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第二話  いい加減な神様

 突然の出来事に膝から崩れた歩、まさか自分が女の子になってしまうなんてとても信じられなかった。

 「そりゃあ、彼女が欲しいとは願ったけど自分が彼女になってどうするんだ?自分が彼女で彼氏は俺??いやいや意味が分からない。そもそもなんでこんな事になったんだ?勇吾と神社に来て子供の頃の話して、いや今でも子供だけど。いや違う違う俺はもう大人に…、」


 跪きながらブツブツと喋っていていると勇吾が肩を揺すってくる。


 「おい、歩!大丈夫か!?気をしっかり保て!」


 勇吾の言葉にゆっくりと顔を上げ静かに口を開く。

 「大丈夫?気を保て?…大丈夫な訳ないだろ、どうするんだよこの体、何の呪いだよ?女の子になっちゃったんだぜ?もうマジ有り得ねーよ、一気に目の前真っ暗なんだけど…。」

 目は虚ろ、顔面は蒼白、息は絶え絶えになりHPは限り無く0に近かった。

 そんな状態を見て意を決して勇吾が歩の肩に手をかける。

 「だ、大丈夫だって結構、ってか歩かなり可愛いぞ!なんとかなるって!」


 確かに女の子になった歩は可愛かった、元が女顔だったがそれでも違う可愛さがあった。しかし勇吾の的外れな慰めに歩は目が点になり、直ぐ様涙目になっていく歩。


 「バッ、バカヤロー!そんな慰めいらねーよ!なんとかなるってなんだよ?可愛いかそうじゃないかで落ち込んでじゃ無いんだよぉぉぉばかぁぁ…。」

 握った拳を振るうが余りのショックに力は入らず『ポスッ』と勇吾の胸に入る。


 「ゴメン、何て言ったら良いか分からなくて。」


 混乱してるのは勇吾も同じでなんとか歩を慰めたかったらしい、勇吾のその一言で彼は彼なりに心配してくれていると気付く。

 「俺の方こそゴメン、馬鹿なんて言ったりして。しかも殴ったりして。」

 「大丈夫だよ、痛くねーし。」


 少し落ち着きを取り戻し立ち上がる二人、しかし歩は下を向いたままだった。勇吾が再び歩の肩に手を掛けようとした時、大きな音を立て本殿の扉が開いた。



 「おめでとうお主らはこの神社の百万組目の参拝者だ、それを記念して特別に願いを叶えてやったぞ。有り難く思いなさい。」



 そこに現れたのは腰が曲がり杖をついた老人だった。眉毛は目が隠れる程伸び、地面に付く位伸びた髭、おおよそ仙人と言う感じの外見だった。

 しかし仙人と違うのは縦に長い帽子を被り、着物の様な服装で、神主みたいな格好をしていた。

 

 「えっと、どこのおじいさんですか?」

 昔から無人だった神社で建物の扉には鍵が掛かっていた筈、それなのに中から出てきた老人を不審に思う勇吾。


 「わしか?わしはここの神社の神じゃよ。」

 「神?神って神様の神ですか?」

 「そうじゃよ、神々しいじゃろ?どっからどう見ても神じゃないかい?」


 いきなり出てきた老人は自分で神だと名乗り、おまけに願いを叶えた等と言ってきた。

 怪しい、どう見ても怪しい、神主の様だが良く見ると着物は薄汚れていて所々解れて破れていた。

 勇吾は歩に静かに耳打ちをした。


 「このじいさん近くの老人ホームから抜け出して来たんじゃないのか?自分で神様って言うし何かボケてるみたいだし。」

 「そうだな、騒ぎになる前に連絡しておかないとな。ったくこんな時に、こっちはそれ所じゃないのによ。」


 只でさえ困惑した状況の中、更に追い討ちを掛けるように現れた老人を迷惑そうに言い放つ歩。

 自分の事を無下にした発言を聞くや否や眉毛の下に隠れていた目を大きく開く老人。


 「そこっ!聞こえてるぞ、ボケてないっての!信じてないでしょ?儂ホントに神なんだから!普段は滅多に人前に出て来ないんだよ?有り難く思いなさい。後、そっちの女の子!可愛い顔してなんか言い方酷くない?女の子なんだからもう少しお年寄りに優しくしたらどうなの?」


 先程とは口調が変わり老人とは思えない勢いで喋り出す自称神様、少し気圧されつつも今の歩には『女の子』、『可愛い』は禁句で今度は歩にスイッチが入った。


 「じいさん何言ってんの?自分の事を神様とか言っちゃってさ、どう見てもボケたじいさんだろ?それに自分の事神様だって言う奴に限ってロクなのしかいないんだよ!こっちは心配して老人ホームに連絡取ってやろうとしてんだからそっちこそ有り難く思え!そもそもこっちはお取り込み中なの、長い人生経験で俺達がどういう状況か見て分からない?少し空気読んでくれない?最後に俺は男だ、女の子じゃねぇ!!」


 老人に負けない位の勢いで喋り倒し肩で軽く息をする歩。

 歩の勢いに唖然とする老人、強い口調で暴言にも受け取れるが老人は直ぐに笑い出す。


 「何で笑ってんだ?やっぱりボケてて俺が何言ったのか理解してないんじゃないか?」

 「ん~、やっぱりそうかな?じゃあ早めに老人ホームに連絡して…、ってどこの施設か分からないからな、警察に連絡するか。」


 二人が怪訝な顔をしていると老人は笑いながら喋り出す。


 「ちょっと待ちなさい、ボケてはおらんと言っておるではないか。儂が笑っておるのは、そっちの女の子の事じゃ。」

 老人は歩の方を指差し更に言葉を続ける。


 「『俺は女の子じゃねぇ!!』って、どう見ても女の子ではないか?女の子で無いならなんなんじゃ?それじゃあ儂が『俺は神だ、老人じゃねぇ!!』って言えば納得するか?ぷぷぷぷっ。」


 先程の歩を笑いながら馬鹿にした様子で真似をする老人、流石年の功?と言うべきなのか人を馬鹿にする様は年季が入っていた。

 勇吾は顔を引きつらせ苦笑いをしてたが何かに気付き歩の方を見る。

 歩はと言いうと下を向き拳を握りプルプルと震え、よく見ると伸びた髪の毛の間から真っ赤になった耳が見えていた。

 老人に殴り掛かろうとしていた歩を勇吾は咄嗟に押さえに掛かった。


 「おい歩、落ち着けよ、今の歩でもこんなじいさん殴ったらマズイぞ!それ位分かるよな?」

 「うるへー!俺はもう我慢出来ない、このじいさんの寿命短縮させて、ついでに俺も十五年と言う短い人生に終止符を打つ!こんな体になってしまって これから先、希望も望みも無いんだ。頼む、止めないでくれ!親友よ今までありがとう、そしてさよなら!」


 頭に血が上り何を言っているのか分からず犯罪予告に自殺予告、更には感謝に別れの言葉。ついでに言うと希望も望みも同意語です。


 「そこまで言われて止めない訳ないだろ!俺達親友なんだろ?姿形が変わろうが歩は歩なんだし、一緒に双星行くって言ったろ?俺一人で行かせる気か?」

 「双星に行くのは勇吾で俺は行くとは言ってない…、それに勇吾ならすぐ友達出来るだろ?」

 「まっ、友達はすぐ出来るかもな、でも俺の中での親友は歩だけだ!」

 「よく親友親友と連呼出来るな、こっちが恥ずかしいよ。」

 「歩もさっき親友よありがとう、さよならって言ってたじゃねーか。」

 「いや、それは何て言うか咄嗟に出た言葉だから。」

 「咄嗟に出るなら俺達やっぱり親友でいいだろ?親友として頼むから落ち着けよ。」

 「分かったよ、分かったからあんまり親友連呼しないでくれ。」


 勇吾のお陰でようやく落ち着いてきた歩、その顔はとても疲弊しきっていた。それもその筈、この短時間で色々な事が起こり、感情の浮き沈みが頻繁にあり誰しも疲弊しない訳が無い。


 二人の様子をまるで他人事のように頷きながら見ていた老人、歩が落ち着くのを見計らって声を掛ける。

 「まぁ、なんと言うか久々に人間と話をしたもんでなちょっとやり過ぎてしまったな。てへぺろ☆」

 「なんだよ『てへぺろ☆』って。あぁぁもう疲れた、構ってらんねー。じいさん警察行くぞ、その神様キャラは他所でやってくれ。」

 もう疲弊しきって構ってられない様子の歩。


 「なんじゃもう少し構ってもらいたかったがのぉ、それでは本題に入るか。さっきも言うたがお主らはこの神社の百万組目の記念すべき参拝者じゃ。」

 「それはさっき聞いた、百万組ってじいさんずっと数えてたのか?はっきり言って無理だろ?こんな小さな街の小さな神社でそんなに参拝者来る訳無いし、数十年掛かったとしても無理だな。」

 「確かにそうだな、初詣といっても毎年数百人程度だし普段は殆ど人来ないし、それこそ百万人なんて数百年掛かるだろうな。」


 老人の言う事を頭ごなしに否定する二人に対して溜め息をつき嘆く老人。


 「だから、儂は神だと言うておるじゃろが!現代人は神を信じ、奉り、崇めると言う事を知らんのか?それじゃから西洋の宗教に圧されるんじゃ、やれクルシミマスプレゼントだとかバテレンデーチョコだの、まったく嘆かわしい事じゃ!」


 「まぁ、じいさん見るからに仏教徒だもんな。でもさ、いきなり建物から出てきて神様は無いんじゃないの?神様って言ったら後ろに後光が射して、雲に乗って空から降りて来るもんでしょ?ちなみにクルシミマスじゃなくクリスマスね、更にバテレンデーでも無くバレンタインだから。」


 歩は神様のイメージを語り老人の発言にも突っ込みを入れる。老人は更に深い溜め息を吐き口を開く。

 「またこの子はベターなイメージしかないんだね、後光とか雲は地上に降りる際のオプションなの!分かる?あれって結構神パワー使うんだよ、大きい神社の神ならいざ知らず小さな神社じゃ神パワー貯まらないし、一々オプション設定してられないの!はぁはぁ。」


 またもや口調が変わり必死に説明して息切れをする老人。


 「じいさん西洋の言葉思いっきり使ってるぞ、しかもそこまで言うなら神パワーってやつ見せてくれよ。何かやったら信じるから。」

 「はいキタコレ、すぐ証拠を見せろとか言う奴!必ず居るよね?結局何やっても信じないパターンでしょ?やるだけ無駄、神パワーの無駄遣い。儂もう知らんぷり。」


 (あらら、いい年して拗ねちゃったよこのじいさん。)

 歩はそっぽを向いた老人に内心呆れているいと、勇吾が老人の元に寄り跪く。


 「彼女がとんだ失礼をしました。僕達いや、地上の人間達は無知にて無力。よろしければ神の偉大なるその御力をお見せ頂けないでしょうか?」

 「ほぅお主、少しは礼儀を知っておるようじゃな、そこまで言うのであらばしょうがない、では特別に見せてやるか。」


 勇吾は頭を下げてかしこまった態度を取る、老人はその姿に満足気に顔を明るくする。

 まったく面倒臭いじいさんだなと歩が思っていると老人は二人の後ろに生えている木を指差す。


 「あの木はえ~っと、椿の木じゃな。二人とも良く見ておれよ…、ほほいのほ~い☆彡」


 老人の持つ杖を木に向けると椿の花が次々に開化してあっという間に満開になった、二人はその光景を見て、おお~と声を上げる。

 しかし老人は二人が余り驚かない様子に不服のようだ。


 「今の見たじゃろ?凄いじゃろ?椿の花が満開になったぞさっきまで花なんか無かったじゃろ?これが神パワーだ、もっと驚きなさい。」


 今の二人に真偽は分からないが確かに花は咲いた、勇吾は歩に静かに耳打ちをする。

 (今の信じるか?)

 (微妙、花は咲いたけど手品じゃないのか?)

 (俺もそう思うけど何か普通じゃないよな。)

 (まぁ、それもそうだけどな。)


 二人とも神パワーを信じ切れない様子だった。歩は感じたままの事を聞いてみた。


 「じゃろじゃろうるさいけど凄いな、でもあれだけで神様ってのはちょっと難しいよな。手品じゃないのか?紐を引けば花が開く仕掛けとか、それともタイマーでもセットしてた?」


 歩の馬鹿にした発言に今度は老人が顔を赤くする。

 「ほら言ったじゃん!何やっても信じない奴、だから嫌だって言ったのに!神パワー無駄に使っちゃったんだけど?どうしてもって言うからやったのにどうしてくれんの?儂の神パワー返せよ!」

 「さっき俺の事馬鹿にしたからなお返しだよ♪ひひひっ。」

 「お主可愛い顔して鬼だな、神の儂ですら引くぞ。」

 「うっせ!!それよりも、もしじいさんが神様だって事は、ってまだ半信半疑だから!俺を女の子にしたのもあんたなんだな?」

 「それでも半信半疑なんだ…、しかし何を今更言っておるのじゃ?お前達の願いを叶えてやったんじゃぞ?何か不満なのか?」


 今の体に納得のいかない歩、それに対して願いを叶えたのに何が不満なのか分からない様子の神様。


 「俺はそんなお願いしてねーよ!兎に角さっきの神パワーで俺の体元に戻してくれよ。神様なんだから出来るだろ?戻してくれたら神様だって信じるから、それにこんな体じゃ家に帰れないよ!」

 「無理!」

 「即答すんなよ!女の子に出来るなら男に戻すのだって訳ないだろ?ねぇ~ん神様おねがぁぁ~い!」


 歩の頼みを即答で断る神様、それでも諦めず少し色っぽく喋るがどこかぎこちない。


 「さっき迄男じゃったからなちょっと微妙かの…、色仕掛けしても無理なものは無理なんじゃ。お前達の願いを叶えるのに莫大な神パワーを使ったし、だいたいさっきので神パワーほぼ使い果たしたからの、無理じゃ。」

 「えええぇぇ?何余計な神パワー使ってんだよ!てか、どうすれば神パワー貯まるの?何必要?教えてくれよ!」


 噛み付かん勢いの歩に驚いて後退りする神様だが優しく静かに語りだす。


 「昔じゃったら態々教える必要は無いんじゃが今の人間達は知らんのか。つまり信仰心が必要じゃ。儂ら神は人々の信仰心で出来ていると言っても過言ではない。人々が神を信じ、敬い、奉る事によって神は存在する事が出来、神としての力を振るう事が出来るのじゃ。」

 「なるほど、神様だから何でも出来る訳じゃないし力に限りもあるんだな。」


 納得したように腕を組頷く勇吾、更に続ける神様。


 「その通りじゃ。逆もまた然りじゃが、誰からも信仰心を得られず力を無くし消えていった神を幾つも見てきた。この辺りの人々は信仰心が有るようでな、儂も消えずに済んでいる。」


 神様の話を黙って聞いていた歩が静かに口を開く。


 「信仰心か、それを俺らが持てば男に戻れるんだな?……よしっ、信じた!あんた神様だな!さっきの凄かったよ、花咲かじいさんみたいでさ!」


 満面の笑みで神様を褒める歩だったがあからさま過ぎで、例えが良くなかった。


 「態とらしいにも程があるじゃろ…、そんな変に意識する事もないんじゃよ、『地上には空気があり、朝には太陽が昇り、夜には沈む』そんな当たり前の感覚でいいんじゃよ。いつも身近に神はおるんじゃからな。」

 「そんなもんなのか?フサフサの紙の付いた棒振り回したりは?」

 「いらん。それは御幣(ごへい)と言う物じゃ。」

 「生け贄とかは?」

 「もっといらん。」

 「賽銭は?」

 「いらん……事も無いが気持ちじゃ。どうしてもと言うなら仕方がないがの。」

 「賽銭はいらないっと。意外と簡単だな!」

 「簡単とはなんじゃ、敬う事が大事じゃと言うておるじゃろ。」 

 「はいはい分かりました、でも具体的にどうすればいいんだ?当たり前にって言われても分かんねーよ。」

 「簡単じゃ、神社にお参りすればいいだけじゃ。」


 難しく考えている歩に対しとても簡単な答えを出した。たったひとつの単純な答え、神社に参拝する事だった。


 「なんだ、やっぱり簡単だな神様もそう言ってるし。参拝するだけなら俺達でも出来るし、良かったな勇吾!」

 「そうだな。実際、問題を抱えてるのは歩だからな、良かったのは歩の方だろ。」

 「儂はお主の疑問に対し簡単な答えだと言ったんじゃ、神事と言うのはそんなに簡単なものではないぞ。そもそも「分かった分かった、要は信仰心を持ち、変に意識せず参拝すればいいんでしょ?」


 長くなりそうな話を途中で遮り歩なりの結論を出す。苦虫を噛み潰した様な顔をした神様は溜め息をつく。


 「なぁ神様、どれ位参拝すればいいんだ?いつ頃神パワー貯まるの?」

 「神パワーを買い物ポイントか何かと勘違いしてないか?まぁよい、最初にも言うたが今のお主達ならさしずめ百万回位じゃな。」

 「えええぇぇぇぇ!マジで?百万回?そんなの無理でしょ?最初に言ってたのホントだったの?神々の気紛れとかじゃなかったの?百万回とかマジで無理ゲーだ…。」


 境内に今日二回目の歩の絶叫が響く。落胆する歩に勇吾が声を掛ける。


 「俺ら互に時間がある時に神社に来ればいいだろ?一日に何回も来れば百万回なんてすぐだって。」

 「それはそうかもしれないけど百万回だぞ、気が遠くなるぅぅぅ。」

 「コホン、もう一度言うが最初に儂は百万組と言うたぞ?組だぞ組、お主ら二人で一組。一組の参拝で一回、分かったな?更に言うとなお主らで百万組目だと良いが他の参拝者も居るからな、その事も忘れてはいかんぞ。」


 神様のとどめの一言で目が点になり固まる歩、流石の勇吾もそこまで予想していなかったようで言葉にならないようだ。


 「只でさえ無理なのに更にハードルが高くなってしまった……。」

 「ははっ、流石にキツいな…。」


 かなりの難題に二人は肩を落とす、自分達で百万回参拝したとしても百万組目を逃すと全ては水の泡であり、また一からとなる。

 偶々百万組目で本人の希望通りでは無いものの神から女の子の体を賜ったのは事実。それを覆すのは人間にとってはとても困難を極める、しかし神は神であり決して鬼では無い、神様は二人に助言を出す。


 「儂も鬼では無いからの、一つ教えてやらん事も無い。お主らが参拝する事によって溜まった神パワーは隠さず教えてやるぞ、これは人前に姿を見せたお主らだけの特別じゃ。それともう一つ、これは重要じゃからしっかり聞いておくんじゃぞ!」

 「勿体つけずに早く教えてくれよ!」


 長々と喋る神様を急かす歩、するとまたもや溜め息をつく神様。


 「お主は人の話を黙って聞く事が出来んのか?折角神が直々に教えを説いておるのに、儂はこのまま帰っても良いのだぞ!」

 「うっ、それは困る……。も、も申し訳ございません神様、えっと貴方のその有り難い教えをもうちょっとお聞かせ頂戴ませ。」


 少し日本語がおかしい所があるものの神様は気にせず話し出す。


 「うむ、要は信仰心じゃぞ。適当に参拝しただけではお主らが死ぬまで無理じゃ、それこそ何百年とかかる。賽銭を奉納するのと同じで気持ちじゃからな。神を信じる気持ちがあれば百万回もかからんかも知れんぞ。分かったかの?」

 「分かりました。では明日からお邪魔しますのでよろしくお願い致します。」

 「お、お同じくお願いします!」

 深々と頭を下げ挨拶をする勇吾、それに追従する様に慌てて頭を下げる歩。神様はそれを見て満足気気に頷く。


 「よしっ!では儂は帰るからな、見たいテレビあるし、腹も空いてきたしな。一先ず今日の所はさらばじゃ!」

 「テレビって…、大分人間味溢れた神様だな。てかちょっと待ってくれよ神様!」


 帰ろうとして本殿に入り掛けた神様を呼び止める、体はそのままにして顔だけで歩を見る神様。


 「まだ、何か用か?儂急いでるんだけど。」

 「すっかり忘れてたけどこの体のままじゃ家に帰れないし、皆大騒ぎになっちゃうよ!」

 「なんじゃそんな事か、儂は神じゃぞそこら辺はバッチリじゃ。もう呼び止めるなよ、じゃあの☆」

 「あっ、ちょっと待ってよ!何がバッチリなんだよ!」


 神様は本殿に入り再び大きな音を立てて扉を閉めた。歩は直ぐ様本殿の扉を開けて中に入る、中は八畳程の広さで神事等で使う神具しかなくそこに神様の姿は見当たらなかった。勿論テレビ等も置いてはいなかった。

 辺りを確かめるが裏口の様な扉は無く神様は文字通り消えてしまった。


 「じいさん消えちまった……、ホントに神様だったんだ。」





 ーー姿を消す事でようやく信じてもらえた神様。



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