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第五話  強敵現る②

 朝の騒動が終わり絵梨はこれから一仕事あるかの様な渋い顔をしながら自分の家に戻って行き、歩に一時の安息が訪れる。

 絵梨が出ていきそのまま開け放たれた窓から声が聞こえてくる。


 「歩部屋に居たか?」

 「居るよ!」

 「朝から姉貴が悪かったな。」

 「ははは、まぁね。とりあえずこっち来いよ。」

 「兄弟揃って朝から悪いから遠慮しとく。」

 「いいから来いって!玄関から入るとお袋に捕まるから窓から入ってこいよ!」

 「んじゃ、お邪魔するぞ。」


 姉の絵梨の事もあり自分も行くのは気が引けたが歩も折角招いてくれているので窓から侵入する事にした。


 「うわっ、なんだこの部屋?」

 「びっくりしただろ?」

 「いつの間に模様替えしたんだ?」

 「俺じゃねーよ!昨日帰ってきたらこうなってた。」

 「俺女の子の部屋初めて入ったよ。」

 「部屋に入った感想がそれかよ!百歩譲ってピンク色はいいけど、俺のコレクションが全部無くなったんだぜ?フィギュアにゲーム、それに隠してた成人向け雑誌も。」

 「ふむふむピンク色は気に入ったのか。」

 「そこじゃねーよ!」

 「今の歩には成人向け雑誌は必要ないだろ?」

 「そうだけど、間の話聞いてた?」

 「気にすんなゲームなら俺の貸してやるから。」

 「助かる!この部屋には娯楽が無いんだ。」


 勇吾は女の子の部屋が気になるようでキョロキョロと辺りを見回していた。学校ではモテまくりの勇吾だが女の子の部屋に入った事が無いのは意外であった。


 「じゃあこれからどうする?」

 「どうするって、買い物でも行くか?」

 「そういう意味で聞いたんじゃねーよ。」

 「分かってるよ。さっき絵梨ねぇにも聞かれたよ、流石兄弟だなって。」

 「ちょっと笑えねぇな…。そもそも何で姉貴が歩の家に行ってたんだ?」

 「よく有る事らしい。」

 「"らしい"ってなんだそれ?」

 「俺だって分かんねーよ、女の子になったら知らない設定が多すぎるんだよ。」

 「例えば?」

 「俺と絵梨ねぇはとても仲が良いみたいだ。」

 「なっ、あの姉貴と?でも確かに今の歩だったら可能性はあるけどな。」


 男だった時の歩とその兄の武志も、まして血の繋がった弟でさえ存外な扱いを受けてきて、武志に至っては女性恐怖症の手前まで行ったのだった。

 歩の言葉に驚きつつも弟だけあって姉の特性を理解しているようだ。


 「てか勇吾の部屋から出入りしてたのに気付かなかったのかよ?窓も開けっ放しだったし。」

 「寒くて目が覚めたよ、窓開いててビックリしてさ。てか夜中にそっち行ったって事は一緒に寝たとか?」

 「うん…、でも何もしてないからな!朝気付いたら隣に居たんだからな!」

 「何もされてないか?」

 「普通逆だろ!自分の姉を心配するだろ?」

 「姉貴が手を出す可能性はあっても逆はないから。」


 余程歩の事を信じているのか、それとも今の歩の体ではそれ以上の発展はあり得ないと思っているのか勇吾は断言する。


 「俺って意外と信頼されてる?じゃあまた一緒に寝てても怒らない?ねーちゃん取られたって泣かない?」

 「……。」

 「返事しろよ!」

 「そんな事よりそろそろ行くか?」

 「どこに?やっぱり買い物?」

 「その下りはいいから、神社だよっ。」

 「あっ、すっかり忘れてたぁ!」

 「…歩らしいな。」

 「俺は朝から大変だったの!」


 二人は神社に行く為にそれぞれ準備を始めたが先ず服装で悩んでしまった。

 クローゼットを開けるとビンクや赤等、歩の余り好まない色ばかりで着る気になれない。探しに探して悩んだ結果、グレーのコートにジーンズと言う露出の少ない格好になった。

 先程小遣いを貰った事を思い出し封筒を確認すると、なんと五百円多く入っていて値上げした事を知る。

 テンションの上がった歩は意気揚々と神社に向かい始め、道中で今朝あった事を勇吾に話ながら歩いた。勿論裸で貧血になった事は情けないので伏せてだが。




 「姉貴の行動も引くけど、親父さんも凄いな…。」

 「だろ?娘を持つ親父の行動ってあんなものなのか?」

 「うちの親父は違うけどな最早姉貴を恐がって近寄らないし、最近敬語使ったりするし。」

 「それはちょっと可哀想だな。まぁ俺も今朝親父の事土下座させたけど。」

 「そっちの方が可哀想だろ!」

 「だって俺の裸見ようとしたんだぜ?気持ち悪いだろ?」 

 「男だったら気になるからな。」

 「やめてホントに気持ち悪いから。」


 まだ朝も早い時間、商店街に人は少なく誰にも捕まる事無く神社に着く。

 何か忘れてるような気がしたが思い出せず深く考える事をやめる。


 「先ず神様に会って文句言わなきゃ!」

 「もう来てるかな?寝坊してたりして。」

 「あり得そうで恐いよ、テレビ見たくて帰る神様だからな。」


 二人はとりあえず本殿にて一礼、その後中に入ろうとするがやっぱり鍵がかかっていて入れない。


 「勇吾の言う通り来てなかったな。クッソ早起きして損したよ!」

 「まぁ、当初の目的は参拝だからな。神様が来るまで何回か往復するか。」


 二人は本殿の様子を伺いつつ参拝を繰り返す。何十回か繰り返す内に歩はすぐに飽きてしまった。


 「こんなんでホントに俺は男に戻れるのか?」

 「これは結構キツいな、信仰心云々より最早苦行でしかないな。」

 「勇吾の口から文句が出るなんて珍しいな、いつもは悟りを開いた聖人の様な振る舞いなのに。」

 「誰が仏さんだっての、でもこれじゃ神社で悟りを開いちまうな。」


 『なんじゃもう終わりかの?だから言うたじゃろ信仰心が必要だと。』


 不平不満を口にしていると何処からか神様の声が聞こえてくる。


 「じいさん何処に居るんだよ、出て来て姿を表せ!」

 『何その言い方、悪者相手に言うセリフでしょ?酷くない?』

 「今の俺からしてみれば充分悪者だっ!俺のフィギュアとゲーム返せ!後、都合のいい設定どうにかしろよ!」

 『そんな事言われても今神パワー無いしのぉ。』

 「まだ貯まって無いの?おせぇーよ!」

 『あのね、ソシャゲのスタミナじゃないんだから、一晩寝たら満タンとか都合良くないから。』

 「ソシャゲとか知ってる時点で神様じゃないだろ!人には都合のいい設定しておいて、自分は都合悪いのかよ!」


 姿は見えずとも直接頭の中に聞こえてくる声、勇吾は驚いて話所ではなかったが歩は当然のように会話をしていて適応力に感嘆する。


 『それはそうと今週は地上に行けないがしっかりお主らの事は見ておるからな。』

 「えぇぇぇ、文句一杯言いたかったのに。逃げたな!」

 『儂は逃げも隠れもせんよ。今日は神様会議、明日から神様出張があるから暇が無いんじゃ。』

 「なんだよそれ、ホント人間と変わりないな。どうせ今も顔が見えないからってゲームとかやってるだろ?」

 『…そんな訳無いじゃん、今は神様会議の資料に目を通しながら話してんの。あー忙しっ。』

 「図星かよ、全くいい加減すぎるだろ。」

 『おっともう時間じゃ、二人とも精進するんじゃぞ。ではさらばじゃ。ブツッ、ツーツーツー。』


 歩に鋭い突っ込みを入れられ慌てて通話?を終了させる神様、二人は互いに顔を見合せため息を吐く。


 「何だ最後の音は?地上との会話に電話使ってたのか?」

 「皆が想像してる天界とは大分違うみたいだな。」

 「あの神様焦ると普通に喋るよな。嘘がすぐバレて怒られるタイプだな。」

 「確かに、でも神様が嘘ついていいのかよ、それより一応続きやるか?百万回までまだまだだぞ。」

 「う~ん、やっておかないと何時までも女の子のままだし。でもメンドクセー!」


 二人は神様のいい加減な態度にモチベーションが低下し今にも帰宅しそうな様子だった。

 このまま参拝を続けるか迷っていると後ろから声を掛けられる。


 「やっと見つけた!こんな所で何してたの?」

 「姉貴!?なんでここに?」

 「あんたには聞いてない、歩ちゃんこんな奴と何してたの?大丈夫?何かされてない?」

 「う、うん、大丈夫。それより絵梨ねぇこそ良くここに居る事分かったね?」

 「花屋の美月ちゃんに聞いたの、あの子可愛いよね~!」


 兄弟揃って歩の心配をしてくる辺り流石としか言いようがなかったが絵梨の登場に頭が痛くなってきた。


 「ホントあんたって気が利かないよね?こんな可愛い子こんな所に連れてきて。歩ちゃん、私と新しく出来たクレープショップに行かない?」

 「あぁ、うん、いやあのね。絵梨ねぇ顔近いよ?」

 「この距離が歩ちゃんと私の距離でしょ?私がご馳走してあげるから行こっ、ね?」

 「やめろって姉貴、歩困ってるぞ!」

 「あんたまだ居たの?帰っていいよ。」

 「度が過ぎてるって、歩見て分からないのか?」

 「そんな事無いから。あんたには関係ないでしょ、黙ってて。」

 「絵梨ねぇ!兄弟でしょ?何で仲良く出来ないの?仲良く出来ないなら私どこにも行かないよっ!」


 歩は兄と仲が良いので、例え絵梨が男を嫌いでも唯一の弟に対する態度が理解出来ずつい言葉が強くなる。

 親しいと思っていた相手から突き放される様に言われ呆然としてしまう絵梨だった。


 「だってこいつ男だし…。」

 「だってじゃないよ、たった一人しかいない兄弟なんだよ?」

 「私にとっては歩ちゃんが兄弟いや、姉妹みたいなものだから、歩ちゃんが居ればいいの。」

 「ん~、もう絵梨ねぇなんか知らない!勇吾行こっ。」

 「あ、あぁ。」

 「待って、分かったから、仲良くするから怒らないで!」

 「ホントに?」

 「ホントにホント!」

 「じゃあ三人で行こっ!」

 「「えっ!?」」


 歩の提案に兄弟は声がハモる。勇吾と絵梨はお互いの顔を見て苦笑いをしたーー。




 絵梨は勇吾の同行を渋々了承して三人で行動する事になった。

 絵梨が言っていたクレープショップは電車で二駅行った所にあるショッピングモール内にあり、三人は駅まで移動した。


 「クレープとか久々だな~。」

 「それがねメニュー豊富でアイスのトッピングが美味しいんだって!」

 「え~!ベリーベリーバニラとかあるのかな?」

 「勿論有ります!」

 「やったー!楽しみ!」

 「姉貴詳しいな?」

 「歩ちゃんの為に調べた。好物は前から知ってるし。」

 「そ、そうなんだ。」


 歩と絵梨はすっかりクレープの話題で盛り上がり、勇吾は蚊帳の外だった。

 駅に着いた三人は電車が来るまで少し時間があり待合室で待つ事にした。


 「ちょっとお化粧直してくるから待っててね。勇吾、歩ちゃんに変な事したら分かるよね?」

 「しないからっ、早く行ってこいよ。」


 絵梨は勇吾に釘を刺しつつ席を立つ、二人だけになったのを見計らって勇吾が話かける。


 「あのさ、怒るなよ?」

 「いきなりなんだよ、俺が怒りそうな話題なのか?」

 「歩、今の体受け入れたのか?」

 「どう言う意味だよ?」

 「姉貴の前だと女の子らしいって言うか…。」

 「その事か、昨日家に帰ってから朝に勇吾と会うまで色々とあったからな。」


 昨夜は母に言葉遣いで叱られ、朝は絵梨に不審がられて一々面倒にならないように事情を知らぬ者の前では猫を被る事にしたと語る歩、その目は明後日の方向を見ていた。


 「そうか…、でも俺の前では素のままでいいからな。」

 「そう言ってくれると助かるよ。女言葉で喋ると鳥肌立つんだよな。」

 「大丈夫、その内慣れてくるさ。」

 「何を証拠に大丈夫なんだよ、それに慣れたくないし。」

 「でもあの姉貴を手玉に取るなんて凄いな。」

 「手玉だなんて聞こえが悪りぃよ!」

 「歩様々だな、姉貴関係で何かあったら助けてくれよ。」

 「俺の助けは高いぞ~!」

 「何が高いの?歩ちゃんの分は心配しないで、私が奢ってあげるから!」

 「な、何でもないよ、そろそろ時間じゃない?」

 「あっ、ホントだ。じゃあ行こっか!」


 音も無く戻ってくる絵梨に今の会話を聞かれていないか心配になるも、特に聞かれた様子も無く杞憂で終わる。

 その後三人は電車に乗りクレープショップを目指したーー。






 ショッピングモールに着いた三人は目当てのクレープショップに行く。

 今日は休日と言う事もありモール内は家族連れ、カップル、友達グループ等沢山の人がいた。


 「やっぱり人が多いな。」

 「歩ちゃんはぐれたら大変だからちゃんと手を繋いでね?」

 「この歳で流石にはぐれたりしないから大丈夫だよ。」

 「でも心配だよ、こんなに沢山人が居て歩ちゃんに声を掛けてくる悪い害虫共が絶対いる筈。もし、はぐれて害虫共に拐われでもしたら私も後を追って死ぬから!」

 「凄い妄想だな、しかも歩が死んでしまう設定かよ。」

 「あははは…。」


 モールに着いて早々に絵梨の妄想が全開になり歩はもう帰りたくなった。

 結局手は繋がない事にしたが、常に歩の右側に立ち顔を見ながら歩いていた。


 「あ、あのね絵梨ねぇ、前見ないと危ないよ?それに皆こっち見てて恥ずかしいよ…。」

 「大丈夫、それより周りの害虫共の方が危険だから。」


 確かに絵梨の奇行にモール内ですれ違う人達は歩達を不思議そうに見ていた。ただそれだけでは無く、一際目を引く歩と絵梨にすれ違う男達は目を奪われていた。


 (姉貴は知らねーけど、やっぱり歩は可愛いんだな。二人共男達に見られてるのに全く気付いて無いのが面白いな。)


 勇吾は二人の鈍感ぶりを後ろから見て笑いを堪えていた。そう言う自分もすれ違う女性に穴が空く程見られているのに気付いてなく、見事な鈍感三人組であった。



 三人は目当てのクレープショップに着く。クレープショップはモール内のフードコートにあり、フードコートは家族連れで溢れていて座る場所を探すのに苦労しそうだった。


 「やっぱりどこの店も並んでるな、俺並んでるから場所取りよろしく。」

 「おう、じゃあ頼むぞ。」


 歩と勇吾は二人で行動する事が多かったので慣れた感じで役割分担をする。それを見た絵梨は少し面白くなさそうだった。


 「あっ、歩ちゃんあそこ空いてるよ!」

 「えっ、でもあそこは二人用だよ?あっちに四人用の席あったからあっちに行こう?」

 「あいつは逞しいからどこでも生きて行けるし、外のテラスで充分だよ。」


 フードコートにはテラスがあり夏場はそこで飲食する客も居るが今は十月、風は少し肌寒く誰もテラスに出ている人は居らずテーブルの周りには枯れ葉が淋しく溜まっていた。


 「絵梨ねぇ、仲良くするって言ったでしょ?」

 「でも私は歩ちゃんと二人で居たいの、あいつも悪い害虫の仲間なんだよ?一緒に居たら何されるか分からないんだよ?」

 「あいつはそんな奴じゃないよ、兄弟なんだから絵梨ねぇが一番分かってるんじゃないの?それより早くしないとあっちの席取られちゃうよ?行こっ!」

 「あぁ、そんなぁ。」


 歩は絵梨の返事を待たずに四人用の席を確保に向かった、二人っきりになる作戦は見事に失敗し絵梨は肩を落としながら歩について行く。



 (あいつらいい席取れたかなぁ、姉貴の事だから二人用の席選んでたりして。)


 勇吾の予想は見事に的中していた。そんな事を考えていると後ろから声を掛けられる。


 「あの、一人ですか?良かったら私達と一緒に食べませんか?」

 「はっ?」

 「お兄さん格好いいですよね!私達と一緒に遊びませんか?」

 「いや、連れが居るから遠慮しときます。」


 声を掛けてきたのは二人組の女の子で見た目からして高校生だった。勇吾は歩達が待っている事を伝え素っ気なく断る。


 「え~、いいじゃん!てか一人で並ばせるなんて私達だったらそんな酷い事しないけどね!

 「そうだよね、その連れの人酷いよね~、こんなに行列なのに。そんな人は置いて別な所行こうよ!」


 見ず知らずの何も事情を知らない軽い女達に歩と姉を悪く言われ、頭に来て強く言ってやろうとするがそこに歩が戻ってくる。


 「ちゃんと並んでるな、偉いぞ!」

 「おう、いい席あったか?」

 「バッチリ!絵梨ねぇ二人用の席に行こうとしたんだぜ。」

 「姉貴の行動は読み易いな…。」

 「しかも勇吾の事テラスに行かせようとしてたぞ。」

 「そこまでかよ!」


 歩が来る事によって最早相手にされなくなった二人組。歩を見て、互いの容姿を見ながら歩の可愛さに負けを認めて文句を言いながら去っていく。


 「なんだあの人達は、知り合いか?」

 「いや、逆ナンされた。でも断った。」

 「ええぇぇぇ!勿体無い、何で付いて行かなかったんだよ?結構可愛かっただろ?」

 「お前声デカイよ、皆見てるから止めろよ。それにああいう軽い感じの苦手なんだよな。」

 「そうなのか?俺だったら喜んでお供するけどな。」

 「今の歩だったら男しか来ないよ、後姉貴もか。」

 「弟を前にして言うのも悪いけど、どちらもお断りです。」

 「だろうな、姉貴の態度見てて少し引くわ。おっ、そろそろ順番だな、何頼むか決めておけよ。」


 勇吾はあまり食べる事が無いので適当に頼み、歩はトッピングにトッピングを重ね他のクレープより倍近い大きさになっていた。勿論、絵梨ねぇの分は歩が聞いてきていたのでその通り注文する。


 「お待たせ~、クレープの分は絵梨ねぇに出して貰ったからドリンク代はこっちで出しておいたから。」

 「そんな、私に言えばドリンク代も出してあげたのに歩ちゃんの分だけ。」

 「そんなに悪いよ、今日お小遣い貰ったし気にしなくていいよ。」 

 「くぅ~、私はなんて良い嫁を貰ったんだろうか、神様ありがとう!」

 「もう突っ込むの疲れちゃった…。しかもあんな神様に感謝するとは。」

 「こう言うのが信仰心かもな、そこだけは見習うか。」


 絵梨が自分達の知る神様に感謝しているのかは分からないが、その姿を見て見習うか否かを決めかねてしまう。




 三人はクレープを食べ終わるとモール内をブラブラ見て歩いた。絵梨はやたらと歩にピンク系の可愛い服を勧めてきてそれをやんわりと断る、それを行く先々で繰り返すので勇吾は永遠とリプレイを見せられてるようで頭痛を覚える。


 「そろそろ帰らねーか?姉貴と歩のやり取り見てるの疲れてきた。」

 「あんた一人で帰ってもいいよ。私達はまだまだ楽しむから。」

 「今朝の事でお袋に夕飯の手伝い頼まれてたの忘れたのか?そろそろ帰らないと間に合わないぞ。」

 「そうだった…、余りの楽しさに忘れてた。でもまだ帰りたくなーい。」


 『♪~、♪~、』


 絵梨が駄々をこねた瞬間絵梨の携帯が鳴る、着信相手を見て絶句して静かに電話に出る。


 「あっ、はい、、、いいえそんな事ありませんよ。そろそろ帰ろうとしてました、はい、はい、それでは失礼します。」


 歩と勇吾は誰からの電話なのかすぐ分かり、絵梨はサラリーマンの如く電話口でペコペコしていた。


 「歩ちゃんごめん、帰らなくちゃならなくなったよ。まだ遊び足りないでしょ?」

 「そんな事無いよ、今日一杯遊んで楽しかったよ。おばさんの手伝いがあるなら仕方がないし、帰ろっ。」

 「うわぁ~ん、帰りたくないよぉ。せめてお別れのハグさせて!」

 「いや、家まで一緒に行くし、人が見てるから!」


 絵梨が両手を広げて向かって来るのに対して歩は両手でそれを押し止める。結局その様子を周りの人達に見られ、勇吾は流石に他人のふりをしてしまった。



 三人はショッピングモールを出てまた電車に揺られ地元に帰って行った。

 駅に着いてすぐ絵梨の携帯が鳴る、ペコペコしながら話をしている姿を二人は静かに見守る。


 「うわっ、最悪。あのオカン最悪や!」

 「絵梨ねぇどうしたの?ちょっと関西弁入ってるよ。」

 「駅着いたらダッシュで帰って来いって。どこかで見てんじゃないの?」

 「俺も歩送ったら手伝うから頑張れ。」

 「うっさい、あぁぁ、もう!不本意だが歩ちゃんの事頼むぞ!何かあったら七代先まで祟るからな!」

 「分かったから早く行けよ、俺までとばっちり来るんだからな。」

 「じゃあ歩ちゃん、この埋め合わせはいつか必ずするから。」

 「あぁ、いや気にしなくていいから、絵梨ねぇ顔近いってば。」


 絵梨は二人に別れの挨拶をして猛ダッシュで帰って行った。




 「あ~今日は楽しかった、絵梨ねぇと話したの久々だったし。別の意味で怖かったけど。」

 「俺も姉貴と行動したの久々だ、ほぼ物扱いだったけど。」

 「勇吾気付いてたか?モール内の女達皆勇吾の事見てたぞ。」

 「それはこっちのセリフだ、男達皆歩に見惚れてたぞ。」

 「えっ、それって絵梨ねぇを見てたんじゃないのか?」

 「姉貴もだけど歩の方が男の視線集めてたぞ。」

 「やめろ~、気持ち悪くなってきた。」


 二人は絵梨と出掛けた事で昔を懐かしみ思い出話で盛り上がった。

 帰路の途中商店街に差し掛かった所で美月に声を掛けられた。


 「お~い、勇吾にいちゃん!」

 「おう、遊びに行ってたのか?」

 「ううん、お花の配達してきたの。二人はデート?」

 「ちげーよ、てか美月そこまで手伝いしてんのか?」

 「そうだよ、お父さん道間違えるから美月休みの日は美月が配達してるんだよ。」

 「どこの親父も情けないな、親の手伝いするなんて美月偉いな。」

 「あっ、う、うん。」


 昨日の事もあり美月は歩に対して遠慮気味だった。それを見た勇吾が歩の袖を引く。


 (あいつ昨日の事気にしてるからな。)

 (はっ?俺はそんなに怒ったつもりないぞ。)

 (子供はそんなもんなんだ。それと『ちゃん』付けで呼ばないとずっと気にするぞ。)

 (うわっ、メンドクセー!ホントかよ。)


 「ゲフン、あの、み、美月ちゃんお家の手伝いして偉いわよね。」

 「そ、そうでしょ?家のお父さん頼りないからね。男ってホント駄目よね~!」

 「そ、そうね~。男って駄目ね~。」


 歩の小学生相手に気を使ったぎこちない会話を、勇吾は横で聞いていて笑いを堪えるのに必死だった。


 「そう言えば朝に勇吾にいちゃんのおねえちゃんと会ったよ。二人の事聞かれて教えてあげたら抱きつかれてビックリしたよ。」

 「あの人は女の子だったら何でもいいのかよ。」

 「下手したら捕まるレベルだな。」


 二人は話もそこそこに美月と別れ家へと帰って行き、歩は家の前まで来た時に突然思い出した様な声を上げる。


 「あっ、明日学校だ。」

 「そうだな、それがどうした?」

 「単純に行きたくない。どうせ学校でも知らない設定ばかりだろうし、今転校生の気分。」

 「大丈夫だって、クラスの奴らは変わらないんだし何かあったら俺がフォローしてやるから。」

 「重ね重ねお願いします。まぁ、俺はそんなに目立つ存在じゃないし影薄いからいいかな。」

 「んじゃ、明日いつもの時間に。夜更かしすんなよ。」

 「はいはい、って親父か!」

 「じゃあな。」

 「んじゃね。」


 歩は家に入るとリビングから母の怒鳴り声が聞こえてくる、また父が怒らせたんだと予想しリビングへは行かず自室へと向かう。

 部屋に入るとそこには見慣れた人物がベッドに座っていた。


 「お帰り歩ちゃん、待ってたよ。」

 「うわっ!絵梨ねぇ、また来てたの?」

 「今日も怖い夢見そうだから一緒に寝よっ?」

 「姉貴また歩の部屋に居るんだろっ!?お袋また怒ってるぞ!」



 絵梨の再登場により目眩を覚えた歩。下からも窓の外からも怒鳴り声が聞こえ、朝から騒がしい休日は夜も騒がしく過ぎて行ったーー。




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