転生十年目
転生してから十年の月日が流れた。
これを早いと感じたのは、前世がインドア派だったからか、過ごした時間が濃かったからか。
語学は会話、読み書き共に母さんに教えてもらえそうな所は五歳頃には終わった。母さんに「カノンは天才ね」って言われたけど、万能な母さんに褒められると正直嬉しい。ただこの世界でも、国によって言葉や文字が変わるらしいので、場合によってはまた語学の勉強しないといけない。母さんは隣の大国の言葉もある程度できるらしく、今はそっちをゆっくりと学んでいる。最近ようやくカタコトだけど会話ができるようにはなった。
余った時間は母さんに家事を習う事にした。前世では普通程度にはできてたけど、この数年でかなりレベルアップしたと自負できる。あ、教え方は普通だった。教え方もうまかったらもう完璧超人でしょ。内容はハイスペックだったんだけど。
苦労したのは料理だ。いや、現在進行系で苦労している。食材多いとは思ってたけど、多過ぎる。例えば肉にしても、ウルフ系やベアー系、ブル系にオークの肉なんていうのもある。これでも一部だ。それぞれの肉に特徴があるので、それに合わせた味付けや調理をしないといけないのだ。こっちは覚えるのにまだまだ時間がかかりそう。
そうそう、体の方も順調に成長している。たぶん謎パワーも。たぶんっていうのは、フルパワーを使う事がないから。今どれくらいのパワーがあるのかちょっと不安だ。パワーが強いぶん、コントロールが難しいけど、いろんな意味で危険なので手を抜かずにしっかり扱いを身につけている。うっかりで物を壊したり、家族を傷つけたりしたくないからね。
そしてこの十年、たぶん一番多く過ごした場所は父さんと母さんの仕事場だ。三歳で入れてもらえるようになった時が懐かしい。
父さんの仕事姿はやっぱりかっこよかった。あとすごく面白そうだった。何故か不思議なくらい飽きる事なく父さんを見続けられた。
暇を見つけては見学させてもらったせいか、鉱石など、素材の種類や鍛治に詳しくなっていた。
そんな日々に変化が訪れたのは五歳の時だった。
「カノンは相変わらずじーっと見てるのう。飽きはせんのか?」
「うん。だって面白いんだもん。パ・・・父さんがばらばらだったものや塊から新しく何かを作るのって、見ててワクワクするんだ」
「そうかそうか♡どうじゃ?手伝ってみるか?」
「いいの?やってみたい!」
「あなた」
「大丈夫じゃ。簡単で危険の少ないことしかさせんしワシが見ておる。ずっと見学してたから多少の勝手はわかるじゃろうし、ワシとリリィの子だ。興味を持ってもおかしくないじゃろ。知らない所で危険な事をされるより目の届く所で安全な事をさせた方がいいと思うがの」
ぉぉぅ。ただ甘いだけかと思ったけど色々考えてたんだ。僕の中で父さんの評価が一段階上がる。
「・・・そうね。あなたのいう通りね。私もカノンが可愛いあまり過保護になってた。それに選択肢や自由を奪うことになってたわ。ありがとうあなた。さすが私の選んだ人よ」
「リリィ・・・」
「あなた・・・」
ここで僕は余分な事は言わない。空気の読める子だからね。
しかし親の仲がいいのは嬉しいんだけどさ、できれば人の目の届かない所でイチャついて欲しい。
〜数分後〜
「すまんかったのカノン、ついな」
「別に気にしてないよ。父さんと母さんの仲がいいのは嬉しい事だからね」
「大丈夫、カノンにもすぐにいい人ができるわよ。モテモテだもんね」
がふっ(精神的に吐血)
母さん何を知ってる?
「カノンはかわいいからのぉ♡さすがリリィの血を引くだけはあるの。じゃがお付き合いとかはまだダメじゃぞ。そういうのはまだ早い」
「うん!大丈夫だよ」
お付き合いとか無理。でもこれも精神が体に引っ張られたらと思うとちょっと怖い。まぁその時はその時か。なった時に考えよう。
そんな事を考えてると、母さんが近づいて耳元で囁く。
「ちゃんと返事をしてあげなさい。それが告白してくれた相手への礼儀よ」
「・・・うん。ありがとう母さん」
なんで告白された事を知ってるのかっていう疑問もあるけど、相手の気持ちっていうのは全然考えてなかった。元男として気持ちがわかるのに。ちゃんと返事しよう。それを気づかせてくれた母さんに感謝。
「話を戻すぞ。まずはカノンの使うナイフと槌じゃな。ただ危険が少ないからと言っても全くないわけではない。作業は気をつけするんじゃぞ」
「うん!」
こうして僕は父さんの手伝いを始めた。
初めての手伝いで作ってもらったナイフと槌は感動した。今でも僕の愛用品で、大事に使っている。
それから色々武器の作成を手伝った。父さんに「スジがいい。さすがワシとリリィの娘だ」って褒められて嬉しかったよ。
ここでふと、手伝いを雇ったり弟子をとったりしないのか聞いてみた。他の工房だとそういう人がいるみたいなのにうちにはいないから気になってたんだ。
「ワシは気楽にワシの思うようにやりたいからの。それと一緒にやってもいい相手というのが居なかったのもある。今は母さんやカノンが手伝ってくれるだけで平気じゃ」
って言った。なるほどね。
あ、あと見学してた時も思ったけど、さすが剣や魔法のファンタジーの世界。剣を作る事が多かった。
だけど余計な事まで思い出してしまった。この
頃からなんだよね。時々告白されるようになったの。
最近は大人に告白された。ドワーフの女性は見た目幼いから大人と間違われたと思うんだけど、逆に思うのは、この世界の大人はロリコンばっかりか?
あれ?そういう事なら父さんも・・・いや、やめよう。このことに関してこれ以上考えるのはいろんな意味で危険だ。
そして八歳の頃には、母さんの仕事にも興味を持った。
「あらカノン、装飾品に興味があるの?ふふっ。やっぱり女の子ね」
「うん。だって母さんの作るアクセサリーってかわいいんだもん」
「ありがとうカノン♡じゃあカノンちゃんに何か作ってあげるわね」
「本当?ありがとう母さん♪ねぇ母さん、僕、手伝ってもいい?」
「あら?私は構わないけど父さんの手伝いはどうするの?」
「大丈夫じゃ。カノンはちゃんと区切りをつけて手伝ってくれるからの」
「そう。じゃあ何から作ろっか?」
「んー首飾りからなんてどうかな?」
「いいわよ。じゃあ素材はどうしようかしら」
こんな感じで母さんの仕事も手伝いだした。
・・・いや、何でも興味持ちすぎだし、手を出し過ぎだってちょっと思う。でも面白そうっていうか、実際面白かったんだ。だからハマって仕事場にいる時間が長くなったのも仕方がないと思うんだ。
「カノン、ちょっといいか?」
「はいっ!?」
「?どうした?」
「う、ううん、何でもないよ。どうしたの?」
びっくりしたー。こんな考え事してるタイミングで声かけられるんだもん。怒られるかと思っちゃったよ。
「あぁ、カノンも十歳になったし、手伝いを始めて随分たつ。技術もだいぶ板についてきたと思ってる。そこでそろそろ一人で何か一つ武器を作ってみないか聞いておこうと思ってな」
「私の仕事の方はまだダメだけどね〜」
僕は母さんに苦笑いしながら、父さんに答えた。
「うん。僕、作ってみたい。父さんの比べられるとまだまだだけど、自分だけで作ってみたい」
「よし、決まりじゃな。いつがいい?」
「今作ってる槍が終わったらでどう?」
「わかった。まあ横でアドバイスはするから気楽にな」
「うん。僕がんばるね」
我が事ながら、これからも仕事場に入り浸る日々は続きそうだ。
カノンは五歳から親の呼び方を変えるようにしてます。「パ・・・父さん」ってなったのはそのためですね。