メモリアを求めて3
先ほどの咎とバリカルとの戦いで辺りには人っ子一人いない。メモリアを使うような争いは巻き込まれてしまえば命がいくつあっても足りないからだろう。
「つまりこれはその変な奴に譲り受けたものなんだな?」
「は、はい。砂漠で倒れてた白衣を着た変なマスクをつけた奴に……で、す、はい」
先ほどからは咎に何かされたわけでもないのに、何故か地面に這いつくばっているバリカル。その話をまとめた咎は自分でまとめておいて大きなため息を吐く。
「知ってたけど……あいつ気まぐれすぎんだろ……」
「一般人にメモリアを渡すなんて何考えてるんでしょう」
「何も考えてねぇと思うぞ。ていうかあいつからしたらどんな人間も一般人だし」
「本当に変人なんですね」
「あぁ、あんな変な奴見たことない」
「なるほど、類は友を呼ぶってやつですね」
「ん? 何か俺またディスられてない?」
首を捻る咎をよそにしてイリスはバリカルの持っていたメモリア、ライトリガーを持ち上げる。
「で、これ使うんですか?」
「うーんそうだな、銃はあんまり得意じゃねぇし、壊しちまっていいぞ、イリス」
「勿体無い気がしますが」
「どちらにせよハズレのメモリアだ。イリスのアリーナに速攻ねじ伏せられるようなメモリアはいらんしなぁ。それに知ってるだろ? メモリアを使った人間には呪いがかかる。ちゃんと壊してやんねーとこいつが呪いで死んじゃうぞ」
「分かりました。が、アリーを馬鹿にするとその脳天ぶち抜きますよ?」
「あぁん? やるか? 性格ブス」
その瞬間目にも留まらぬ速さで彼女のメモリア、砂の拳銃が抜かれ、咎の耳元をその弾丸がかすめる。
「な、に、か?」
「ナンデモナイデス」
咎の顔色がここにきて真っ青になったのを見てからイリスは徐々に顔色が悪くなっているバリカルを見る。
「肉体活性化の呪いですか」
「あぁ」
メモリアを発動させた瞬間その身体には呪いがかかる。肉体活性化の呪い、戦うための超人のような身体能力がその身体に宿る。
これだけ聞けば呪いとは言えないのだが、その身体になった場合、メモリアを身体の一部に触れておくようにしておかないと次第に動くことが出来ない壮絶なまでの虚脱感に襲われることになる。
まさに今バリカルはその虚無感に苛まれているのだ。
「見た感じこいつよほどの短期間にぶっ続けで使ってんな。大分強い呪いになってやがる」
「さっさと壊した方が良さそうですね」
「あぁ、そうしてやれ」
頷いたイリスは愛銃、アリーナでライトリガーを撃ち抜く。すると、バリカルの表情がみるみるうちに良くなっていく。
この虚脱感から唯一逃れる方法は呪いにかかっている者が持ったメモリアを壊すことである。
そしてメモリアはメモリアでしか壊せない。つまりバリカルにメモリアを持たせるという選択肢を除いた場合、こうする事でしかバリカルは助けられない。
「ハァ……ハァ……死ぬかと思っだ…」
震える身体を何とか立ち上がらせながらバリカルが言う。
「これに懲りたらもうメモリアなんかに関わるなよ」
「は、はい! それじゃあすんませんでしたぁ!」
逃げるように人混みの方へと去っていったのを見届けた咎とイリス。
「呪いの事ちゃんと全部言わなくて良かったんですか?」
「いいんじゃねぇか? 知らない方がいい事もある」
メモリアを失う事により起きる虚脱感はそのメモリアを壊す事で消す事が出来るが、呪いそのものが消えるわけではない。
メモリアにより消した命の数だけ寿命を僅かにであるが縮める事になる呪い、それが一生ついて回るのだ。
「教えないのは残酷な気もしますが」
「因果応報ってやつだよこればっかりは。メモリアで人を殺めた分だけその身体には殺めた命の重みがのしかかる。いい事か悪い事かしんねーけど、この世界はやった事がどんな形であれ返ってきちまうんだよなぁ」
自分の右の手のひらを物憂げに眺めながら言った咎。それに対し、イリスは悟ったように問いを紡ぐ。
「それ、自分に向けて言ってません?」
「ノーコメント」
見ていた手をキュッと握ってから自身の守った店の入り口に彼は向かう。
「んじゃ、腹ごしらえしてから行くか。変人、キッドのところにな」