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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
28 間の悪い男
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間の悪い男 Ⅲ




 けれども、あの仮卒の日、遼太郎はみのりを抱き締めに来てはくれなかった。


 二俣や白濱や遠藤、あの衛藤までもが、別れに際して感謝の気持ちを表すために、みのりを抱き締めてくれたのに…。


 生徒としての遼太郎に対しても、他の生徒に比べて特別な絆のようなものを感じていたのに、それは自分だけの思い込みだったのだろうか…。



 案外、遼太郎はドライなのかもしれない。


 そういえば以前、女の子のことに対しても、素っ気ない受け答えをしていたような気がする。

 このまま、他の生徒と同じように、少しの感慨だけを伴って、遼太郎は卒業していってしまうのだろう。



 そして自分は、高校時代の先生の一人として、遼太郎の記憶の底に埋もれて、数年もすれば忘れ去られてしまう…。


 そんなふうに考えながら、みのりは天井を見上げて涙を拭った。



 ……それでいいと、みのりは思った。


 これからは、遼太郎の人生に自分は必要ない。遼太郎が夢を達成できて送り出せれば、自分の役目はそれで終わっていると…。



――卒業式の時は、笑って送ってあげられるようにしなきゃ。



 そう思って目を閉じると、また涙が零れ落ちる。


 いくら心を鍛えても、別れの時はきっと涙が出てきてしまうだろう。それならば、心を氷の鎧で武装しよう。その氷が決して融けないように、氷の冷たさで心を痺れさせておこう。


 みのりはその練習とばかり心を冷し鎮め、そして涙を止めた。





 その日、遼太郎は午後から自動車学校を休み、思い切って学校へ来てみた。


 ちょうど体育の後の日本史の時間だ。

 3年1組の授業の時間は空いていると言っていたので、当然みのりは職員室にいると思っていたのに、そこにみのりの姿はなかった。



 いきなり遼太郎は、肩透かしを食らってしまう。

 それでも、ちょっと席を外しているだけかと思い、隣の席の(遼太郎にとっては少し気に食わない)古庄に尋ねてみる。



「すみません、古庄先生。仲松先生は、どこにいますか?」



 授業中、いるはずのない生徒に声をかけられて、古庄は少し驚いたように振り向いた。



「…おっ、お前!今、考査前で入室禁止だぞ!」



 いきなりそう言われて、遼太郎は戸惑った。



「って、ああ!3年生か。ラグビー部だよな!俺も高校の時ラガーマンだったんだぜ!」



 古庄は、遼太郎が思っていたよりも気さくな人間だったみたいだ。


 古庄とラグビーの話をしたいのはやまやまだったが、遼太郎はそんなことに気を回せる心理状態ではなかった。

 これからみのりに告白しようと、緊張で心が張りつめていた。



「あの、仲松先生は…?」



 かろうじて遼太郎は、そう訊きなおす。



「ああ、仲松ねえさん…じゃない、先生は、入試業務があるとかで、さっき校長室に行ったよ。ちょっと時間がかかるんじゃないか?」


「入試業務…?」


「高校入試の願書が届いたから、って言ってたけど、何をしてるのかは俺も知らないんだ。」



と、古庄は肩をすくめる。そして、遼太郎の方は、がっくりと肩を落とした。



「何か用があったんなら、伝言でもしとこうか?」



「いえ、いいです…。」



 来たことだけは伝えてもらえばよかったのだが、遼太郎は動転していて、そこまで気が回らなかった。

 すごすごと職員室を退出し、放課後また出直すことにした。




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