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第六話  登校します

 ピンク色のカーテンから朝日が差し込みまた新たな一日がやってくる。


 昨夜は絵梨ねぇがまた部屋に押し掛けてきて、勇吾のお袋さんに強制連行されたり中々騒がしい夜だった。

 俺は昨日の朝の事思い出し飛び起きてみるがベッドには自分一人しか居なく、溜め息を吐きまた布団を被った。


 「あ~、学校行きたくないな。具合悪い事にして休もうかな。」


 今の体を思うと学校へ行くのが億劫だった、それ以前に男の時でも学校が嫌で仕方がなかった。


 「あゆむ~、起きなさ~い!学校に遅れるわよ。」


 お袋の声が聞こえてきた、その声はまだ穏やかだった。


 「…、歩!聞こえてる~、起きなさい!」

 「……、歩っ!起きなさいっ!」

 「………、起きなさいって言ってるでしょ!いい加減にしなさいよっ!」


 二度、三度声を掛けるが返事をしなかったからどんどん口調が強くなり、最後には部屋に乗り込んで来た。


 『バンッ!!』

 「歩っ、いつまでも寝てないで起きなさいっ!」

 「何か具合悪い、今日は休みたい。」


 ドアが外れる勢いで乗り込んできたお袋に驚きつつも負けじと体の不調を告げた。勿論嘘のだけど。


 「ホントに?頭でも痛いの?」

 「うん、体もダルい。」

 「風邪でも引いたかしら、今体温計持ってくるから待ってなさい。」


 先程の鬼の様な表情とは変わり、また口調が穏やかになりお袋は体温計を取りに部屋を出ていった。

 俺は上手く騙せたと思い二度寝をする事にした。


 (ひひひ。女の子って以外と楽勝だな、お袋は心配してくれるし。この手で明日も休もうかな。)


 布団の中で良からぬ事を考えていたら廊下からお袋の声が聞こえてきた。


 「あら、絵梨ちゃんおはよう。」

 「えっ、絵梨ねぇ来てんの?」


 お袋の一言で慌てて飛び起きるが、その様子をお袋は部屋の入り口で見ていてニヤリと口角を上げる。

 俺はしまったと思い咳き込みながらゆっくりと布団に潜り直したが遅かった。


 「歩ちゃん、もうバレてますよ。起きた方がいいですよ~。」

 「今急激に動いたから余計具合悪くなった。もう長くない。」

 「そんな訳無いでしょ!顔色見れば直ぐ分かるんだから、早く起きなさいっ!」


 無理矢理布団を剥がされ俺の体は露になった、勿論パジャマは着用しているが。怒っているお袋を和ませようと奥の手を使う事にした。


 「いや~ん、ママのエッチ~!」

 「は?何それ?」

 「いや、だからママのエッチって…。」

 「女同士で何気持ち悪いこと言ってんの!」


 結局奥の手は通用せず俺は首根っこを捕まれダイニングまで護送された。

 兄貴はもう学校に行ったらしく親父だけが朝食をとっていた。


 「ようやく起きてきたか、早くしないと勇吾君迎えに来るぞ。」

 「待たせるからいい。」

 「お前な、あんなイイ男を待たせてどうするんだ。誰かに取られても知らないぞ。」

 「俺達そんなんじゃないから。それと昨日の事忘れてないから。」

 「…昨日はすいませんでした。」


 朝から絡んでくる親父を適当にあしらい朝ごはんを摘まんだ。

 しかしおかずの中で目を引く一品があり、茄子の煮浸しの上に赤い液体がかかっていた。

 一口食べると目が覚めるような酸味と茄子の風味が口に広がり…、ご馳走さま。


  『ピンポーン』


 あっ、勇吾が来たかな。俺は玄関に出迎えに行った。

 勇吾はすっかり準備も出来て迎えに来たが俺の格好を見て唖然としていた。


 「お前人前に出る格好じゃないだろ!早く着替えて来いよ!」

 「そうか?いつもこんな感じだろ?」

 「前はな、今は違うんだから気を付けろよ。」

 「はいはい、待ってる間上がってけよ。」

 「いい、ここで待つ。それより早くしろよ遅れるぞ。」


 結局仮病はバレて怒られるし、学校行きたくないし。そもそも制服のスカート履きたくないよ~、ひらひらして寒いし女の子って凄いよな。



 「お待たせ。」

 「ようやく来たな、じゃあ行くぞ。」

 「その前に。」

 「ん、何だ?」

 「俺こんな格好で捕まらないかな?」

 「どっからどう見ても女子中学生だ。」


 そうかそうか、憂鬱だ。



 俺は学校に着くまで誰にも会いたく無くて下を向いたまま登校した。

 途中百円拾ってラッキーと思ったらスマホ弄りながら歩いていたサラリーマンとぶつかり、キラキラした目で見られて気持ち悪かった。

 運命の出会いとか言わないで。


 「あぁ、着いちまった。」

 「俺が居るから大丈夫だって。」

 「ホントに?俺から離れないでよ、俺、勇吾を通して話するから。」

 「俺は通訳かよ。それよりどうなるか分からないから言葉使い気を付けた方がいいからな。」

 「大丈夫だろ、俺学校で話す奴あまりいないし。」


 勉強も運動も出来ない俺はイジメの格好の的だった。男子には馬鹿にされ、女子にはからかわれる。

 それでも勇吾が庇ってくれるからなんとか学校には行ってる。

 憂鬱は最大になり勇吾の後に続いて教室に入った。


 「おっす勇吾昨日のお笑い見たか?」

 「藤崎君おはよー、ちょっと数学教えて欲しいんだけど。」

 「勇吾遅ぇよ。」


 勇吾が教室に入るとみんな挨拶してくる。勇吾はクラスの人気者、それに引き換え俺は居ても居なくても良い存在。

 毎朝この光景を見てると帰りたくなる。


 「お~、あゆちんおはよう。」

 「歩来るの遅いよ~。また勇吾君とラブラブ登校かい?」

 「み、三上さんおはよう、あ、あの今日もよろしく。」


 は?皆どうしたんだ?何かのドッキリ?俺に挨拶する奴なんか居なかったのに、それ所か俺に緊張してる奴までいるし。

 呆気に取られてる俺に勇吾が肘でつついてくる。


 「これは知らない設定でも良い設定だな。みんなに挨拶返した方がいいんじゃないか?」

 「あ、あの、おはようございます。」


 俺の挨拶に何事かとみんな一斉にこっちを見る。

 うわっ、そんな目で見るな、俺何かした?


 「歩なに改まってるの?可愛いぃ!」

 「歩ちゃん可愛いぞっ、俺と付き合え!」

 「いつにも増して可憐だ。」

 「あゆちん今日も可愛いね~。」



 俺の挨拶でみんな一気に盛り上がり、ちょっと驚いた。

 何か知らないけど神様アリガトォ!!





 1、2時間目の授業を終えホッと一息吐く、いつもと違うからか先生の言葉が良く頭に入ってくる。

 まさかじいさん、いや神様は頭まで良くしてくれたのか?

 次は苦手な体育、って言ってもどの教科も苦手だけど…。

 体は女の子でも心は男、女子更衣室に入れる筈も無く誰も使っていない空き教室で着替えを済ませ校庭に急いだ。



 「今日は持久走するぞ~。」

 「「「え~!」」」

 「みんな寒いからって体動かしてないだろっ?健全な筋肉は健全な肉体に宿ると言うだろ!」

 「「「何か違うと思います!」」」

 「黙って走るぅ、男子は3000m、女子は1500mだっ。」


 あ~、最悪。先週もマラソンやって先生に怒られたのに、また怒られるじゃねーか。

 いや、スタミナも大幅に向上してるかもしれないし、神様頼むぜ!



 ー500m地点ー


 まだ楽勝だな。男子の方は勇吾がトップか、まぁ当たり前だな。



 ー1000m地点ー


 ヤバい、脇腹が痛い。何か俺の周りだけ空気が薄いのは気のせいか?勇吾は何馬身離せば気が済むんだ?

 


 ー1200m地点ー


 ハァ、ハァ、もうダメだ。後ろには誰も居ない、俺が最後だ。

 クソッ、神様スタミナ値にはまったく振ってねーのかよ。


 「あゆちん頑張れ~、後少しだぞ~。」

 「俺が背中押してあげようか~!」

 「頑張る姿も可憐だ。」


 背中押さなくていいから代わってくれぇ。それと最後に喋った奴マジ黙れ。



 ー1450m地点ー


 あ"あ"あ"あ"死ぬ、しぬ、シヌ。俺以外みんな走り終わってるし、クラスみんなで騒いでるけど、どうせ俺のヘロヘロな姿見て笑ってんだろうな。


 「歩っ、もう少しだ頑張れっ!」


 今の勇吾か?確かに勇吾の声が聞こえた。

 そうか、みんな応援してくれてるのか。

 何か行けそうな気がする~!



 ーゴール地点ー


 やった、やったぞ遂にゴールだ!俺は情けなく膝から倒れこんだが、みんな拍手に声援を贈ってくれる。

 男の時はみんな呆れてヤジしか飛んで来なかったな。



 女の子も悪くないかも。





 午前の授業が終わりようやく昼休みだ。俺はいつものように弁当を持って体育館脇に向かった。

 あそこは殆ど人が来ないし、いつも昼休みを一人で過ごす俺にはピッタリの場所だ。


 「あれっ、あゆちんお弁当持ってどこ行くの~?一緒に食べないの?」

 「えっ、あの、だっていつも一人で食べてるし。」

 「えっ、何言ってるの?いつもみんなで食べてるじゃ~ん。」


 ここまで来るとどんな鈍感な奴でも分かる、俺はクラスでそこそこ人気があるみたいだ。

 ちなみに俺をあゆちんと呼び間延びした喋り方の女子は、


 『宮本 優花(みやもと ゆうか) いつも眠そうな顔をして間延びした話し方が特徴、年下の男子に人気がある。』


 優花に体育館脇に行こうとしたのを止められ、そのまま袖を引かれ教室に戻された。

 俺の机の周りに女子が何人か集まり弁当を広げ始める。

 これなんてハーレム?




 「やっぱりそうでしょ?あの二人怪しいと思ってたんだよね。」

 「ギャハハハ、それマジウケる!」

 「ヤバい次顔見たら噴き出しそう。」


 ハーレム、さっきまでの俺の期待感は見事に裏切られた。

 女子トークとはこんなに凄いのか、さっきから男女関係の話しかしてないし、今なんて体育教師と英語教師の熱愛(男同士)の話で大盛り上がり。


 「あゆちんどしたの?今日は大人しいね。」

 「えっ、あぁ、みんなの話聞いてるだけで楽しくって。」

 「なに~歩、おしとやかになって女子力アップでも目指してるの?なら手伝ってやるっ!」


 後ろから声が聞こえたと思ったらとなりに座ってた女子が胸を揉んできやがった。


 「どう?歩、女子力上がってきたんじゃない?」

 「やぁ、んっ、、ちょ、、と、あっ、まっ、て。」

 「ホレホレ、歩イイの持ってるね~!」

 「あんっ、やっ、やめっ、ろ。」


 ヤバい力が入らないし、変な声出るぅ。

 俺達のやり取りにクラスの男子が釘付けになりいやらしい目で見てくる。

 ヤメロ~!そんな目で俺を見るなぁぁぁ!


 「ハァ、ハァちょっと何すんだよ!しかもみんなが見てる前で!」

 「ありゃ、逆効果だった?そんな言葉使いだと女子力下がちゃうよ。にひひひ。」


 俺でもまだしっかり触った事ないのに何て奴だ。

 男子達はまだこっちを見てるし、俺は恥ずかしくなり教室を飛び出した。




 結局俺は体育館脇まで来て一人寂しくしゃがみ込む。

 あ~ここは静かでいいなぁ、空は青いし。


 「やっぱりここに居たのか、教室出て行ったからみんな心配してたぞ。」

 「そりゃあみんなの前であんな辱しめ受けたら…、ってのも有るけど俺、あの時みんなの前で何て言えばいいか分からなかった。」

 「分からなかった?何見てんのよ~、とか言えば良かったんじゃないのか?」

 「そうかもしれないけど、俺今までみんなとそんなに話とかしなかったから言葉が出て来なかった…。」


 勇吾は黙って頷いてくれてるから俺は続けて喋る。


 「一昨日まで俺はクラスでボッチだったし、今日のみんなの態度だって神様の力でだろ?それを考えるとなんか虚しいんだよ。」

 「だったら今日からみんなと交友関係築いて行けばいいだろ?」

 「今の流れに乗っかってもいいかな?ズルくない?」

 「全然大丈夫だろ!むしろ歩が楽しんでると俺も楽しいからな!」


 なんか吹っ切れた気がする!いや、ちょっとだけね。

 よしっ教室戻ったら頑張るぞ俺!

 あっ、それと勇吾に言い忘れてた事があったな。


 「ねぇねぇ勇吾君?」

 「な、なんだよ、早速俺と交友関係深めるのか?」

 「なんでさっき胸揉まれてる時に助けてくれなかったの?」

 「えっ、いや、その~、見惚れてました。」

 「この野郎~、朝に『俺が居るから大丈夫だって!』とか言ってた癖に~!あっ、逃げんな!」

 「ごめんって!」

 「逃げるから許さ~ん!」



 昼休みが終わる前に俺は勇吾と一緒に教室へ戻った。教室内は静まり返っていて不気味だった。


 「あっ、あゆちん戻ってきた。」

 「ごめん歩、ちょっと調子に乗っちゃった。」

 「歩ちゃん俺達探したんだぜ、どこ行ってたんだよ?」


 勇吾が肘でつついて来る。教室入る前に打ち合わせたみんなを和ませる一言を深呼吸して放つ。


 「胸揉まれてズレたブラを直しに行ってました。テヘッ♪」

 「「「………。」」」


 あれ、面白くなかった?舌出したのが良くなかったか?勇吾知らんぷりしてるし!こいつもズルいっ。と思ったのも束の間。


 「歩ちゃんサイコー!エロカワイイ!」

 「なんだビックリしたよ~!」

 「やはり可憐だ。」


 一々静かになるのやめてくれよ、今の俺には心臓に悪い。

 何はともあれみんな今の俺に少なからず好意を持っているみたいだから、この現状に乗る事にした。


 男に戻った時の事を考えると恐いな…。




 ようやく午後の授業も終わりまた一息吐いて帰る準備をした。

 何人かは雑談してるみたいだが俺は早く帰りたかったから加わる気も無く、いつものように勇吾に声を掛け帰ろうとした。


 「悪い、ちょっと部活の顧問に呼び出しくらったから顔出してくる。」 

 「そうなのか、引退したのに忙しいな。」

 「すぐ済ませるから教室で待っててくれないか?」

 「分かったぁ。俺の事は気にしなくていいからゆっくりしてきていいぞ。」


 勇吾は用事を済ませる為急いで教室を出ていった。俺は時間潰しに読みかけのマンガを読むため席に座り直し、カバンを漁った。

 あれっ、無いぞ。先週買って確かに入れてたのに。


 「あゆち~んどしたの?」

 「えっ、ううん、何でも無いよ。」

 「そっか、そう言えばあゆちん先週の進路希望出した?」

 「進路?おれ、、じゃなくて私は鳥見沢高校で出したよ。」

 「えっ?も~、ボケなくていいってば。」

 「だって私の頭じゃあそこ位しか。」

 「あそこ男子校でしょ?」

 「あ…。」


 ああぁぁぁぁ!しまった!優花の一言で今の俺の現状を改めて知った。

 女の子じゃ男子校行けないじゃん、かと言って近場の高校なんて俺じゃ入れないし。

 どうしよ~!


 「もしかして、素だった?」

 「ま、まさかぁ。ちょっとボケてみました。」

 「でしょ?あゆちん何か今日おかしいよ~?」

 「そ、それより優花はどこ志望してたの?」

 「私は双星だよ。先週話したじゃ~ん。」

 「あぁそうだったね。」


 優花はいつもふわふわしてる感じだけど結構頭が良く双星高校も頷けた。

 てか俺の周りは双星高校多いな!俺が頭悪いだけか?


 「どうせあゆちんも双星でしょ?」

 「えっ、私じゃ無理だと思うよ。優花程頭良くないし。」

 「それって嫌味~?この前の中間テスト私より良かったじゃ~ん。」

 「なにぃぃぃ!そうだっけ…?」


 俺の大声に優花は驚きつつもどこか心配した目で見てくる、それに加え他の奴らも寄ってきた。


 「どしたの歩ちゃん。俺の事が気になるの?」

 「いや、そうじゃなくて。なんでも無いよ。」

 「え~!そうなの、俺はいつも歩ちゃんの事しか考えてないよ。」

 「あははは…。ありがと。」

 「ちょっと奏斗、歩引いてるよ。」


 俺の大声で数人が寄ってきた、その中でも朝から一々絡んでくるチャラチャラした男子は、


 『黒川 奏斗(くろかわ かなと) サッカー部元キャプテンで運動神経だけは良い、勇吾程ではないが。クラスの中心になりたがるキャラ。』


 俺こいつ嫌いなんだよな。俺が男の時、散々馬鹿にされてこいつに便乗してくる奴も居たし。

 女の子になったら馴れ馴れしく話し掛けてくるし、しかも口説いてくるし、こいつの頭の中はどうなってるんだ?


 「あ、あれ今日の歩ちゃん何か変じゃない?」

 「変なのはあんたでしょ。歩見るたび口説いて、朝から帰りまでその調子だったら疲れるでしょうが!」

 「そうなのか、でも俺は歩ちゃんを諦めないぞ!」


 一瞬ドキッとした。ときめいたとかじゃなく、優花に続いて黒川も俺の変化に気付いているみたいだ。

 優花は結構人を見ている節があるから分かるが、黒川に至ってはいつも能天気で悩みも無さそうな奴なのに。


 「そんなに私って変?」

 「えっ?いや変って言うか少し人が変わったような、俺悪い意味で言ったんじゃないからね!」

 「そっか…。」

 「あゆちんどうしたの~?何か悩み事でもあるの?」

 「ううん、何でも無いよ!ちょっと女子力向上の為に勉強中でさ。」

 「あゆちんそれ以上可愛くなってどうするの~。」

 「そうだよ、今のままでも充分サイコーだよ!」


 はぁ、誰かこいつを黙らせてくれ。さっきから鳥肌が収まらないんだけど。


 「それより勇吾君とはどうなの?ん?ん?」

 「どうって?」

 「また惚けちゃって!どこまで行ったの?最後まで行った?」

 「私達そんな関係じゃないって!只の幼馴染みってだけだから。」

 「えっ~、だって昨日駅で二人で居たらしいじゃん。どこ行ったのさ?」

 「あれは勇吾と勇吾のお姉ちゃんと三人でモールに行ってきただけだって!」

 「商店街二人で歩いてる所見たって聞いたよ。」

 「なんでそう都合のいい所しか見てないの?」


 どうして、どこ行ってもみんな俺と勇吾が付き合ってる話になってるんだ?

 そりゃあ男の時は殆ど一緒に行動してたし、女の子になっても変わらない。だからって男女の関係になる訳が無い。

 そもそも俺は男なんだからまず間違ってもある筈が無いんだ!


 「おっーす、歩待たせたな帰ろうぜ!」

 「勇吾君タイミングいいね~!」

 「は?何のタイミング?」

 「今ね、歩と勇吾君の恋バナしてたんだよ。」

 「歩は否定するんだけど実際どうなの?」

 「実際って、それは俺達を見ての通りだろ!」

 「「え~、それって?」」

 「つー訳だ、みんな歩に手出すなよ!」


 勇吾も否定すると思って黙って頷いていたら、予想外の言葉に俺は唖然としてしまった。

 女子何人かは黄色い声を出して騒いでるし、黒川は呼吸が止まっていた。

 普通の女子であれば顔を真っ赤にして慌てて否定する筈だが俺は違った。


 「ちょ、おま、何言ってんの?なんで否定しないんだよ!みんな違うから、勇吾はふざけてるだけだから!」

 「あはは、歩顔真っ赤だよ。」

 「えっ?そ、そんな事無いから!」

 「もういいだろ?歩、帰ろうぜ。」

 「そんな、嘘だぁぁ、でも俺は絶対諦めない!」


 なんてこった、俺の身近な所にとんだ伏兵が居やがった、みんなの前であんな事言ったら明日にはクラス中に広まるじゃないか。

 帰り道勇吾は色々と話をしてくるが全く耳に入らない、俺は明日の事を考えるとそれどころじゃなかった。


 「どうした歩?元気無いじゃん。」

 「当たり前だろっ、あんな事言ったら明日からみんなに冷やかされるだろ!」

 「まぁそうかもしれないけど、みんなそんなに子供じゃないと思うけどな。」

 「そんな訳ないだろ、一緒に居るだけで男女の関係を疑ってくるんだぞ。」

 「それに俺は付き合ってるなんて一言も言ってないぞ。あぁ言っとけば奏斗も手出さなくなるかもしれないし。」

 「そんな一休さんのトンチじゃないんだから…。」



 はぁ~、明日も学校行きたくない。


  

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