メモリアを求めて6
イリス・ユーリンは世界の敵に入隊して初めての戦闘の際、ツァーニャ・シャペルとタッグを組まされた。
理由は簡単でイリスの持つ砂の拳銃は戦闘において中長距離の相手に対して有効なもの。そしてツァーニャの風の棍は接近戦に特化している。つまりこの二人は相性がいいだろうという咎の采配により決まったタッグだった。
だが、その采配は迷采配と言わざるをえない。二人なら2日で制圧できるであろうとされていた武装組織を倒せたのは5日後。当時、咎とファセリアの考えていた作戦がおじゃんになった時にはイリスとツァーニャは説教をずっとされていた。
どうしてそんな不甲斐ない結果になったのかは明白。
何故なら二人は……性格で全く反りが合わなかったのである
「イリスちゃんのアリーナじゃツァーの風の棍には勝てないよ〜ん」
ツァーニャが棍を片手に持ち、構える。
「そのスッカスカの脳天に風穴が開いて風通しがよくなった後も同じ事言えるか今から楽しみですね」
2丁拳銃をクルクルと回し挑発するように言ったイリス。
拳銃を構えて数発の光弾をツァーニャの足元へと放つ。すると砂煙が舞い上がった。
「目くらましよね〜。相変わらず戦い方がマニュアル通りというかつまらないわぁ〜堅物ロボットイリスちゃん」
目の前の砂煙の中から現れる光弾を知っていたかのように右に避けたツァーニャは片手の棍を思いっきり握ってから、目にも留まらぬ速さで投擲した。
途端、周りに切り裂くような風が吹き遊び、砂煙が消え、その竜巻のような風と棍はイリスとの距離を詰めていく。ついには先ほど作った土壁が一瞬で消し炭になった。
だがイリスもそうなる事が分かっていたかのように、動揺なしに2丁拳銃の光弾、先ほどよりもかなり大きな光弾を地面に向けて撃ち放った。
すると先ほどよりも大きな土の壁が今度は山から滑り降りてくる土砂のような勢いで風と棍に立ち向かっていく。
そして、轟音と共に両者の一撃は相殺された。
ツァーニャは吹っ飛んで戻ってきた棍を片手に取り戻し、イリスは大技が決まらずつまらなそうな顔をしているその顔に向けて嫌味な声を投げかける。
「そういうあなたは全く隊長たちの意図を理解せずにただ戦いに行ってるだけなので心底ウザかったです。脳みそお花畑ツァーニャ先輩」
「むかち〜ん」
明らかに不機嫌になったツァーニャは棍を思いっきり地面に突き刺した。
その謎の行為もイリスの中では分かる事らしく、今いる場所から走ってツァーニャとの間合いを近づけていく。
すると先ほどイリスがいた所に地面から噴きあげるような竜巻が巻き起こった。
「お互いの手の内が分かる分ケリがつきにくいわね〜」
「全くです。さっさと諦めるか、倒れてくださいよ」
「イリスちゃんが死んだら諦めるのだけれど〜」
「それ諦めてないんですけどね」
そうこう言い合いしてるうちに二人は接近戦を取り、蹴りとメモリアでの素早い乱打の応酬を繰り広げていた。
「イリスちゃん馬鹿じゃな〜い? 接近戦でツァーに勝てるわけないのに〜」
「馬鹿に馬鹿って言われるの屈辱です」
そう言いつつ、イリスがニヤッと笑った。
「!?」
その時突きを繰り出していたツァーニャがバランスを崩し、よろめいた。棍を綺麗に躱しきったイリスは一瞬の隙を突いて銃の弾を撃つ。が、ツァーニャの神がかり的な動きで髪の毛にかすらせるだけで済む。
今度はツァーニャがイリスから距離をとり、小さな息を漏らす。
「なるほど、さっき、アリーで土の壁を押し出すのと同時に私のいる土壌を柔らかくしていたってところね〜」
「今のを避けれるとは流石、馬鹿とはいえ敵ながらあっぱれです」
「ツァーはイリスちゃんより強いもの〜当然よ〜。けど、あまり風が吹かないここだとイリスちゃんが有利なのは否めないわね〜。どうしようかしら〜」
悩む姿を見るや否やイリスは既に動き、ツァーニャに迫る。
「悩んでる間に脳天撃ち抜いといてあげますね」
「お節介だわ〜。あ、そうだ。ツァーの知ってるイリスちゃんの弱点突いちゃいましょ〜」
「弱……点?」
イリスが警戒し、その目を見開く。だが、ツァーニャは少し後ろに下がって何か特別にイリスに対してしようというようには見えない。
「ハッタリだったんですか? 本当戦闘においては抜け目ないですね」
「いいえ〜。イリスちゃんの弱点っていうのはね〜」
その時ツァーニャは棍を構えて体勢を低くし、先ほどのように強くその握る力を強めていた。
「アリー!」
イリスが目の前に土の壁を作ろうとするがツァーニャの目的は別にあった。
ツァーニャが薄ら笑いを浮かべながら告げる。
「変に正義感の強いところよ」
次の瞬間、棍は投擲される。イリスのいる方にではなく、戦闘が起きてからまだ逃げ切れてない街の人間たちがいる中心部へと。イリスの脳裏にレドグとルーンの顔がよぎった。
「くっ!」
イリスは即座に棍の前まで移動し大きな土の壁を作ろうとする。
だが、作り上げる時間が間に合わず吹き飛ばされて地面に叩きつけられてしまった。
すぐに棍を回収し、そこからは余裕そうに歩いて倒れたイリスの元へと向かうツァーニャ。
「うふふ〜。まだまだね〜」
「いっ……つっ……」
吹き飛ばされた際に左肩を負傷したイリス。右手にのみしか力が入らないようで、その顔には悔悟が感じ取れる。
「戦いにおいて甘さは命取り。何回も先輩として教えてあげたでしょ〜?」
そう言われたイリス。絶体絶命の状況にあるはずなのにその顔が微笑む。
「そうなんでしょうね……」
「?」
「でも、あの人はこう言いましたよ……確かに戦いにおいて、甘さは命取りだと。でも、俺は甘さを持ったまま強くなった奴が好きだって」
「それって……、!?」
迫り、イリスにとどめをさそうとしていたツァーニャの表情にいきなり余裕が無くなり、イリスから飛び退いた。
青い目に一人の男が映る。その男、咎はほぼ目の前にいた。
「よぉ、ツァーニャ、選手交代だぜ」