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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
5 それぞれの夏休み
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それぞれの夏休み Ⅱ



 夕方からの練習前に休憩になったので、遼太郎は答案を取りに、もう一度職員室へ赴いた。

 休みをとっている教員も多いらしく、職員室は人気が少ない。


 みのりの机も主は居らず、寂しい空気が漂っている。机の上に置いてあるはずの添削済みの答案を、遼太郎は探した。


 すると、答案の上にはメロンパンが置かれ、メロンパンの下には、手紙が挟んであった。



『狩野くんへ  暑い中の部活、お疲れ様です。夕方の練習前に答案を取りに来るんじゃないかと思い、メロンパンを置いておきます。お腹の足しにして下さい。(アイスの方がよかったとは思うんだけど、融けちゃうからね…)


明日からの合宿も、暑いので体調に気を付けて下さいね。


狩野くんは、少々頑張り過ぎのようなので、合宿後はちょっと添削指導をお休みしましょう。他教科の勉強やこれまでの演習の復習をして下さい。


また、後期の補習では朝の個別指導をするので、早く登校してね!

それでは、充実した良い夏休みを!! 仲松 』



 この手紙を読んで、遼太郎はホッとするより、がっかりする気持ちの方が強かった。


 後期の補習が始まるまでに、まだ十日もある……。



 メロンパンと答案を持ち職員室を出て、「はぁ…」とため息を吐く。


 階段を降りながら、もう一度みのりの手紙を読み返してみると、文字と文面から、みのりの細やかさと温かい息吹が感じられた。答案には、どのくらいの時間がかかったのだろうか、赤ペンでびっしりと解説が書き込まれていた。


それに、このメロンパン。



――俺、先生にちょっと甘えすぎかも……。



 遼太郎は靴を履き、出入口の階段に腰かけてメロンパンの袋を開け、それをあっという間に平らげた後、再び第2グラウンドへと走った。


 しばらく遼太郎の添削指導から解放されたので、みのりは夏季休暇や年次休暇をとって実家へ帰ることにした。


 しかし、夏の実家は多忙を極める。みのりの実家は〝お寺〟だった。



 車で3時間かけて、田舎町の山寺へ帰ってきたみのりは、石段を上がった境内地からの風景を眺めた。


 遠くに見える山並み、川が流れその前には田んぼが広がる。ここからこの風景を見るたびに、「帰ってきたんだな~」と、みのりはいつも思う。


 お盆前なので、お墓参りに来た老婦人の檀徒の姿が見えたので、声をかけた。



「こんにちは。お暑い中ご苦労様です。」


「あらまあ、お嬢さん。久しく見なかったら、お綺麗になられて。」



 檀徒は、歯の浮くようなお世辞を返してくれた。

 その後に続く…「ご結婚は?」という問いは、2、3年前まではよく訊かれたのだが、最近では歳も微妙になってきたせいか、取り沙汰されなくなった。


 だが、あれこれ訊かれると面倒なので、みのりはにっこりと笑顔で頭を下げて、そそくさと庫裡の玄関へと向かう。



「あら、みのり?おかえり。」



 台所にいた母親の喜美代が、スイカを着る手を止めて、振り返った。



「ただいま。わーい、スイカ!頂きます。」



と、みのりは荷物を放り投げて、テーブルに着いた。



「ちょっと、ちょっと、お嬢さん。手は洗いましたか?」



 喜美代がスイカの皿を持ち上げて、子どもを扱うように言うと、みのりは肩をすくめて席を立った。



「お父さんが寝てると思うから、起こしてきて。スイカ切ったよって。」



 洗面台の向こうの寝室を指差して、喜美代が言った。



 父親の隆生りゅうしょうは、今はお盆の棚経の真っ最中だ。毎朝、早くから檀家さんを20件ずつバイクで回っており、お昼過ぎに帰ってきて、この時間には体を休めている。



――隆ちゃんが、棚経ぐらい手伝ってあげればいいのに……。



 隆ちゃんというのは、隆行たかゆきといいみのりの弟だ。大学院のオーバードクターで、研究室に残って数学の研究をしている。大学も夏休みだろうに、一向に帰ってくるつもりはないらしい。


 他に手伝ってくれる人間もいないので、住職の隆生は一人で300軒余りもの檀家の棚経を、2週間でこなしている。



「お父さん、お母さんがスイカ切ったって言ってるよ。」



 戸口から声をかけると、隆生は目を開けた。



「みのりか?」


「うん、ただいま。」



 みのりは短くそう言うと、居間へと戻って、やっとスイカにありついた。





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