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メモリアを求めて4

 カチャカチャと忙しなく、食器の音が二つ店の中で響く。

「よ、よくお食べになりますね」

 水をくれた少年、レドグの母、ルーンが咎とイリスの食べる量に感心していた。

「じゃんどがえばだいばずんで(ちゃんと金払いますんで)」

「ばいづぉ、ばべばがばばべばばいべぶばばい(隊長、食べながら喋らないでください)」

「ングッ、お前もじゃねぇか!」

 咎の言葉は一切気にせず、イリスはその小さな口の中へハムスターのように料理を詰め込んでいく。

「あ、あの、お代はいいです。店と命、何より息子のレドグを救ってもらったので、その感謝の気持ちという事で」

 ペコペコと頭を下げながらルーンが言うが、咎は目の前の大皿のゲバブの最後の一口をたいらげ、彼女の側へと向かう。

 ルーンがそのあまりの剣幕に表情を青くした。

「す、すみません、世界の敵ファイントデアヴェルトの隊長様に失礼なことを!」

 そしてその瞬間咎がルーンの両肩をがっちり掴み、言う。

「こんだけ食っておいて金払わないなんてそんな事出来るわけないじゃねぇか! ちゃんと払うぜ! なーに金ならここに……こ、こ……あ」

「へっ?」

 ルーンがまさかの言葉に驚いている最中、ガサゴソと自身の服をいじってから咎が何かに気づく。

「そっか、俺囚人だったんだから金ないじゃん。ハハッ。いつもは大金持ってっから気にせず食っちまったぜ。イリス、金貸して」

「…………」

 イリスが咎を見る目が汚物でも見るかのようなものになった。

「い、いいじゃねぇか。俺が世界の敵ファイントデアヴェルトの隊長の時奢ったり……してたっけ?」

「してないですね。むしろ飲み過ぎて倒れていった隊長や、ゴランとかツァーニャの介抱したりするぐらいなんで、あ、残業代とか逆に欲しいくらいなんですけど」

「あの、だから金ないんですが」

「あん?」

「ナンデモナイデスイリスサン」

 完全に気圧されてしまった咎。そんな咎を睨みながらイリスは金貨を5枚取り出してルーンに渡した。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

「こ、こんなに? 金貨1枚でも充分なくらいなのに! い、いいです、お代は本当に大丈夫ですよ!」

「いえ、久々にこういった手料理というのが本当に嬉しかったので、気持ちとして受け取って欲しいんです。な、ん、せ、ここに来るまでは襲ってくる獣の肉だとか、川でとった魚とか森の野草とかでしたから」

 ニコーッとルーンに微笑みながらお金を渡すイリス、何故か咎はその間冷や汗を流していた。

「いいじゃん……美味いじゃん熊肉」

「別に不満だなんて一言も言ってないですけど? そう聞こえましたか? そう聞こえてしまいましたか?」

「わ、わーったわーった!そんな怒んなよ!」

「べ、つ、に、怒ってません」

「怒ってるし……」

 心の中でこいつめんどくせーなーと思いながら苦笑する咎。

「んじゃご馳走さん、最後のゲバブめちゃめちゃ美味かった」

「こちらがお礼するつもりだったのに、何か申し訳有りません」

「あー俺は払ってないからイリスに言ってあげてくれ。取り敢えずもう出る。目当てのがもしかしたらこうしてる間にもどっか行っちまってるかもしれねぇからな」

「この街で誰かをお探しなんですか?」

 ルーンが山のように積まれた空の食器を少しずつ盆に載せながら尋ねる。

「おぉ、キッドっていうメモリアの研究家っつーか、オタク探しててな」

「キッド……聞いたことないですね。うちの店にはこの街の人が結構来る方ですし、色々とお話をしてくださるお客様も多いのに」

「あーそりゃしゃあねぇよ。あいつ滅多に人と関わろうとしないから。多分生まれてから今までで会話したの10人以下なんじゃねぇのってレベルだから」

「そ、それはまた凄いですね……」

「ねぇ、お兄ちゃんはなんでそのキッドって人探してるの?」

 ドン引きしているルーンに相反し、レドグが興味津々という感じで咎に尋ねる。

「そいつが一番メモリアについて詳しいんだ。しかも何個もメモリアを持ってる。そのうちの一つ借りようと思ってな」

「メモリア? 確かお兄ちゃんメモリア使いなんじゃ……」

「うーん、まぁそうなんだが、ほれ」

 咎がシャツを下からめくり上げてみせると、腹に、柄の折れた二つの穂を持つ、ニ叉の槍、ほぼ先端部分のみになっているものが紐でくくりつけられていた。

「隊長の肉体活性化が完全には切れてなかったので全損したわけではないとは思ってましたけど」

「大分威力は弱まっちまったし、リーチクッソ短いけど武器として使えないわけじゃないし、完全にメモリアとしての機能が無くなったわけじゃなさそうだ。無くなってたら流石に俺も呪いで死んでるだろうしな」

「……ですね」

 簡単に言った咎に対し、イリスは沈んだ瞳を見せた。察した咎は話を変えるように言う。

「それにこれじゃルドとは戦えないからな! だからさっさとキッドのところ行くぞ」

「はい、それでは早く失礼しましょう」

「また来てね、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

「おぉ、じゃあな、レドグ!」

「えぇ、是非」

 別れの挨拶を交わした二人は、街の外れの小さな小屋へと向かう。

 そこには接触お断り! という謎の看板が立っており明らかに異質さが際立っている。

「お断りされてますけど」

「されちってんな」

 気にせずその小屋に入ろうとする咎。その時だった。

「やはり来ると思っていましたよぉ〜たいちょ〜」

 小屋の上から甘ったるい媚びるような声がした。

 見上げるとそこにいたのは、銀髪が風で揺れ、服の上からでも分かる、妖艶さを孕むその女性らしい肢体。そこに立つ彼女は二人のよく知る人物だった。

「ツァーニャ……」

 イリスが苦々しく呟くとツァーニャはうふふと微笑む。

「や〜っぱりたいちょ〜についていったのね〜。可愛いイリスちゃん。けど残念だわ〜。そうなると〜」

 そこまで言った瞬間、常人では反応できないであろうスピード、ツァーニャは横蹴りをイリスに放ち、それを間一髪でイリスが防ぐ。

「ぐっ!」

「あなた達を殺さなきゃいけなくなるもの〜」

 続きを言い放つツァーニャの顔には狂気と言われる笑みがこぼれていた。

 ツァーニャ・シャペル、彼女は、世界の敵ファイントデアヴェルトの一人、咎とイリスの元戦友であり、世界王ファセリア・ルドヴァイエの部下。つまりは二人の敵となってしまった女であった。

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