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22.偶然の結果

「ごめんね、急に呼び出して。」

 終了式の次の日、リンは完司を呼び出した。完司は浦田さんのはからいで少し長めに昼休みを貰えた為、以前に肉まんを食べた公園で待ち合わせをした。

「いや、気にすんな。新とは話できたか?」

「うん。昨日ちゃんと話をしてきた。」

「そっか。」

 完司はリンの表情を見て、お互い納得がいくように話せたのだと理解できた。それと同時に、完司の入り込む隙間はもう全然ないのだと感じた。

「いつ福岡に帰るんだ?」

「今日。最終の便で帰るよ。NEXのみんなにも会いたかったけど、それはちょっと無理そうかな。」

「そっか。」

「でも、完司君にはどうしても直接お礼言いたくて。背中を押してくれてありがとう。」

 リンが新から別れようと言われた日、駅の近くで完司がリンを抱き寄せて「頑張れ。」と言って胸を貸した日のことを二人共思い出した。

「話を聞いてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」

「支えてくれてありがとう。」

「もういいって。何回礼を言うんだよ。」

 完司が笑いながらリンのお礼を止めた。

「不思議だよね。事故に遭った直後は絶望の中に居たのに、ひょんなことからこの場所に居るなんてさ。」

 リンが体の向きを変えて、公園を見渡した。

「事故に遭わなかったら、佳澄と彩女に無理やり合コンに連れて行かれなかったら、コウと出会わなかったら、図書館を知らなかったら、この場所にこうやって完司君と居ることがなかったんだよね。」

「リン。」

「色んな偶然が重なって今の自分が居るんだよね。」

 昨日と違って風のない公園に、暖かい日差しが降り注いでいる。

「リン。」

「ん?」

 完司の呼ぶ声に反応つつもリンの視線は公園に向いている。

「リンが俺を知るのは、必然だったよ。」

「え?」

「俺、歌手だから。」

 完司のその言葉には、絶対に有名になるという意思が込められていた。

「そうだね。」

 リンが馬鹿にすることなく、優しく微笑んだ。

「福岡に帰っても、応援してるから。」

「遠いな。」

「そうだね。簡単には来れないね。」

「辛くなったら、いつでも連絡しろよ?」

「うん。あ、でも完司君に彼女ができたらちょっとしづらいなぁ。」

 以前に完司に彼女がいないと聞いていたので、出た言葉だった。

「リン。」

「ん?」

 今の完司はリンのことしか見ていないのに。そのリンから『彼女ができたら』なんて自分は眼中に全く入っていないと感じると切なくなって、完司は後ろからリンを抱きしめた。

「完司・・君?」

 以前に駅の近くで胸を貸してもらった時とは明らかに違う感覚にリンは戸惑った。

「リン。頑張れよ、本当に。」

 抱きしめる腕の強さで、リンは完司の気持ちをようやく理解した。

(完司君、私のこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 いや、本当はとっくに気付いていたかもしれない。何かある度に助けてくれた完司の暖かさには、友達以上の気持ちが滲み出ていた。

 きっとそれに気付かないフリをしていたのだ。完司の気持ちには答えられないから。

「完司君。」

「風邪ひくなよ。」

「かん」

「風呂入れよ。」

「か」

「歯、磨けよ。」

 完司は昔の番組を紹介するテレビで聴いたことのあるようなフレーズを、リンの言葉を遮って並べて言った。抱きしめる腕の強さから、完司の気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

「これからも歌うから。」

「うん。」

「絶対に有名になって、リンがどこに居ても歌が届くように頑張るから。」

「うん。」

 完司の声が少し涙混じりになってきて、それにつられてリンも泣きそうになる。本当に最近は泣き虫だ。

「リンも、頑張れよ。」

「うん。完司君も。」

 完司が更に強くリンを抱きしめた。

「リン。俺が腕を離したら、俺の顔を見ずに行って。」

「えっ?」

「絶対、見るな。」

「わ、わかった。」

「離すぞ。」

 そう言って、完司の腕がリンから離れた。リンは足が地面とくっついているかのように、その場から動くことができない。

「行けよ。」

 完司が少し、ぶっきらぼうに言った。涙が流れるのを、必死で押さえている声だ。

「行け、早く。」

 リンも泣くのを必死に押さえて、やっと歩き始めた。完司の言う通り、振り返らずにただ前へと。

 一歩踏み出す度に、完司と過ごした時間がよみがえってくる。


 図書館の入り口で初めて会った時。

 駅まで送ってくれた日々。

 お笑いライブに行った日。

 NEXのライブをみた日。

 泣かせてくれた時。

 励ましてくれた日々。

 その他のことも、全部。


 何回お礼を言っても足りない感謝の気持ちが、こらえきれなくなった涙と共に溢れた。

「完司君!」

 リンは振り向くことなく完司の名前を呼んだ。ちゃんと聞こえるように、大きな声で。

「ありがとう。本当に、ありがとう!」

 肩を震わせて一生懸命お礼を言ってくるリンの背中を見ると、完司は更に泣きそうになった。

「だから何回言うんだよ。」

 完司が少し笑いながら言うと、リンもフフっと軽く笑った。

「俺の方こそありがとう。リンと出会えて、良かった。」

「私も。」

「早く、行け。」

「うん。」

 もう一度完司に促され、リンはまた歩き出した。振り返ることなく、もう立ち止まることなくただ前をしっかりと見据えて。

 完司は最後となるそのリンの背中を見えなくなるまでじっと見ていた。公園からリンが居なくなった後も、しばらくリンの歩いて行った方から視線を動かすことが出来なかった。

「だから俺は、中坊かっての。」

 ようやく動いた完司はまたいつの日かのように自分にツッコんで空を見上げた。青く澄んだ空に、白い雲が少し浮かんでいた。


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