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最終話 キセキ

「もうそろそろ、行かなきゃ。」

 空港のアナウンスを聞き終えた後、そう言ってリンは椅子から立ち上がった。

「もうか。」

「早いな。」

 空港でリンと一緒に晩御飯を食べた佳澄と彩女も同時に椅子から立ち上がった。

「休みの日とか、来いよ。」

「息抜きも大事だからな。」

「うん。二人も、福岡の方に遊びに来てね。」

 荷物はほとんど宅急便で送ったため、最低限の少ない荷物しか持っていないリンはちょっとそこら辺に出掛ける様にしか見えない。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 最後に何を言えばいいのかわからず、三人が無言になる。

「寂しい。」

 その沈黙を最初に破った彩女が泣き始めた。

「泣かないって約束したじゃん、もう。」

 彩女の涙を見て佳澄も泣き始めた。

「タカスン、私ら一生のダチだからな。」          

「うん。」

 そんな二人の涙を見てリンの目にも涙が浮かんでくる。東京で、一生分の涙を流した気がする。

「じゃあ、またね。」

 リンは二人を見てゆっくりと笑顔で言った。その表情からは二人と出会った時のような絶望感は全く感じられない。

「うん、また。」

「またねぇっ。」

 冷静な佳澄と相変わらず激しく泣いている彩女に最後の挨拶をした後、リンは背中を向けて荷物検査室の方へとゆっくり向かい始めた。佳澄と彩女はその場から動かず、どんどん小さくなっていくリンの背中をずっと眺めている。

「急げ!」

「こっちか?」

「居た!」

「おーい、リン!」

 リンが荷物検査の順番を待つ列に辿り着いた頃、聞き覚えのある声が慌ただしく聞こえてきた。その声に反応して振り返ると、見覚えのある人達が視界に入った。

「みんな・・・!」

「バイト早めに終わらせてもらったんだ!」

「大変な時に抜けてきたから睨まれちゃったよ。」

「雷、ユキ。」

「何の挨拶も無しに帰るなんて、冷たいヤツだな。」

「コウ。」

「俺のメールの返事はいつも遅いのに、今日リンが福岡に帰るって言ったら速攻でみんな集まったんだぜ。」

「完司君。」

 完司とは昼頃ちゃんと挨拶しただけに、何だか少し照れくさい。

「みんな、ありがとう。」

 オレンジ色に空色に桜色に茶色の頭の四人組は空港内でどう考えても目立っている。佳澄と彩女もそんな四人組に気づき、近付いてきた。

「目立つー。」

「パネェ!」

 リンの大事な六人が横に並んだ。

「またうどん食いに来いよ。」

「変な人に付いていくなよ。」

「髪の相談はまかせろ。」

「頑張れよ。」

「うわあ、完司普通。」

 雷→ユキ→コウ→完司の順で一通りメッセージを貰うと、雷が笑いながら完司を指摘した。皆もつられて笑い出す。

「いいじゃん、別に。」

 完司がちょっと拗ね気味に言う。

「みんな、またね!」

 リンは大事な六人を誰一人見逃すことなく本当に最後の眺めて挨拶をし、荷物検査室の中へと消えていった。昼頃完司と別れた時同様、一度も振り返ることなく。

「よし、今から完司の失恋パーティーな!」

「はっ!?」

 リンの姿がすっかり見えなくなると、コウが最初に口を開いた。それに続いて完司は思ってもいない言葉に()頓狂(とんきょう)な声を挙げた

「ばればれですよ。」

 佳澄の言葉に彩女もうんうん、と頷く。

「まず晩御飯はうどんな!」

 雷がちゃっかりバイト先の宣伝をする。

「あー、もう!!」

 完司が真っ赤な顔をして吠えた。

「ほら、行くぞ。」

 そんな完司を無視するかのように、ユキが先導してスタスタと歩き出した。

「主役は俺だろっ!」

 完全に開き直った完司がユキを追い越し先頭に立った。その完司を雷が追い越すと、完司がまた先頭に立とうと走り出し雷と完司の先頭争いが始まった。

「何やってんだ。」

「まだ子どもだな。」

「でもちょっと可愛いかも。」

 コウとユキが大人な発言をすると、佳澄がポツリと言った。

「えっ?どっち?」

 佳澄の言葉に彩女が食いつく。

「知―らない!」

「え?待て!」

 佳澄は彩女の問をはぐらかすと少し照れながら完司達の方へと走り出し、彩女もその後を追い始めた。

「二人まで。」

「若いからな、女子高生。」

 ユキの親父くさい発言に、コウとユキの二人は顔を合わせてクスリと笑うと皆の後を追いかけて走り始めた。

 空港の外に出てからも走りを止める者はおらず、すっかり暗くなった夜空に皆の足音と笑い声がいつまでも響いていた。


『リンちゃん、もう飛行機かしらね。』

「そうだな。」

 ナースに車椅子で携帯電話の使用可能場所に連れてきたもらった新が亜貴に簡単に返事をした。携帯電話は(あご)と肩の間に挟んで、かろうじて一人の力で話せている。

『寂しくない?』

「そりゃ、少しはね。でも大丈夫だよ。」

 確かな気持ちが、俺達の間にはあるから。

 大きな窓から見える夜の街を見渡すと、遠くの空に飛んでいる飛行機を発見した。リンが乗っているのは、あの飛行機だろうか。

「姉貴にも、まだまだ迷惑かけるよ。」

『ふふ、覚悟してるわ。』

 もっとリハビリを頑張って、飛行機に乗ってリンに会いに行こう。それが今の新の目標である。

 亜貴との電話を終え飛行機の進路をしばらく眺めた後、新は再びナースに車椅子を押してもらい自分の病室へと戻っていった。

 戦いはまだ始まったばかりだ。そう思いながら。


 希望していた窓際の席をゲットできたリンは、座席から真っ暗な夜の雲の上をじっと眺めていた。新と東京に来た時、明るい雲の上の風景を一緒に眺めたことを必然的に思い出す。

「明日から仕事かぁー。」

「あっという間に三日過ぎたな。」

 後ろの席から旅の終わりを嘆く恋人と思われる男女二人の会話がリンの耳に入ってきた。あの日事故に遭わなければ、リンも新とこのような会話をしながら福岡へと帰っていた筈だった。

(本当、人生何があるかわからないよなぁ。)

 後ろ二人の三日間を振り返る楽しそうな話を聞きながらリンはそう思った。

 でも、事故に遭ったことで学べたことがたくさんある。だから決して無駄なことではなかった。

(福岡に着くまで、一眠りするかな。)

 昨日夜遅くまで帰りの準備をしていた為、落ち着いてくると睡魔が一気に襲ってきた。それと格闘することもなく、リンは静かに目を閉じた。




 ねえ新。

 新が以前のように後遺症のない体に戻ることは奇跡なのかな。

 でも、私その奇跡を信じてみようと思う。

 神様は信じないけど、何か一つくらい信じるものがあってもいいよね。


 

 あの雪の上で言われた、新の言葉のように。


ご愛読ありがとうございました。


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