第一話 俺は俺だ!!
夕日に染まった街を、影を伸ばして歩く二人組の少年が居た。
伸びた影と言えど見るからに凸凹な影。
『凹な影の少年ーー三上 歩(みかみ あゆむ)
色白で、パッと見は女の子に見間違えるような女顔。その事を気にしてか前髪は目が隠れる位伸ばしている。
身長は155センチしかなく、クラスの一部女子からは女子扱いされている。』
『凸な影の少年ーー藤崎 勇吾(ふじさき ゆうご)
色黒で髪型は短く爽やか。身長順で並ぶと歩とは一番前と一番後ろの位置関係。
本人は自覚していないが所謂イケメンで学校のみならず他校にもファンが居るとか居ないとか。』
二人は幼馴染みで家も隣同士なのでいつも一緒に帰っていた。
とぼとぼ歩く二人は他愛の無い会話をしていた、ゲームの事やマンガの事、昨日見たバラエティー番組の事。
ふと勇吾が話題を変えてきた。
「なぁ歩、お前志望校決まったか?」
「決まったようなまだのような。」
俺は曖昧な返事をした。
「そろそろ決めなくてもいいのかよ?」
「俺は勇吾みたいに出来が良くないからな、俺でも入れる学校探すの大変なんだよ!」
拗ねたようにそっぽを向く。
眼鏡を掛け如何にも勉強出来そうな見た目の俺だけど、見た目とは裏腹に成績は平均以下、更にはスポーツも平均以下と言うポンコツっぷりだ。
それに引き換え勇吾は成績優秀、スポーツ万能、まさにマンガの主人公みたいな奴だ。でも今時そんな設定のマンガあったかな?
「勉強の事なら心配すんな、俺が教えてやるからよ。」
「俺の事はいいからほっとけよ!それより勇吾は志望校決まったのかよ?」
「俺か?俺は双星高校に行くつもりだけどな。」
「双星って言ったら県内でも有名な進学校じゃん、まぁ勇吾なら余裕で入れるよな。」
「お前だってやれば出来るんだからさ、一緒に双星行かないか?今までずっと二人でバカな事やって遊んできてさ、これからも一緒に居ようぜ!」
うわっ、コイツさらりと無茶な事言いやがる。
しかも『一緒に居ようぜ!』とか熱い事言うし、まぁそれが勇吾の良い所でもあるし、困った所でもあるけど。
勇吾は何かと俺の事を気に掛けてくれる。
去年の体育祭で俺は、全種目応援係兼留守番係(勇吾以外のクラスメイトの意見一致!!)する筈だったのにアイツは無理矢理色んな競技に参加させてくれた。
「俺と一緒に出ればフォロー出来るし、全種目不参加とか歩が可哀想だろ!」
そんな勇吾の一言で皆を納得させ俺も競技に参加させてもらえた。
ーー結果、俺が出場した競技は全敗。
皆の足を引っ張る所ではなく手まで引っ張り、例えるなら地獄の底から、生者を引き摺り込まんとする亡者の如くだったとクラスメイトに言われた。
それでも勇吾は自分の調子が良くなかったとか、組合せに運が無かったと言い俺を庇ってくれた。
思い出すと嫌な事しかなったけど、勇吾が凄い友達思いな奴だと感じた体育祭の苦い思い出ーー。
そんな過去を思い返していると、勇吾がまた話を振ってきた。
「所で歩の第一希望どこだったんだ?」
「『だった』って過去形にするなよ、双星なんて行けるわけ無いんだから 、、、俺は鳥見沢高校に行こうかなって思ってた。」
「鳥見沢って男子校だろ?女子の居ない所に行ってどうすんだよ?」
女子って、、、何時も勇吾目当てで絡んでくる女子達を興味無さげにスルーしてる癖にコイツの口から『女子』と言う単語が出てくるなんて以外だ。
「だって地元で近いし、共学に行ってまた女子から女子扱いされる嫌だし。俺の頭で入れるのあそこ位だしな。」
「大丈夫だって、高校入ってスポーツやれば背なんて伸びるし、さっきも言ったけど歩はやれば出来るんだから頑張れよ!」
「お前はさ、今までずっと一緒に居て何を見てたんだ?勉強もスポーツも何をやっても駄目、そもそもその上から目線みたいな親が子に言うみたいな言い方やめろよ!!」
俺は勇吾に噛みつく勢いで言った。
勇吾は笑いながら噛みつきそうな俺の顔を見ながら後ろ向きに走って逃げて行った。
(後ろ向きで走ってる癖に追い付けない俺って何なんだ、、、。)
じゃれ合いつつ歩き続けると家の近くの商店街が見えてきた。
俺達が住んでる街の真ん中辺りに位置し、あまり大きくないもののスーパー、薬局、マダム向けの洋服店等があり、何かあれば俺達はここに集まりよく商店街を徘徊していた。
商店街の入り口に差し掛かった所で、勇吾が言った。
「ちょっと寄り道していかねーか?そこの神社に行こうぜ。」
「はっ?神社?なんでだよ?」
「いいじゃん、俺らの秘密基地まだ残ってたかな?」
「ああぁ、そう言えば中学に上がってから遊びに行かなくなったもんな。んじゃ行ってみるか!」
商店街入り口を左に行くとちょっとした山がある、そこの麓に小さいけれども神社がある。
かなり古くからあるみたいで地元の守り神様みたいな感じで、商店街周辺に住んでいる人達に大切にされている。
無人ながらも本殿や社殿もあり、毎年夏には盆踊り大会も開催される。
俺らは無人の神社を良い事に秘密基地を作ったり、山の中を冒険ゴッコしたりして良く遊んだものだ。
鳥居を潜り抜け石段を上がり境内に入る俺達、無人の割に雑草等は生えておらず木々は綺麗に切り揃えてあった。
「以外と綺麗だな、魚屋のおっちゃん頑張ってるな~。」
魚屋の店主を感心する勇吾。
「何年か前、家に順番が来た時は酷かったな。親父が枝切りすぎて皆からひんしゅく買ってたな。」
自分の親のセンスの無さを嘆く歩。
「そう言えば俺達が作った秘密基地ってどのあたりだっけ?」
「奥の建物の更に奥だった筈。」
と奥にある社殿を指差す勇吾。
「てかそんなに昔の事じゃないだろ、大丈夫かよ?」
「なんて言うか~、子供の頃の記憶って曖昧だろ?それに俺も少し大人になったからさ、見えてくる風景が違ってくるんだよな。」
「そうなのか?目線の高さは変わってないだろ?」
「うっせーー!!中学三年間で3センチも伸びたんだぞ、3センチだぞ3センチ!どれだけ重要な事か、無駄にデカイお前には分からんだろーな。そもそもお前「分かった、分かった!俺が悪かった、帰りに歩の好きなアイス買ってやるからよ。」
またもや噛み付きそうな勢いの歩を遮って謝る勇吾。
「ホントに?ダブルでだぞ!」
「えぇぇ!?」
「ダブルじゃないと俺の怒りの炎は鎮められないからな!」
「分かったよ、まったく。」
「チョコチップクッキーとベリーベリーバニラだぞ!!」
「分かったって。」
「よっしゃ!じゃあ許す!!」
「はああぁぁ…。」
(全くどこが大人になったんだよ、アイスで機嫌良くなるなんて。)
アイスの一言で機嫌を良くする歩、それに対して一言余計だったと悔やむ勇吾。
「じゃあ先の楽しみも出来た所で、秘密基地探索隊しゅっぱ~~つ!」
一人ノリノリに声を掛けて奥に進んでいく歩、やっぱり子供じゃねーか、と突っ込みを入れそうになった所で口を紡ぐ勇吾。
「この辺りだな、って草ボーボーじゃん。」
「参拝客もこの建物の裏手までは来ないからな、手入れしてないんだな。」
歩が一際大きな木の前に立ち上を見上げた。
「確かこの木の上に見張り台作ったよな?」
「あぁ、俺が作って歩が『俺が先に見張り台立つー!』って言って、無理矢理見張り台に上がったよな。そしたら上がった途端すぐ崩れて真っ逆さまに落ちていったよな。」
「そんな事あったな!あれからだよな?俺の頭悪くなったの。やっぱり後遺症が残ってしまったか…。」
ボケたのか、本気なのか分からずツッコミ入れたらまた何かを要求されると思い、敢えてスルーを選んだ勇吾。
「でもあの時はホントに焦ったよ、気失って目は覚まさないし慌てて親父呼んだら大騒ぎになって、後からメチャクチャ怒られたし。」
「そこスルーかよ…、あの時の傷まだ残ってんだよな、ほら十字に傷あるだろ?」
髪の毛を掻き分けつむじ右側にある3センチ程の傷を見せる歩。
「ホントだ、ハゲてるハゲてる。」
「ハゲじゃねーよ、名誉の負傷だ。」
「戦地に立つ前に怪我してんじゃねーよ。」
「うっ…、って元はと言えばお前がしっかり作らないからだろ!俺を傷物にしやがって!!」
「悪かったな、でも歩は男だから男としての責任は取れないし、ゴメン。」
「責任とか結構です、てか恐ろしいから真顔で言わないでくれる?」
二人が思い出話で盛り上がってる間に日は沈みかけ、辺りは薄暗くなっていた。
「暗くなってきたしそろそろ帰るか~。」
「そうだな、っとその前に合格祈願して帰らないか?」
「まだ受験もしてないのに早くないか?」
「いいじゃん、二人で双星に行けるようにさ。」
「まだ言ってるよ、俺は無理だけど折角来たから寄ってくか。」
勇吾の提案に同意し、本殿へ向かう二人。
賽銭箱の前に立ちそれぞれ賽銭を投げ込み鈴を鳴した二人は目を閉じ、手を合わせ心の中で願いを唱えた。
(もう少し背が高くなりますように!それと頭も良くなりますように!後、俺より背の低い彼女が欲しいです!小遣いの値上げもお願いしますっ!)
矢継ぎ早に色々あれこれと図々しく願いを唱える歩、そんな中勇吾の事を思い出す。
(まぁ、勇吾と居るとバカな事やったりして楽しいし、出来れば同じ高校行ってこれから先も仲良くやっていけますようにっと!)
歩が最後のお願いをした時、何処からともなく声が聞こえてきた。
『ーお前の願い、叶えてやろうー』
しわがれた老人の様な声が聞こえ少し体を震わせて歩は耳を疑った。
(なんだ今の声は?勇吾はこんな悪ふざけしないし空耳か?)
歩が不信に思っていると隣に居た勇吾から驚きの声が聞こえてきた。
「ちょ、おま、なんだよそれ!てか誰だよ!?」
ふっ、と目を開け騒ぐ勇吾の方を向く、そこには驚きの余りそれ以上声が出ず口をパクパクさせる勇吾が居た。
自分の顔を見て何かに驚き、固まっている勇吾を珍しく思い声を掛ける。
「どうしたんだよ?何固まってんだよ?てか…、」
自分で喋っていて違和感を覚え途中で話すのを止める。
(何かがおかしい、さっきと声のトーンが違う。
声だけではない、頭が少し重い、足下が寒い、胸元が苦しい…。)
何が起きたのか分からず狼狽えていると勇吾が疑問を投げ掛けてくる。
「お前、歩か?」
先程まで隣に居たのに何を言ってるんだ?と不思議に思い勇吾の疑問に答えを返す。
「何いってんだよ?俺は歩だ!!ってやっぱり声がおかしい!!」
声だけでなく体に違和感を覚えあちこち触り体を確認する。
胸元まで伸びた髪の毛、膨らんだ胸元、体型のみならず服装も変わってスカートを履いていた。
「な、なな、なんじゃこりゃ~~!!これじゃまるで女の子じゃねーか!」
「歩何ふざけてんだよ!?てかいつの間に着替えたんだよ?」
「ふざけてねーし、女装の趣味なんかねーよ。ちょ、ちょっと待て、一応あっち向いてろ!」
反対を見るように言われ歩に背を向けると、数秒後に悲鳴に近い叫び声が境内に響いた。
「無いぃぃいいぃぃ!!」
悲鳴に驚き歩を背にしたまま声を掛ける。
「どうした!?何が無いんだ?」
「男性の象徴…。」
「象徴って、嘘だろ?まだふざけてんのか?」
「ふざけてないよぉぉ、どうしよぉぉぉお。」
ーーーズシャッ
最早半泣き状態でその場に膝から崩れ落ちてしまった。