再び彼は世界を相手にすることにする
ファセリア王国のはるか遠方にて、砂嵐が巻く中をペッペッと唾を吐くような音が聞こえる。
「おい、イリス、いい加減止めろ! うぇっぷ、砂がぐぢんのなか入りまくってぺっぺっ!」
「言われなくてもそろそろ止みます。相変わらずこの子は少し自由すぎるもので」
確かに嵐は少しずつ止んでいく。持っている拳銃を慈しむ目で見ていた彼女は、ありがとうとだけ呟いて自身の黒いホルダーに両銃をしまった。
「取り敢えず隊長、お勤めご苦労様です」
「俺はヤクザの親分か」
「あながち間違いでもないように思えますけどね。傍若無人っぷりとか、世の中から煙たがられてるところとか」
「お前俺を助けに来たの!? 傷つけに来たの!?」
「どちらかといえば後者ですね」
「えぇ……マジかぁ」
咎が本気で微妙な気持ちになっているのを見て、彼女、イリス・ユーリンはさも楽しそうに微笑む。
言葉遣いこそ丁寧であるものの、性格はお茶目なところがあるらしい。
しかし、その整った顔立ちが険しくなる。
「隊長、どうしてこんな事になっているのです。知らない間にあなたは反逆の徒として捕まり、死刑寸前になっていました。あなたはファセリア王の親友であり、世界を共に統一しようという夢を叶えようとした相棒ではありせんか!」
咎はその訴えかけるような言葉を口に含んでしまった砂をぺっぺっとまだ吐きながら聞いていた。
「まぁ色々あんだよ。俺にも、その親友にも。あんだろ? 友達と最後の焼き鳥取る取られるでボッコボコにし合うような時とかさ」
「ねぇよ」
「あれ? タメ口? 今タメ口じゃなかった?」
「それよりもです。ファセリア王に挑むなら、どうして私たちを連れて行ってくれなかったのですか!」
「勝敗の結果。聞いたろ? 俺はルドに負けたんだ。俺が勝てなかった相手だぞ。お前らを連れてったところで色々と失っただけだろうさ」
ファセリア・ルドヴァイエと咎。
この二人の戦いは処刑の五日前に起き、そしてそれは三日三晩に続いたという。
かつて世界を相手にし、勝ち続け、世界を手にしたはずの二人はいつしか道を違えた。
ファセリアは世界を手に入れる事こそが自身の力を示す最上の行為として戦った。
咎はただ自身を殺そうとする相手に対し殺戮を繰り返す事がただ楽しかった。
どちらも褒められた理由ではない。
だが、天涯孤独の身、身寄りのなかった二人が自身の境遇を良くするために結託し、世界を統一しようと野心を募らせ、そしてその野心が、彼ら二人の強さが尋常ではなかったのは想像に難くない。
それは、その三日三晩の戦いにより咎とイリスの前に限りなく広がる荒野が物語る。
六日前には小川がせせらぐ喉かな風景があったはずであるのに。
「それにしても信じられません。隊長が、負けたなんて」
「そうか? ま、俺も負けると思って戦ってはないけどもな」
苦笑した彼は瞳を虚無を取り込んだような悲しいものにした。
「さてさてどうすっか。取り敢えず戻って再死刑なんて聞いた事のないもんかっ食らって来ますかね」
「……正気ですか?」
「あぁ。そもそも助けに来る必要なんてねぇんだ。お前以外の世界の敵の奴らだって来る必要ないって認識だったわけだろ? それが正しい。ただお前らの上司が勝手に社長に歯向かってクビになったって事だ。お前ら部下はただそのまんま社長の下で働きゃいい。働き頭がいなくなったわけだからお前らの負担もそれなりにでかいけどな」
そう言いながら咎は再びあの小さく見える城へと歩みを進める。
世界の敵とは最強とされるメモリア使いの咎隊長が率いる戦士団である。
名付けたのはファセリア王、彼の手足となり様々な国へと攻め込む精鋭達の名はすぐさま知れ渡り、実際隊長を含め5人その一人一人が国一つ滅ぼすほどの力を持っていた。
「世界の敵は隊長があってのものです」
「ちげぇよ。世界の敵は世界王の願いを叶えるためのチーム、つまりはルドのチームだ」
「けど、私たち……いえ、私は! 隊長がいたから世界の敵に入りました! だから、何があっても隊長についていきたい、死んでほしくないって言ってるんですよ馬鹿か!」
「え? 今隊長に馬鹿って言った?」
「とにかくこれ以上アホみたいで隊長らしくない事言ったらその脳天に風穴開けるんで」
「それじゃ死刑になるのと一緒だな」
かっかと笑った咎はその場にあった大きな石に腰掛けて、部下の表情をジッと見つめる。
「俺はもう死んでもいいと思ってるし、実際死んだのと一緒だ。この世界の王を敵にした無謀と言える人間だ。それでもお前はそんな俺に生きてくれと言うわけだ」
問うた言葉に対し、イリスは即座に返す。
「あなたは生きて、王を止めれる唯一の人です。だから、機を待ち、生き残るべきです。それにそう思ったから、そこに腰掛けて私の話を聞いているのでは無いですか?」
図星なのだろう。咎は頭を掻きながら呟く。
「そうだな。チャンスって考え方もあるよなぁ。そっかそっか。んじゃ決まりだ。もう一度、ルドを止める。今度こそ」
「それでこそ、隊長です」
嬉しそうに笑うイリス、そんな様子に咎は間の抜けた返事を返した。
「そりゃどうも。んで、俺ルドとの戦いの時にメモリア壊されちったんだけどどう戦えばいいの?」
「……はっ?」