転生十三年目・事件の始まり
・後書きに冒険者ギルドのクラス分けを追記、それと後書きの内容を少し変更。
「うーむ」
「父さんいるー?あ、いたいた。父さん母さんが呼んで・・・どしたの?」
十三歳になったある日、父さんが珍しく何もせずに仕事場でうんうん唸っていた。
「ん?カノンか。どうした?」
「いや、それ今僕が先に聞いたんだけど、まぁいいか。母さんが呼んでるよ。聞きたい事があるんだって」
「わかった。すぐ行く」
「で、父さんはどしたの?」
「ん?んーちょっとな。いや、カノンにも関係ある話かもしれんのう」
「僕にも?」
「うむ。話をするから一緒に来なさい」
「わかった」
なんだろ?
「あなた、帰ってから様子がおかしいけど何かあったの?」
「うむ。長くなるかもしれんから座って話そう」
「あら、カノンにも関係があるの?」
「もしかするとな」
改めてみんなで席に着く。
「今日ローウェイズ王に召集された。実は最近、鉱山の地下がキラーアントの巣と繋がってしまったそうなのじゃ。その場の被害は最小限で止め、穴を塞いだそうじゃがこのままにはしておけん。冒険者ギルドに高ランクの冒険者に巣の壊滅を要請した所、三つの1stランクのパーティでなんとか壊滅させたらしい」
「そ、そんな事が起こってたのね」
「よかった。なんとかなってて」
うわ、ずいぶん恐ろしい事になってたんだ。キラーアントは、数あるアント系の中で、かなり上位になる魔物だ。一体一体が強い上に、沢山の群れで行動する。こいつが一番厄介なのは、人のテリトリーにも平気で巣を作る事だ。被害が甚大な時は、王都に出現し、その国を滅亡まで追いやった事もあるらしい。
これを知れば、今回の件がどれだけ深刻だったか分かる。本当になんとかなってよかったよ。
「その際、武器もだいぶ疲弊したそうでな。王が報酬とは別に、装備のメンテや新しい装備を提供すると決めたそうじゃ。で、その話を聞いた1stランクの冒険者の中で、ワシに新しい武器を頼みたいと願った者がいたらしくての」
「1stクラスの冒険者にお願いされるなんて父さん凄いな」
「ありがとうカノン♡」
「それはわかったけど、あなたの様子がおかしいのやカノンに関係ある話とどう繋がるの?」
「国を救ってくれた英雄じゃ。最高の武器を作ってやりたい。じゃがどうも数人、性格に難があるやつがいるらしい。そんなヤツらに武器を作ってやりたくはないという気持ちもあっての」
「うわっ、それは僕も迷うなぁ」
「そんなヤツらにリリィやカノンを会わせたくないからの。まあまず会う事はないと思うが、妙な場所には近づかんでくれ」
「うん」
「わかったわ。気をつける」
「うむ。ワシは素材を受け取るために明日も王城へ出かける。繰り返すがくれぐれも気をつけてくれ」
「大丈夫だよ父さん。父さんも言ったじゃない。まず会う事はないって」
そう考えてた時期が僕にもありました。
思えばこれがフラグだったのかも知れない。
「こんなタイミングでお酒を切らすなんて、ついてないわね」
「しょうがないよ母さん。誰にだってミスはあるもん」
こういう時いつも思うんだけれど、これをしたくないって思うタイミングで物事っておこる気がする。タイミングよすぎじゃないだろうか?
しかしこんな時だろうと、うちでお酒を切らす事はできない。なぜなら両親共にお酒大好きだからだ。特に父さんは血のかわりにお酒が体を巡ってると言っても過言ではない。
こんな無茶な飲み方をして体を壊さないのか心配した事がある。両親に無理を言って禁酒させた事もあったが、かえって体調を崩した。ドワーフらしいと思うと共に、ドワーフの体はアルコールを効率よくエネルギーにできる機関を持ってるんだと割と本気で思う。
なんにしても外に出る事になったのは想定外だ。今日はうちに引きこもってるつもりだったのに。
ま、まぁそんなに長く外にいるわけじゃないから大丈夫だよね?
「ウルセェ!引っ込んでろっつっただろ!」
ガッシャーン!!
大きな音と共に、僕の視界はスローモーションになる。もう悪い予感しかしない。
ドムっ!
飛んできた何かに巻き込まれながら僕の頭には一言だけうかんだ。
まじかー。
そしてそのまま地面を転がって止まる。
イタタタ・・・
「カノン!大丈夫!?」
母さんの声と共に、スローモーションだった世界の速度が戻ってきた。
「大丈夫、大丈夫。僕は父さんの頑丈さも遺伝してるから」
と強がってみる。まぁ実際に大した事はなさそうだ。すぐ立ち上がって、砂埃を払う。
「す、すまない。」
と、知らない声がする。声のする方へ振り返るとこれもまた知らない男が僕を心配そうにしていた。なるほど、これが吹っ飛んできたのか。
「大丈夫だっ・・た・か・・・」
「あ、うん、大丈夫だよ。お兄さんこそ大丈夫?あれ?お兄さん?お兄さーん」
反応しなくなっちゃったよ。あ、よくみるとイケメンだ。僕の前世の世界だったら間違いなくモテただろうなぁ。
「可憐だ・・・」
「は?」
イマナンテイッタノ?
「あ、あぁいや、なんでもない。そうだ、怪我は?」
「あ、うん。大丈夫だよ。お兄さんこそ大丈夫?」
「そうか。よかった。こちらも大丈夫だ。冒険者がこの程度で怪我してたら仕事にならないしな。そちらの女性もすまない。連れにあやうく怪我をさせてしまう所だっ・・た・・・」
また動かなくなっちゃったよ。でも今回の理由は分かる。母さんが目に見えそうな勢いで怒りのオーラか何かを放ちながら、笑顔でこっちを見てたからだ。男の人もそれを感じ取ったらしい。
「いえいえ、謝罪も受け取りましたし、幸いお互い怪我もなくすんでよかったですよ」
実際、僕に怪我がなかったのを確認し、男の人が僕と母さんに謝罪をしたら、あの不穏なオーラ的なものは引っ込んだ。
ヒュウッ!
「危ない!」
風切り音が聞こえたと思ったら、男の人が僕を抱えるように抱き込む。するとガラスのようなものが割れる音がした。
「急に抱きついてすまない」
そう言いながら僕をゆっくりと離す。
「ううん。何かが飛んできたのはわかったから。守ってくれてありがとう、お兄さん」
「いや、またこちらが謝らないといけない。俺のパーティメンバーがすまない」
あ、これほぼ巻き込まれたの確定だわ。
そんな事を考えてると、酒場から筋肉隆々でつるっぱげの、色黒筋肉ダルマが出てきた。
「お前はいつもいつもウルセェんだよライ!このパーティのリーダーは俺だ!いちいちこの俺様に指図すんな!」
「サップ!お前の行動はいつも目に余るんだよ!いくら俺たちのパーティが1stクラスだからといって、全てが許されるわけじゃないんだぞ!」
ブフォッ!
シリアスなシーンなのに思わず吹いてしまった。
サップて!確かに野獣的だけど!
それとライて!二人合わせライサップて!ライが結果にコミットしてサップになるシーンを想像しちゃったじゃないか!
「これくらいの事が許されないでどうするよ?俺様たちは命をかけてこの国を救った英雄だぞ?多少いい思いしてなにが悪い?」
「サップのいう通りよライ。あんたは深く考えすぎなのよ」
「あ、あのっ!ライさんの・・・言うことも・・一理あるかと・・・やっぱりなんでもないですっ!」
酒場からさらに二人の女性が出てきた。一人はすごいケバい盗賊系の女の人、もう一人は気弱というか薄幸そうな女の人。職業は〜・・・うーん。見た目じゃわかんないな。
「ちょうどいい機会だ。お前には俺様のやり方っていうのをタップリと教えてやr・・・お?ライ?後ろの女二人はなんだ?すげぇ上玉じゃねぇか!お前の事はもういい。その女二人こっちによこせ」
「断る」
ピキッ
あ、野獣がキレかかってる。見た目通り怒りの沸点が低そうだな。
「わかった。もういい。お前は今すぐ俺様の目の前から消えろ。そこの女二人ぃ!こっちにこい!この国を救った英雄様の命令だぞぉ!」
はぁ。めんどくさい事になってきやがりました。
まとめきれませんでした。
というわけで、次回へ続く。
ドワーフの肝臓はまさにS2(sakeに2(つ)よくなる)機関。
補足。冒険者ギルドのクラス分け
パーティと個人別々でランクあり。分け方は一緒。
初めは6から始まって、5、4、3rd、2nd、1stと上がって行く。最高は0(zero)だけど、過去に数人しかいない。現在このクラスは空席。
1stは国災級の魔物を倒せるレベル。今回のキラーアントは巣の壊滅がミッションなので1stに依頼。単体なら個人の3rdで、パーティなら4で勝てるレベル。
1stはパーティで20前後、個人では30前後が存在(パーティ内のメンバー含む)
1stはほぼ最高ランクだけあって、人のレベルなら高水準で強い。が、0がなりにくいので力の差が結構激しい。