転生三年目
あの衝撃の日から三年。僕も三歳になった。僕は今、居間でぼーっとしながら色々ふりかえっている。あっという間の三年だった。
僕が女の子だということ、名前のことは、ちゃんと折り合いをつけた。その一環っていうわけじゃないけど言葉遣いを変えた。服もエプロンドレスに、赤色の髪も少し伸ばして縛っている。最初は苦労したけどこれも体に精神がひっぱられているのか、今では普通になじんでる。
語学の勉強は、言葉が完全に理解できるようになった。しゃべるのはまだあまりうまくないけど、意思疎通は問題ないレベルだ。文字の読み書きは母さんが教えてくれている。父さんはからっきしらしい。
そういえば父さんと母さんの事がまた色々わかった。
父さんの名前はバズ。鍛冶職人だ。特に武器に関しては結構有名人らしい。ハイハイができるようになった頃、仕事場を覗いたときに見えた父さんはすごくかっこよかった。ただ仕事場は危険な道具も多く環境もよくないため、見つかった時に両親二人ですごく怒られた。それでもまたその姿を見たかったので、上目遣いで父さんを見つめたら、「しょうがないのう♡」と言ってくれた。父チョロい。
そのあと母さんに闘魂注入(と言う名のビンタ)をもらって正気に戻った父さんが、母さんと話し合って、とりあえず三歳になってから考えると結論を出していた。なので三歳になるのがすごく楽しみだった。
もしこれで許可をもらえたら、あのかっこいい父さんや鍛冶工程、その他にもいろんな物を見れると思うとわくわくする。
逆に許可をもらえなかったら父さんとはしばらく口をきかないようにしよう。僕から楽しみを奪った罪は重い。
母さんの名前はリリィ。姿に似合った可愛らしい名前だ。というか偶然なのか、前世の世界に同じ名前の花があったので余計にしっくりくる。ちなみに日本語でユリのことだ。母さんの場合オニユ(殺気を感じた
「あら?カノン?何か変な事考えてない?」
「え?ママは花のようにかわいいなぁって」
「あら、ありがとう♡もぅカノンもかわいいわよぉ〜♡」
「ありがとうママ」
ふぅ。なんとかごまかせた。こういう時の母さんは恐ろしく感がいい。事、自分の悪口と私の涙には敏感というか、ニュータ◯プも真っ青だと思う。
まあ母さんの直感は置いといて、・・・いや、それも含めて母さんがハイスペック過ぎる。
まず家事全般の能力がすごく高い。掃除、炊事、洗濯、僕の前世より大変なはずなのに高いレベルでこなす。まだ食べ始めたばかりだけど、ごはんは美味しいし、部屋は散らかってないし、服もいつも綺麗だ。しかも早い。そのうえで父さんと同じく鍛治の仕事をしている。母さんの方は装飾品で、ある国では貴族間で流行ってるらしい。
まだある。母さんはモテる。前に一緒に外へ出たときは、僕がいるにも関わらず口説かれてた。父さんはよく母さんを落とせたね?
こんな母さんだから父さんは気が気じゃないのかなぁと思うけど、母さんは父さん一途みたいだし、父さんも信じてるみたいで夫婦間はうまくいってる。それに僕の事が絡んでくるとラブラブ親バカップルが爆誕し、空気が砂糖と化す。
あ、砂糖で思い出した。母さんは甘いものが好きだ。この世界には蟻から取れる蜜、蟻蜜っていうのがあるけどそれが大好き。僕も最近少しだけ食べさせてもらったけどあれは美味しかった。父さんをKOした気持ちがよくわかったよ。甘味が久々だったっていうのもあるかもだけど。そんな母さんがちょっとかわいいとか思う辺り、僕も相当子バカだと思ったりもする。
あ、あと両親はドワーフだった。僕、転生したらドワーフ(♀)でした。まぁこれは割と平気だった。あ、ドワーフの方ね。むしろ母さんを見て安心したよ。前世で見たドワーフ像は、うちの母さんのようなタイプと、男性ドワーフと見た目が変わらないタイプといたので、もし後者だったらと思うとさすがに自分に折り合いをつける自信がない。
まぁ色々納得できた。母さんの幼い見た目とか力とか、父さんの身長や頑丈さ、あと洞窟を家にしてる所とか。
で、住んでるここはグランドバレーにあるドワーフの国、ローウェイズ王国。鉱山と一体化した街だけあって、なかなかに壮観だ。活気があり、緑のある公園もあってドワーフのイメージがちょっと崩れるが僕は好きだ。
そうそう、行動範囲はずいぶん広がった。ハイハイができるようになってからは、よくベビーベッドを抜け出して家の中を探索した。ただ夢中になりすぎて迷子になり、最初の頃はよく親を慌てさせたのは〜・・・
反 省 は し て い る 。 後 悔 は し て い な い。
怒られる回数も多かったけど正直楽しかった。この世界にしかなさそうな物がたくさんあったんだ。何かの牙や、骨、まるで重みを感じない鉱石やマーブル模様の透き通った宝石などなど、おおよそ危険のなさそうなのは仕事場以外の、外にも置いてあった。
歩けるようになったら、外にも出るようになった。久々の外は気持ちいいと共に異世界の外というのを堪能した。見慣れない植物や虫、地形、空には昼でも見える月が二つ。時折聞こえる何かの鳴き声。
これでも前世は引きこもりだったんだけどなぁとしみじみ思いながら自問する。これも体に精神が引っ張られてるのか、はたまた暇すぎるのが悪かったのか。まあどっちでもいいか。
そういえば体の方はしっかりと力が入るようになった。というか最近調子がいい。いや、よすぎる。特にパワーが。
やっぱドワーフって力がある種族なんだって実感した。父さんも母さんも力強いし。ハイハイ後期は普通にベビーベッドから降りれたし、重そうな物も軽々と持ち上がる。この前なんか、落石で落ちてきた大きな岩が道を妨げてたので、ジャマだと思って何気なく持ち上げたら、持ち上がっちゃった。間違いなく前世より身体能力上がってる。
母さん、事件です。いくらドワーフでもこれは力強いを超えてる。多分母さんの能力遺伝してます。早急に手加減を覚えよう(汗)
あ、ごはんは美味しいです。こういう話にありがちな、「マズイ」とか「味がしない」っていう料理は今の所少ない。母さんの料理が上手いだけなのかもしれないけど。味付けはシンプルだけど、食材になるものが豊富にあるみたい。その辺はこれから色々調べてみたい。美味しいもの食べたいし。
「カノン、ちょっといいか?」
父さんが真剣な顔で話かけてきた。
「いいよ。どうしたのパパ?」
「話がある。カノンはワシやママの仕事を見てみたいか?」
「もちろん。僕はパパやママのしごとを見てみたい」
「そうか。カノンはハイハイしていた頃を覚えておるか?」
「ん?ん〜わかんない」
とりあえず転生の事は黙っている。そりゃ言えないよ。なので覚えているのも秘密だ。いつか全て話せる時がくるだろうか?
「そっかー。カノンは賢いから覚えてるかと思ったよ〜」
「えー?そんなことないとおもうけど」
母さんこんな所でも鋭い。ま、まさかバレてないよね?
「カノンはハイハイで仕事場に来たことがあるんじゃぞ?危ないから入れる事はできんかったが、その時カノンはすごく見たいオーラを出してたんじゃ」
「へ〜そうなんだ」
「だからその時ママと相談して、カノンが三歳になったら改めて考えると決めた。答えは条件付きでいいと思っておる」
「じょうけん?」
「仕事場では勝手に物を触らない事、あとワシとママの言うことをちゃんと聞く事、ワシとママは多少厳しくなるから覚悟する事、じゃな」
「うん。わかった。だいじょうぶ。やくそくする」
「破った場合はカノンちゃんの嫌いな料理フルコースと、しばらくの仕事場の出入り禁止ね」
「ぅえっ!?やだ!僕がんばる!」
これは絶対破れない。
「うむ、よい返事じゃ。じゃあ汚れてもいい服に着替えなさい。リリィ、カノンが着替えたら仕事場に連れてきてくれ」
「は〜い」
待ちに待った時がきた!早く着替えよう。