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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
4 個別指導
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個別指導 Ⅱ



 渡り廊下の長机のところへ来て、遼太郎に座るように促した。

 一旦座ったものの、やはりここは暑いので、みのりは立ち上がって開けにくい窓を開けようとした。すると、遼太郎はみのりの意図を察して、先に手を伸ばして窓を開けてくれる。


 遼太郎の気転にみのりはニコリと笑い、



「今日はプリントはないから、風が吹いても大丈夫よ。」



と、冗談を言う。

 すると、遼太郎もふっと笑いを漏らしたが、すぐに緊張した面持ちに変わり、パイプ椅子に座って、みのりに向き直った。



「あのね……。」



 みのりは切り出してみたが、遼太郎の顔を見るとなかなか言葉が続かない。何と言えば、遼太郎を動かせるのか、言葉を探していた。



 みのりが言いよどむので、遼太郎は気を持たされて一層緊張を強めた。

 必要以上に神妙な表情の遼太郎に、みのりは不意に滑稽さを感じて、フフッと鼻から息を洩らす。


 笑われたので、遼太郎は不思議そうに戸惑っていたが、とりあえず緊張は解いてくれた。



「あのね、狩野くん。お願いがあるんだけど……。」


「お願い……?」



 なぜ他の生徒ではなく、自分にだけ頼み事があるのかと、遼太郎の表情に訝しさが加わる。



「うん、実は狩野くんに日本史の個別指導をしたいと思ってるんだけど、受けてくれるかな……?」



 みのりは遠慮がちに、遼太郎の様子を窺いながら、本題を打ち明けた。



「日本史の…」



 遼太郎はみのりの言葉を反復するだけで、返事をしない。

 先日、あれだけの夏休みの課題を出したあとで、まだそれ以上の勉強を強いることになるのだから、快諾を渋るのは無理もない。



「狩野くんは、まだ部活も大変だし、他の教科の勉強もしなきゃいけないのは解ってるし、ましてや、日本史は得意な方だろうから、何でこれ以上個別指導まで……って思ってるでしょ?」



 みのりの畳みかける言葉に、遼太郎は渋い顔をして、無言でみのりを見つめた。



「でもね、これから模試の問題ももっと難しくなるだろうし、何より狩野くんだったら、特別何もしなくてもあれだけ出来るんだから、やったらすごーく出来るようになると思うんだけど……なぁ……」



と、みのりは続けたが、遼太郎の表情が明るくならないので、言葉を途切れさせる。



「やっぱり、今以上に負担が増えるのは、嫌だよねぇ……」



 口を引き結んだ遼太郎の眼差しに、申し訳なさが加わった。



 少し考えさせる時間をあげようと、みのりは黙って様子を見た。

 ……しかし遼太郎は、しばらく待っても「うん」とは言わなかった。



「今ここで踏ん張って頑張ることは、他のことにも活きてくると思うし、『やって良かった!』って、絶対後悔させない自信はあるんだけどな。」



 みのりは顔を近づけて、向き合っている遼太郎の目を覗き込んで、見据えながら言った。すると、驚いた遼太郎は身をのけ反らせて、顔を赤くする。



「でも、無理にさせるのは主旨に反するから、この話はこれでおしまい。時間を取らせてしまって、ごめんね。」



 みのりは椅子から立ち上がって、続いて遼太郎も立ち上がるのを待った。平然を装ってはいたが、みのりの心の中の落胆は大きかった。



 その時、振り返りながら、側を通りすぎる生徒たちがいた。二俣と衛藤だ。遼太郎が何の用でみのりに呼ばれたのか、気になっているようだった。

 みのりがそちらの方を見て手を振ると、二人ともペコリと頭を下げた。



「今から部活よね?二俣くんと衛藤くんが待ってくれてるのかな?待たせちゃって悪かったって、伝えといてね。」



と、みのりが声をかけても、遼太郎はそこから行こうとしなかった。



「……?」



 みのりは、もう一度遼太郎の顔を凝視する。すると、日に焼けた顔をますます赤くして、遼太郎が遠慮がちに言った。



「あの、先生……。やります。」


「え…?やる?」


「はい。」


「個別指導、受けてくれるの!?」


「はい。」



 遼太郎が二度ほど頷くと、みのりの表情がパアッと明るくなった。



「ああ!うれしいわ!!狩野くん、ありがとう!」



 みのりは思わず、遼太郎の両手を取って揺さぶっていた。



「一緒に頑張ろうね!」



 満面の笑みのみのりにつられて、遼太郎も白い歯を見せた。



「あの、先生……。」



 遼太郎が恥ずかしそうに、握られている両手に視線を落とす。



「わわっ!ごめん……!」



 みのりも顔を赤らめて、手を引っ込めた。



 軽く会釈をして、遼太郎は二俣と衛藤の方へ歩き出した。その夏服の白い背中に、みのりが声をかける。



「狩野くん、また連絡するからねー。」



 遼太郎は振り返って照れた赤い顔を見せ、頭を下げた。


 それから、そんな照れている自分をごまかすように渡り廊下を走り、ジャンプして衛藤の背中に飛び付いた。



「うおぅ!遼ちゃん!ビクったー!!」



 衛藤の低い声が響いて、3人の姿は階段を降りて見えなくなった。




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