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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
23 学校の裏サイト
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学校の裏サイト Ⅱ




「狩野くん…!」



 月曜日、登校した遼太郎が教室へ入ると、いきなり宇佐美と平野から呼び止められた。その語調が険しいものなので、遼太郎はとっさに顔を向けて眉を寄せた。



「ちょっと、こっち来て!」



と、寒々しいベランダへと呼び出される。



 土曜日の別れた後、どうなったか知りたくて、遼太郎を待ち構えていた二俣も、宇佐美と平野のただ事ではない様子に反応して、遼太郎と同時にベランダへと飛び出してきた。



「どうしたんだよ?」



と、二俣が遼太郎より先に口を開く。


 宇佐美は二俣を一瞥すると、遼太郎へと向き直って自分のスマートフォンの画面を見せた。



「狩野くん、…これ…。」



 遼太郎と一緒に二俣も横から覗き込む。

 スマートフォンには、この学校の裏サイトが表示されており、二人はそこに書かれている内容を走り読みした。



「…なんだよ!これ!!」



 激しく反応したのは、二俣だ。咆哮のような二俣の声が、向かいの校舎にまで響き渡った。

 遼太郎は息を呑んで、言葉も出てこない。



「なんだよ!なんなんだよ!!これは…!!」



 もう一度、同じようなことを、二俣は吠えた。



「誰かが書き込んだのよね。」


「書き込まれていることは、本当なの?」



 宇佐美と平野が、口々に言った。



『この前の土曜日、イオンの近くの県道で、3年生でラグビー部の狩野さんが1年部の仲松先生の肩を抱いて、あやしい雰囲気でタクシーに乗ってるのを目撃!!あの後、どこに行ったのか、気になる~(*><*)』



 眉間に皺を寄せたまま、遼太郎は目を上げる。



「書かれてることは、……本当だよ。」


「えっ……!?」



 二俣と宇佐美と平野は、そろって目を剥いた。



「…だけど!ふっくんたちと焼肉食べた後、先生がサンライズで買い物するからって歩いて向かってる途中で、先生の具合が悪くなって…。すごい熱で足もフラフラしてたから、先生の家まで送っていっただけだし…。」



 遼太郎はそう言って弁解し、唇を噛んだ。



「なんだ…。」


「そういうこと…。」



 宇佐美と平野は、肩の力を抜いたが、



「でも、何でそれが『あやしい雰囲気』になるんだよ!!…誰だよ!こんなこと書き込んだの!!許さん!!絶対、許さん!!!」



と、二俣の憤慨は止まらなかった。



 だが、状況の分からない人間が、あのタクシーに乗り込むときの一瞬を切り取って見ていたのなら、そんなふうに受け取ることもありうるだろう。

 あの場合は仕方がなかったとも思うが、こんな奇異な目で見られることに考えが及ばなかった自分を、遼太郎は自省した。



「くそ――っ!!どうやったら、これ、消せるんだよ!」


「どうやったら…って。」


「書き込んだ本人か、サイトの管理人だったら消せるんじゃない?」



 二俣たちが色々と言い合っているのを制するように、遼太郎は口を開いた。



「このことは…、仲松先生には絶対に言うなよ!」



 そう宣言するように言って、宇佐美と平野、二俣を見回した。三人はその迫力に気圧されて、無言で頷いた。


 一人ひとりに目を合わせてそれを確認すると、遼太郎は教室へと入り、二俣はそれを追いかけた。



 宇佐美と平野は顔を見合わせる。



「…今まで、みのり先生の方が狩野くんを気に入ってると思ってたけど…。」


「ありゃあ、狩野くんの方がかなり…先生に惚れてるね…。」



 それから、1限が始まるまで、二俣は宇佐美たちとスマホを覗き込み、頭を寄せ合って何やら話をしていた。


 遼太郎も、これまで全くと言っていいほど見たこともなかった学校の裏サイトを、自分のスマホで見てみた。すると、すでに新しい書き込みがされている。



『やっぱ、それは、ラブホでしょ!』


『やらしー!これも個別指導?!』



 無責任で下世話な書き込みに、遼太郎の頭には血が上り、怒りが体中に充満した。


 ただ肩を抱いているのを見られただけなのに、まるで体の関係があるかのような書かれ方をされていることが腹が立つ。



 もちろん、そんな関係になりたくないわけではない。あの時だって、みのりを抱きたくて仕方がなかった。だけどそれは、単に欲情にかられていたからでははなく、みのりの全てを愛したいと思うからにほかならない。


 あの美しく大切な記憶を、こんな卑猥な書き込みに汚されたくない。何よりも、あんなに可憐なみのりに対して、こんな淫乱な想像を巡らせるなんて殺してやりたいくらいだ。



 ただ、こんなふうに書かれて自分が侮辱されることは耐えられるが、このことがみのりに知られて、みのりが傷つくことが怖かった。


 この中傷をみのりが目にすると、きっと心を痛めるだろう。そして、遼太郎を巻き込んだと、自分を責めて悲しむだろう。

 そうなってしまうことを想像して、遼太郎は身の置きどころもないような苦しみに悶絶した。




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