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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
3 意外な人物
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意外な人物 Ⅰ



 県大会がようやく終わり、インターハイへ出場が決まった運動部、まだ大会が残っている野球部とラグビー部の生徒以外は、これで引退となる。


 これから勉強の方に身を入れてくれればいいのだが、もともとあまり勉強熱心でないから、部活に全力を傾けていたわけで…….。選択科目の少ない私立文系は、割かし勉強が楽と思われているのだろうか、運動部の生徒が大勢いた。



 折しも、明日からは第一回の全県模試がある。県大会の後、大慌てで過去問を数年分取り組ませたが、きっと焼け石に水であろう。


 全県模試の結果がでたなら、校長や進路主任が列席する反省会なるものがあり、結果の原因を探られる。きっと不甲斐ない結果に終わるであろう、その言い訳を、みのりはあれこれ考えていた。



 もの思いに耽って、ため息をついたみのりを、テーブルを挟んで正面に座る山崎澄子が見つめる。

 澄子は、みのりの同僚で、3年1組の担任。3年前、みのりが臨時講師で芳野高校にいた時に、澄子は新採用で赴任し、それ以来の友人だ。


 明日は全県模試で授業をする必要がないので、今日は比較的気持ちに余裕がある。久しぶりにゆっくり夕食でも……と、二人でイタリアンレストランへ出かけたのだ。



「すごくブルーなため息だねー。」



 澄子は心配そうに、みのりの様子を窺っている。



「うん、全県模試の結果を想像して、何て言い訳しようか……って、考えてたの。」


「ううっ……、そのこと。」



 澄子も声を詰まらせた。そして、同じく深いため息を吐く。



「多分、国立理系や国立文系の子達がちゃんと結果は出してくれると思うけど。ウチのクラスの子達が足を引っ張らなきゃ…とは思うわねー。」


「そうだねー。」



 二人して再びため息を吐いた時、食後のカフェラテがやって来た。

 澄子が砂糖を溶かしながら、話題を変える。



「私てっきり、みのりさんも恋患いでブルーなのかと…」



 澄子はみのりと石原のことを知っている、数少ない人間の一人だ。石原と同じ英語科なので、石原の人柄についてもよく知っている。



「そりゃ、石原先生を恋しいとは思うけど、今以上どうしようもないんだから、そのことで今さらブルーになんてならないよ。」


「ふうん…。」



 澄子はみのりの言葉に相づちをうっている風ではあるが、何か他のことを考えている感じだ。

 そう言えば、さっき「みのりさん〝も〟」と言ってたけど、どういうことだろう?もしかして……。


 みのりが詮索の口を開こうとした時、



「石原先生って、なんかずるい感じ。みのりさんをどうするつもりなのかな。」



と、澄子が言い出した。


 みのりは何とも答えられず、黙って澄子を見つめ返す。



「生徒にも優しくて、指導力も信頼もあって、すごくいい先生だと思うけど、みのりさんのことに関しては、ちょっと疑問がある。」



と、澄子は続けた。



 自分は幸せな家庭を築いている一方で、みのりとの関係をもう2年半も続けている石原のことを、澄子は良く思っていないようだ。



「石原先生は、私を無理に拘束しているわけじゃないのよ?」



 みのりは事実を言っただけだが、それは自ずと石原を弁護するみたいになってしまった。



「そうだろうけど……。」



 澄子は釈然としない。



「いつでも、自由に終わらせることが出来るし、バレたら大変なことになるリスクもあるのは、お互い分かってる。」


 みのりがそう語ると、澄子は無言で頷いた。



「ちょっとでも想いに揺らぎがあると、続かないものなのよ。それでも続いてるってことは…」



 みのりはちょっとためらうように、言葉を措いた。



「…それだけ、想いが純粋で深いからだと思ってる。」



 澄子は、みのりの心情が投影されたのか、切なそうな目でみのりを見つめた。



 実際、結婚という保証はあり得ない相手だと分かっていても、求めて止まないのは、石原という人間をみのりが純粋に心から想っているからにほかならない。


 澄子があきらめのため息を漏らし、首を緩く左右に振った。



 澄子にはそう言ったものの、不倫関係という事実は、いつでもみのりの心に重くのしかかっているのも確かだ。



 実はみのりは以前、石原に別れをほのめかしたことがある。ちょうど、初めて結ばれてから1年が経ったころのことだった。



『――いやだ……!!』



 弾かれたように石原が反応し、いつもは温厚な表情を苦痛に硬くした。それからは、何を言っても石原は反発して、一切聞く耳を持ってくれなかった。

 そんな石原を二度と見たくないと思ったみのりは、それきり〝別れ〟の話題は持ち出せなくなっていた。




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