング…!試合に次ぐ試合…!もう、きついのなんのって!!」



 そんな二俣の訴えを聞いて、みのりは少し気圧されて目を丸くしたが、その目をくるりとさせて肩をすくませる。



「そう。でも、きつくないと練習にならないじゃない?」



 みのりがそうサラッと言ってのけると、先日合宿前に同じようなことを言われた遼太郎は、ギクリとした顔をした。


 そんな遼太郎の表情を見て取って、みのりは言葉を付け加える。



「そのきつさを乗り越えられたんだから、技術だけじゃなくて心の方も、きっと随分成長できたんだと思うよ。」



 みのりがにっこり笑ってそう言ってあげると、三人はまんざらでもない顔をした。



 しかし、優しい言葉をかけられて、二俣は調子に乗り始める。



「そう!俺たち頑張ったんだぜー!だから、みのりちゃん!」



 二俣は両手を広げて、みのりにアピールした。



「アイスおごって!」



「…はあ!?」



 みのりは作業の手を止めて、二俣を顧みた。



「こんなに暑いんだから、アイスの一つでも食べたくなるよ。なぁ!?みんな!」



と、二俣は周りの1年生に振った。

 途端に、みんなの顔が〝アイス〟への期待に輝く。



「まだ、部活の最中なんでしょ?」



 怪訝そうなみのりの返答に、二俣は反論した。



「いや、これから夕方まで休憩。暑いから。ねっ、お願い。遼ちゃんにはメロンパンくれたんだから、俺にも何かおごってくれたっていいじゃんかよー!」



 みのりの目と遼太郎の目が、パチッと合った。



 申し訳なさそうな表情をして、とっさに遼太郎は目を逸らす。



「ねー、ねー。みのりちゃん♪アーイース!」



という、矢継ぎ早の二俣の攻勢に、……みのりは折れた。



 確かに、こんなに暑い中で頑張っているのだから、ちょっとしたご褒美も必要かもしれない。



「……わかった。その代り、みんなの分も買ってきてくれる?」



 二俣はにんまりと笑い、パシリに使われることも厭わなかった。



 ラグビー部の三人が近くのコンビニまで買い出しに行くことになり、みのりは二俣ではなく遼太郎を手招きした。

 皆に背を向けて遼太郎の背に手を当てると、遼太郎も背を丸めて内緒話の体勢になる。



「人数が多いから、カリカリ君とか安いアイスにしてね…」



と、みのりは遼太郎に耳打ちして、お金を預けた。遼太郎はクスリと笑いながら、



「わかりました。ありがとうございます。」



と、うなずいた。


 みのりが遼太郎に近寄ったとき、それまでラグビーをしていた彼からは、土埃と太陽の匂いがしていた……。




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