表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
4 個別指導
20/190

個別指導 Ⅳ



 進学校である芳野高校では、3年生の夏休みの補習は、16日間もある。

 その毎日の補習が始まる前の1時間を、みのりは遼太郎の個別指導の時間に充てた。


 9時から補習が始まるので、少し早いが8時に遼太郎を呼び出していたのに、あろうことか、みのりの方が遅刻をしてしまった。



 昨日、祇園祭の補導の後、古庄と食事に行ったら、生活指導主任やその他補導に行っていた教員たちが合流し、宴会となってしまった。

 飲めもしないのに、みのりははしご酒に付き合わされ、結局帰宅したのは日付が変わってからだった。


 補導で歩き回った疲れも重なって、今朝は思いっきり寝坊をしてしまった。



 みのりが急いで階段を駆け上がると、人気のまばらな職員室の入り口に、遼太郎が立っている。


 遼太郎は登校してきても、肝心のみのりがいないので困っていたのだろう。



「ごめーん!狩野くん。すぐ行くから、あっちで待っててくれる?」



 みのりは遼太郎の側を通り過ぎる時、渡り廊下の長机を指差した。

 それから、自分の机に荷物を置いて、演習問題とノートと筆記具を持ち、みのりは遼太郎が座る傍らへと走って戻ってきた。



「ごめんね、私の方から言い出してるのに、遅れちゃって……、ホントにごめんなさい……。」



 息も絶え絶えに、みのりが何度も謝るので、遼太郎は困り顔で首を横に振った。


 遼太郎の隣へ腰かけた瞬間、みのりの身体中から汗が吹き出す。



「おはようございます。あー、暑いねー。」



 タオルハンカチで顔の汗を拭きながら、みのりが微笑む。



「おはようございます。いやまだ、涼しいですけど。」



と、遼太郎は本当に涼しい顔で笑うと、この突っ込みにみのりもニッコリ笑った。



「そうよね、まだ朝早いものね。あー、でも走ったから暑い。汗が……。」



と、みのりは首の後ろに腕を回し、首にへばり付く髪をかき上げて、うなじの汗を拭いた。


 みのりのこの仕草を見た遼太郎は、息を呑んでピクッと身を固くする。


「昨日は祇園祭だったね。」



 まだ落ち着いて勉強という感じではないので、みのりはちょっと時間を置くために雑談を始めた。



「お祭りに行った?彼女とか連れて。」



 そんなみのりの問いを聞いて、遼太郎は椅子から滑り落ちそうになった。



「……い、行ってないし、彼女もいません。」



 遼太郎が真っ赤な顔になったので、みのりはもっとからかいたくなる。



「なんだぁ、行かなかったの。でも、彼女がいたら絶対行ってたよね~?」



 からかわれていることを感じ取って、遼太郎もムキになって反論する。



「いても、どうせ行けません。部活があって。」


「あら、部活?でも、昨日二俣くんは山鉾を牽いてたわよ?」


「ふっくんは、昨日は特別に休みをもらったんです。」



 みのりは「成る程」というふうに頷いてから、おもむろに演習問題のプリントを遼太郎の前に広げた。



「……先生は古庄先生と祭りに行ったんですか?」



 不意に出てきた遼太郎の逆襲に、みのりは目を丸くして遼太郎を見つめる。そして、無意識に、



「………何で?」



と、つぶやいていた。



「昨日、部活が終わって自転車で帰ってる時、若宮の郵便局のところを、二人で歩いてるのを見ました。」



 遼太郎が誤解しているらしいのが可笑しくて、みのりは忍び笑いをした。


「それで?私と古庄先生が、仲よくお祭り見物に行ってたと思ったわけ?」



 遼太郎は訝しげに口をへの字にして目を逸らし、無言でうなずきもしない。



「昨日はね。古庄先生と祇園祭の補導に行かされてたの。夜まで仕事してたんだから、『先生、大変だね』くらい言いなさい。」



と言いながら、みのりはポンと遼太郎の背中を叩いた。



「……先生、大変だね。」



 遼太郎がしょうがなく反復すると、みのりはフフフ…と笑って、上目遣いに遼太郎を見た。

 遼太郎は誤解していたのが恥ずかしかったのか、唇を噛んではにかんだ笑顔を見せた。



「さて!始めましょっか。」



 みのりが机向き直ると、遼太郎もシャープペンシルを握った。



 夏の朝の涼しい風が、正面の窓から入ってきて、みのりの肩に着くくらいの髪が揺れた。その髪を耳にかけると、耳に小さなピアスが光る。


 なぜかホッとしていた遼太郎は、すぐ隣にあるその光景から、少しの間、目が離せなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ