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2.初めての集合

「昨日、大丈夫だった?」

人生初めての合コンに参加した次の日の朝、学校に向かう途中で佳澄と一緒になった。佳澄は「おはよう」の言葉もなく、リンに突然質問してきた。

「大丈夫って、何が?」

 合コンのことに疎いリンは佳澄が何を言いたいのかわからない。

「何って・・・・・タカスン、お持ち帰りって言葉知ってる?」

 何それ?といつものように表情で語るリンに佳澄はハァ〜、と深いため息をつく。

「そうだよね、行ったことないなら知らなくても仕方ナイよね・・・」

 佳澄はブツブツ言いいながらうなだれた。

「それにしても、タカスンはマジにパネェなぁ。」

 おぉっ、今日の最初の「パネェ」は佳澄からだ。佳澄と彩女は二人いつも一緒に居るので佳澄と二人きりになるというのも珍しいけど、佳澄の口から「パネェ」と聞くのも珍しい気がする。もしかして初めてかも?

「あーいうコンパにはちょっぱやなヤツが来る時とか多いからさ、二人で抜けようとか言われたらあぶい時があんだよー。」  

               ※ちょっぱや=早い。ここでは手が早いという意味で使用。

               ※あぶい=危ない、危険。

「う、うん・・・・」

 前も言ったけど、私は今時の言葉がわからない。だけど、とりあえず良くない人が来ることがあるということだけは伝わった。

「まさかして・・・あの人とカレカノになっちゃたりして?」

                   ※まさかして=まさか!と、もしかしての混合語。

                   ※カレカノ=彼氏と彼女の関係。

「恋人ってこと?それはないよ。」

「なーんだ。ま、無事ならそれでいっか。」

 心配の後は面白い展開を期待するようなキラキラした眼で言われたけど、残念ながらご希望に添えることはできない。

「そもそも、地元に彼氏居たりする?」

 この二週間、色々と話しかけてきたけど今まで一度もしてこなかった質問を遂にしてきた。

「・・・・・・・・・」

 リンは思わず黙り込む。

「えっ?」

 予想外の反応だったのだろう。佳澄が驚きの声をあげる。

 しかしリンの沈黙は彼氏が居ることを表しているのだと、とてもじゃないけどそうは思えなかった。リンの視線は佳澄の方を向くことなく、ただ進行方向である前方を見つめ、表情は固く、暗くなっている。

「・・・タカスン?」

 佳澄はなにかまずいことを聞いてしまったのだと判断した。

「言いたくなかったら言わなくていいよ?」

 リンの表情が少し動いた。横を向くと、隣に佳澄がいない。そう言えば、声は後ろから聞こえてきた気がする。リンは立ち止まって後ろに振り返った。

 佳澄はリンよりも先に立ち止まり、数歩離れた場所からリンの方を真っ直ぐに見ている。

「タカスンは真面目だろうから、私らのことチャラくて適当に生きてるとか思ってるかもだけど、私らは私らなりに、真剣に生きてるんだよ。」

 今までの、ずっと笑顔で話しかけてきてくれていた佳澄の面影はない。茶髪で、相変わらずのバッチリメイクにセットした髪型だけど、真剣な表情をしている。見た目で判断しちゃいけない、って佳澄と彩女を見てわかっているつもりだった。でも、それはきっと伝わっておらず、不愉快な思いをさせているのかもしれない。

「あの、私・・・」

「だから、言いたくないなら言いたくないって言って?」

 傷つけているのだとわかってリンは何かを言わなくては、という気持ちになったが、その気持ちは佳澄に遮られた。

「勉強は嫌い。恋愛話大好き。そんな私らを白い目で見たりする人もいるけど、でもダチは大事にするよ。」※ダチ=友達。

 瞬きもほとんどせず、佳澄の視線はずっとリンを捕えている。

「それとも私ら、ウザいってずっと思ってる?」

 佳澄の顔が少し悲しそうになった。笑ってはいるけど、眼が悲しさを訴えている。

 リンは直に首を横に降った。すぐに「良かった」という笑顔に佳澄の表情が変わる。同じくリンも「良かった」と思った。

 この時、やっと本当の友達になれた気がした。


『屋上に集合!』

 可愛い絵文字でカラフルになったメールを見ながら早速彩女は屋上へと向かう。教室に着いた時、佳澄もリンもまだ来ていなかった。佳澄は遅刻が珍しくなかったし、リンはいつもギリギリに来ていたから、二人はまだ学校に来ていないものだと思っていた。なのに屋上に着くと二人がそろって「おはよう」と声をかけてきた。

「何だ?何の集会だ?」

 屋上にはまだ佳澄とリンしかいない。授業中の時間には遅刻してきた生徒やサボリの生徒が屋上で時間を過ごすけど、まだ朝のHRが始まる前ということもあり、他の生徒がいない屋上は広く感じられる。

「さっきさぁ、タカスンが遅刻したりばっくれたりしことないっていうから屋上に集合してみた。」                       

                           ※ばっくれる=さぼる。逃げる。

「マジか!?パネェ優等生じゃん!」

 世間一般では当たり前と思われていることも、今のご時勢(というかこの高校限定?)通用しない。まぁ決していいことではないけど。

「それと、昨日のこと聞き出そうと思って。」

「あ、それは聞きたい。」

 聞き出すも何も、別に特別なことはなかったのだけど、「で?」という表情で二人が見てくるから、リンはとりあえず昨日のことを思い出しながら二人に話し出した。


 大根と水菜のサラダを食べながら、コウはリンに続けて話しかけてきた。

「転入してきたっ、て紹介されてたけど、どっから来たの?」

「あ、福岡・・・です。」

 まだ一杯目のグラスを持ちながら答える。

「こんなとこで敬語はなし!みんなシラケちまうぜ。」

 そ、そうなんだ。そんなものなんだ。

「もしかして、頭数そろえるために連れてこられた?」

「あ、はい。じゃない!うん、そうです。」

 とりあえずシラケさせないようにと努力はしてみるものの、すぐには上手くできない。器用なタイプじゃないのだ。

 くくくっ、と軽く笑いながらコウは話を続ける。

「実は俺も。」

 同じだな、という雰囲気に少し緊張がほぐれる。

「多分次はカラオケになると思うけど、もう抜けて帰らない?」

 以外だった。カラオケ好きそうな感じがするのに。歌手には髪の毛を染めている人が多いことから生まれた偏見だが、実際にこの合コンのハイテンションについていけている辺りからカラオケとかノリノリに行きそうな感じがしていたからだ。

「明日朝早いんだよ。」

 何だ、そういうことか。

「何のバイトやってるんです・・・やっとうと?」

「お、いいねぇ。方言。バイトじゃなくて見習い、美容師の。」

 コウは方言に反応しながらもちゃんとリンの質問に答えた。何でもよく来店する芸能人が明日来店するらしい。仕事の都合で通常の来店時間に来店することが難しいので来店時間の前に特別時間を設けるらしく、見習いであるコウは来店予定時間よりも早くに店に行き色々と準備をしなければいけない。

 そんな訳でみんなが盛り上がった飲食店を出た後、二人で帰ることにした。みんなは疑いの目で見ていたけど、おかまいなしに二人で駅へと向かう。平日だというのに、お酒を飲んで楽しそうな人が多い。それにさすが東京というべきか、人が途切れることがない。

「やっと開放されたな。」

 上手く人をよけながらコウが口を開いた。まだ少し寒いこの季節、口からは白い息が漏れる。

「うん。」

 割と明るい声で返事をする。サラダの後、唐揚げをつつきながらコウと話を続ける内にコウとは気軽に話せるようになった。

「東京に来て、やっぱり人の多さにビックリした?」

「うん。電車もあれだけ多いのに、なんで常に人が多いのか不思議。」

「時間にもよるけどね。」

 あの通勤ラッシュ時の人の多さは半端じゃない。テレビで観たことはあったけど、思っていたよりずっと大変だ。学校に通うだけであんなに疲れたことは福岡ではまずなかった。

 でも、人間というのは時間が経つにつれて、また、経験を重ねるにつれて慣れてくるものだ。ぎゅうぎゅう詰めの電車にも同じ方言を喋る人のいない学校にも少しずつ慣れてきている。

「他にビックリしたことある?」

 東京で生まれ育ったコウは外から東京がどう見えるのか興味あるらしい。

「学校に図書室がないこと。」

「それはさすがに東京でも珍しいんじゃねぇ?」

 東京で生まれ育ったコウも初めて聞いた様だった。

 正確には学校に図書室はあったらしい。しかし、たまり場になるは、本を借りる人はほとんど居ないはで学校側がなくしたらしい。一応注意するがほとんど諦めている先生達の、唯一の反撃かもしれない。しかし、現在倉庫となっている図書室をサボリ場所にしている人は割と多いと初めて学校に行った日に先生が教えてくれた。

 人付き合いが苦手なことから、本を読むことで時間を潰すことが多かったリンにとっては大きな衝撃だった。かといって自分でそんなに多く本を買うタイプでもない。

「都立図書館に行ったりしねぇの?」

「・・・どこ?」

 二週間経ったとはいえ、まだ住んでいる場所の近くのスーパーとかコンビニとかしか知らない。

「そうか、学校以外で探せばいいのか。」

 今、気付いた。学校に通って、本来存在するものが存在しないと諦めるしかないと思っていた。学校以外の世界をあまり知らないから、そんな発想が浮かばなかったのだ。

「本当、お前面白ぇなあ。」

 またくくくっ、と笑いながらコウが言う。

「俺の知り合いが勤めてる図書館教えてやるよ。行けそうだったら行って?」

 そう言って教えてくれた図書館は住んでいる場所の最寄り駅と、学校の最寄り駅の間にあった。定期があるから交通費から考えると通うことは十分にできそうだ。しかし、駅から二十分歩かなくてはいけないということから、時間に余裕がないと行けそうにない。けれど、同じ理由からその図書館にはそれほど人が多い訳ではないらしく、人ごみが苦手なリンにとっては好都合だった。


 早速明日行ってみよう。

 リンはコウと改札口で別れ、ホームで電車を待つ間にそう思った。やっとこの東京で落ち着ける場所が見つかるかもしれない、という希望を感じながら。

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