世界を敵にまわす男
大観衆がドーム状の建物内で歓喜している。しかしその歓喜には違和感がある。まるで、創られたものであるかのような、そうしなければいけないと命じられたような、強制的な歓喜。
中には明らかな不満そうな顔を見せている者がいる。咎に対し同情的な目を見せている者すらいる。
「大罪人、咎。前へ」
ドーム内のアナウンス、その時歓喜が若干収まった。
「あいあいさ」
咎は処刑台とされる場所へとその足を向かわせる。向かうべき場所に待つは先ほどの華美な王族の格好ではなく、剣闘士を思わせるような格好のファセリア・ルドヴァイエだった。
「咎、要望通り苦しまないように一瞬で終わらせてあげよう。俺のメモリア。コールドエッジでね」
ファセリアは先ほど王座の間で見せた刀を両手で構え、ニヤリと笑う。
刀は刀身が蒼く煌めいており、光が反射する様は宝石のようにも見える。
「何か心残りはあるかい?」
「そうだなぁ。色々あるっちゃあるが、大きく言いやぁ二つくらいあるな」
「二つ?」
刀を下げて聞く姿勢を見せたファセリアに咎はニカッと笑った。
「一つは親友の大馬鹿野郎を止められなかったこと」
「…………」
ファセリアの刀を握る力が強まった。それは怒りを込めたものだろう。しかし、表情に滲むのは失望だった。
「あともう一つは……好きな女を守れなかった事かなぁ」
「……まだミーファの事を引きずっているのか。情けないね」
「あぁ、情けない男だ。大切な人を二人も守れなかったこんな俺なんか、処刑されて然るべきなんだ」
「だから、処刑にも応じたと? その気になれば逃げれるのに?」
「いいや、逃げるのは無理だったんじゃねぇか? 逃げたらお前のコールドエッジで貫かれてお終いだろうな……だから、いい加減諦めてんのさ俺は……さっさとやってくれ」
「潔いね。群衆に対してのデモンストレーションも兼ねて俺の最高の技で葬ろう。サヨナラだ。咎」
そこまで言うと、刀……コールドエッジとよばれるそのメモリアが刀身の周りに氷の結晶のようなものを纏っていく。
気温が10℃は下がったろう。刀は冷え切り、青白く光り、何の装備もないのに吹雪を目の前にしたかのような、そんな絶望感を感じる。
「ゼロケ……」
その刀が咎に向かおうとしたその時、ドォオンという音がした。音がした方向を見るとドームの天井に穴が空き、一人の長い黒髪の女性が瓦礫と共に落ちてくる。
そして処刑場へと降り立ち、女は二丁拳銃をファセリアに構えた。すると観衆からは悲鳴が上がり、衛兵たちも処刑場へと駆け上がってくる。
「そこまでです。隊長を返してもらいます。ファセリア王」
「イリス!?」
「……イリス、これは反逆の罪だ。俺は君も殺さなければならなくなるのかな?」
刀を取り巻く冷気は収まっていない。むしろ極限まで研ぎ澄まされているような印象を受ける。
「やめろ、イリス、お前じゃルドに勝てない。むざむざ俺と死ぬ気か!」
「……それもいいかもしれませんね」
ふふっと微笑んだイリスと呼ばれる美少女は銃を下へと向けた。
「ですが、今回はあなたを助けるだけですので」
引いた引き金。急に起きた轟音、地面が光と轟音に包まれた。砂塵が巻き起こり、あたりの景色が見えない中、一人だけが全くの無傷で、そして激しい憎悪を込めた表情で立っていた。
「咎……イリス……」
ファセリアは気づいていた。既に彼と彼女はこの場からかなり離れたところへと消えていたことに。