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第五章 エルシノアが攻めてきた! 其の一

第五章 エルシノアが攻めてきた! 


 ジャヒムはタキロスに聞いた情報をどうやって大族長に伝えるかさんざん悩んだ末、単刀直入に口走ってしまった。


「ええー、その、友達に聞いたんです。あのー、ヘルベベスじゃない奴」

「誰だ、ヘルベベスじゃない友達とは。信用できるのか、そいつは」

「ええー、あー、多分。うーん、情報を集めてるって言ってました。そのー」


 ラシュヴィーダの父に厳しい目で問いつめられてジャヒムは、ちらり、と助けを求めるように二人の少女達の方を見たが、ルミデュナが怖い顔をしていたのでそれ以上は口を滑らせなかった。


「はあ、まあ、そういうことです」


 父は今度はジャヒムに視線を向けられたラシュヴィーダ達の方を見た。


「おまえ達は何か知っているのか? ジャヒムはいつ余所者と接触したんだ」

「いえ、知りません。ジャヒムが戦について知ってるなんて、あたし達も今、初めて聞きました」


 きっぱりとルミデュナは大族長の方を見て答えた。

 ルミデュナがいてくれてよかった、とラシュヴィーダはほっとした。

 彼女一人ではこんなに上手に嘘はつけない。 


 大族長ハヌルティムは、まだ疑わしそうにジャヒムを見ていたが、それ以上責めることはしなかった。


「まあいい。わしも調べてはいる。おまえの言葉が正しいかどうかは、じきわかる。しかし、軽々しく余所者の言葉を信じるな。相手が誰だか、しっかり確かめろ。そいつが逆に敵の回し者でないという保証はないのだぞ。わしらのことを、べらべら喋ったりしてはおらぬだろうな」

「もちろんです。こっちのことは喋っていません。向こうから教えてくれただけです」

「で、誰なのだ、その相手とは」

「……すみません。ちょっと言えないです」


 ハヌルティムは、ジャヒムの肩を大きな手でぽんぽんと叩いた。


「おまえはまだ若い。人を見るということを学ばなければいけないぞ」

「はい」


 父はまだ疑いが晴れないという顔だったが、それ以上三人を問いつめようとはしなかった。


「あー、あっぶねえ」

「もう、ジャヒムったら。もうちょっと上手に言えばよかったのに」

「上手にって、なんて言ったらいいんだよ。エルシノアの王子が教えてくれたなんて言ったら、最初から全部話さないといけないじゃないか」

「そうね。ありがとう、ジャヒム。私のために黙っててくれて」


 ラシュヴィーダに礼を言われて、初めてジャヒムは、へへっと笑みを浮かべた。とにかくも、ジャヒムは頑張ってくれたのだ。ラシュヴィーダのためにも、部族のためにも。


 武器の手入れや、矢作りは続いていた。

 相手がエルシノアでなかったことは、ほっとしたが、戦はいつも嫌なものだった。


「今年は、私も十六だもの。私も戦に出るわ。兄さんだって私の狩りの腕は認めてくれたでしょ?」


 ラシュヴィーダがそう言うと、二人の兄は反対したが、母は、少し迷って、行ってもいいのではないか、と父に進言した。

 父はラシュヴィーダをしばらく見つめていたが、やがて、いいだろう、とうなずいた。


「覚悟はできているのだろうな。戦となれば怪我をするかもしれないし、死ぬこともある。一人だけ逃げるのは許されない。指揮官の命令には必ず従わなければいけないぞ」


 はい、とラシュヴィーダは父の目を見て答えた。

 母は、ふう、とひとつため息をついて彼女に合う兜と胴当てを探し始めた。 


 ヘルベベスに、戦士とそれ以外の区別はない。幼児と足腰の立たない老人を除いて全員が馬に乗れるし、戦となれば男も女も戦う。

 これが、ヘルベベスの強さだった。人口に対しての戦闘要員の割合が、農耕民族に比べて圧倒的に多い。


 ジェッキオは南西のチニュスクの森の陰に軍勢を隠しているらしい。

 敵を読んで先制攻撃を仕掛けるか、向こうが動きを見せるのを待ちぶせするか。父ハヌルティムは後者の策をとった。チニュスクの森についてはジェッキオ以上によくわかっているとは言えない。草原であれば馬を自由自在に操れる騎馬民族に分がある。


 森にはそこに住む狩猟民族もいた。彼らがどちらに着くのか、あるいは中立を守るのか、探りに出した斥候はまだ帰ってきていない。  


 父は荷物や女子供、老人達を川の南側に避難させた。

 ラシュヴィーダと叔母や従姉妹達は、戦士達と共に、もう少しジェッキオ寄りの川下にテントを移動した。


 「いい? 敵の動きに、いつも注意してないとだめだよ。夜は見張りをたてるの。夜襲があるといけないから」


 戦に慣れた叔母が若い娘達にひとつひとつ教える。


「夜襲って、夜でも攻めてくるの?」

「そりゃ、戦となれば何でも起こるよ。私が娘の頃、エルシノアは戦場を飛び越えて野営地を直接襲撃した。まさか、そんなに離れているのに襲われるなんて思っても見なかったから、大変な騒ぎだったよ。あの邪眼のアルトリスは血も涙もない卑怯者だから」


 エルシノアの話となると、みんなが寄ってたかって悪いことしか言わない。ラシュヴィーダは悲しくなって少し離れた。

 

 タキロスが、あの邪眼の王アルトリスの息子だなんて。

 正式な妃に、と確かに言ってくれた。

 こんな状況でなければ、胸が躍ることかもしれない。城に入って王妃になることは想像もできなかったけれど、タキロスが本気で自分のことを想ってくれる気持ちは、正直に嬉しかった。

 

―――――――――――――――――――

読んでくださってありがとうございます<(_ _)>


位置関係ですが、ラシュヴィーダ達の野営地を真ん中とすると、西側にエルシノアとバルラスの一部、南側にジェッキオが広がっています。正確に言えば、南西にはエルシノア領メトドラの向こう側に山間の小国ベリダシルがありますが、この物語では名前ぐらいしか出てきません。北にも巨人の国キルカラスがありますが、出てきません。


よろしくお願いいたします(^^♪

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